![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/161741469/rectangle_large_type_2_1c8f1594b27f2fec670271904a3a3ff6.jpeg?width=1200)
ガイ・マディン&ジョンソン兄弟『Rumours』無能な国家首脳たちとAIに支配された世界
ガイ・マディン長編13作目。ジョンソン兄弟と一緒に映画を作るようになって10年近くになるが、新しい試みも時を経るごとに凡庸さが増してくる傾向にあるように思え(特に近作短編の縮小再生産ぷりは目も当てられない)、個人的にはそろそろ昔のような作品を単独で作ってほしいなあと。物語はドイツのダンカーローデで行われるG7サミットに出席した各国首脳たちを主人公としている。彼らは漠然とした"現在の危機的状況"に対して声明文を書こうとしているが、その実、それっぽい単語を並べて発言を誤魔化すような曖昧で中身のない議論を続けており、国家間の鍔迫り合いや首脳間の権力闘争すらない、ままごとに興じるおちゃらけたアマチュア政治家たちであることが一見して理解できる。一応のまとめ役をするドイツ、真面目だけが取り柄のイギリス、言葉の多いフランス、発言を求められない限り黙ってる日本、尊大で居眠りばかりのアメリカ、馬鹿なイタリア、スキャンダルと性的不和を抱えて悩むカナダというように、彼らの性格はそれぞれの国のかつての首脳たちと国民性のイメージから付けられているようだ(メタ的な言及もあり)。そんな感じで、ゆるふわ政治寓話をくどくど続ける上に、冒頭30分くらいはソフトフィルターなしで画面がパキッとしていて、まったくガイ・マディンらしさは見えてこない(強いて言うなら全員の危機的状況を救おうと立ち回るのがカナダ首相マクシムというのはカナダ映画らしいのかもしれない)。首脳陣は東屋でワインを嗜みながら危機に対する共同宣言の原稿を書こうとするが全く進まず、日も暮れた頃に使用人たちや秘書官たちが近くどころか屋敷にすらいないことに気付く。そして、身の危険を感じた首脳陣は独力で沼地を抜けて大通りに出ようと、暗い森の中を彷徨い始める。この森には皮膚や髪は完全に保存されているのに骨だけない"ボグマン"という鉄器時代の遺体で溢れており、しかも彼らの風習として豊作などの約束を破った酋長が生贄として殺されるというものがあったらしく、気が付けばボグマンまで森を徘徊し始める。ボグマンはもうちょい頑張れば如何様にも料理できたと思うが、出しただけで満足してた感がある。唯一のガイ・マディン的な人知を超えたモチーフとして巨大な脳みそが登場し、マクシムの元カノで欧州委員会委員長セレスティーヌが突如としてスウェーデン語に覚醒し、巨大脳みそに執着するというマディン的な展開を見せるが、これは後の展開から察するにAIが獲得した"脳みそ"のメタファーなのだろう。これも一瞬で退場するが、退場の仕方が面白いのでヨシ。
終盤で、唐突に"性犯罪者を補足する用の少女を装ったAIボット"が物語に乱入し、全ての黒幕であることが明かされる。どこまで彼女の思い通りに展開しているのかは不明だが、彼らが書けなかった声明文もいとも簡単に吐き出してしまう(内容は"オリンピックは3年毎開催に変更すべき"なのでアホではあるのだが)ので、首脳陣よりは頭いいという設定なんだろう。ただ、登場人物たちの中身のない会話がそのまま中身のない映画となってしまった結果、AI批判的なものすらも中身のない空洞ギミックとなってしまい、最終的に"恐怖に慄きながらも間違えながらも人間は前進できるんだ!"と少々ナイーブすぎる"希望的な"帰結へと強引に導くことになってしまう。もう意味が分からん。中盤までの政治風刺はどこいった?ボグマンはかなりストレートな批判ではなかったのか?ガイ・マディンの残り香を必死に探して、良かったと思いたい、悲しいファンがまたここに散りました。まぁ、現実にいる首脳たちよりは断然素直で正直なので、風刺としては毒気がないけど、まだこっちの方がマシかと思えるほど現実が加速度的に悪くなっているのは否めない。
追記
イタリア首相アントニオは欧州委員会を知らないほど馬鹿として描かれており、漫画でいう解説をスムーズにする馬鹿役のようにも思えてくる。ふと思い出したのは『HUNTERxHUNTER』で登場する十二支んのカンザイである。となると、イギリス首相カルドーサはチードルかな。他の人はあんまり当てはまらないかも。
![](https://assets.st-note.com/img/1731504637-XWEKGQCc7PxNrTw3gdh28Vzu.jpg?width=1200)
・作品データ
原題:Rumours
上映時間:104分
監督:Guy Maddin, Galen Johnson, Evan Johnson
製作:2024年(カナダ)
・評価:60点
いいなと思ったら応援しよう!
![KnightsofOdessa](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/9150278/profile_c472bdd13f22cf72eaa84f087c60e938.png?width=600&crop=1:1,smart)