見出し画像

ステファヌ・ブリゼ『Another World』ヴァンサン・ランドンの仕事と家庭の板挟み闘争記

2021年ヴェネツィア映画祭コンペ部門選出作品。ヴァンサン・ランドンを主演とした『ティエリー・トグルドーの憂鬱』『At War』に連なる労働者階級の苦痛に満ちた戦いシリーズの一本だが、これらの作品がカンヌに登場したのに対して、本作品はヴェネツィア行きとなった。冒頭で描かれるのは弁護士を挟んだ離婚調停の話し合いだ。ヴァンサン・ランドンと彼の元妻サンドリーヌ・キベルランが向かい合い、仕事を家庭に持ち込んで破壊した工場長とその妻が言い争う。二人は仲が悪いわけではないようで、なぜここまで話が拗れたのかを続くシーンんで解き明かしていく。場面は変わり、今度は職場で部下を60人くらい辞めさせろという言い争いをしている。今度は休憩中に機械を触って怪我をした作業員(部下)について現場で言い争いをしている。家に帰ってもパソコンに向かって頭を抱え、食事も画面にかぶりつきながらだが、なんらかの障碍を持つ息子との交流もあり、家族生活をないがしろにしているわけでもなさそうだ。

様々な立場の人間の間で板挟みになる中間管理職という、何と言うか、ほぼ『At War』と同じなんだが…という一言で片付けたくなるほど二つの作品は似ている。ランドンがスーツを着ているか作業服かの違いだけなので、正直混ざってても分からないと思う。とはいえ、本作品では争いが大きく分けて対家族、対部下、対上司の三種類存在し、それらを同時並行で進めていくので、テンポは良い。前作のような人と人のボケた頭の間から主人公を覗く、みたいな煩いショットはないが、その分記憶に残るようなショットもなく…

・作品データ

原題:Un autre monde
上映時間:96分
監督:Stéphane Brizé
製作:2021年(フランス)

・評価:60点

・ヴェネツィア映画祭2021 その他の作品

1. ディノチェンツォ兄弟『アメリカ・ラティーナ』イタリア、郊外に暮らす歯科医の幻想
2. ステファヌ・ブリゼ『Another World』ヴァンサン・ランドンの仕事と家庭の板挟み闘争記
3. ロレンソ・ビガス『箱』その箱に父はいるか?
5. ポール・シュレイダー『The Card Counter』過去から逃げ続けたある賭博師についての物語
6. ガブリエーレ・マイネッティ『Freaks Out』イタリア、ナチスと超能力バトル
7. パオロ・ソレンティーノ『The Hand of God』さようなら、私のマラドーナ
8. オードレイ・ディヴァン『あのこと』助けられない、でも繋がっている
9. ミケランジェロ・フランマルティーノ『洞窟』暗闇に隠れるシュレディンガーの猫的神秘
10. マリオ・マルトーネ『笑いの王』エドゥアルド・スカルペッタの後半生
11. ヤン・P・マトゥシンスキ『Leave No Traces』ポーランド、歴史に痕跡を残すこと
15. ガストン・ドゥプラット&マリアノ・コーン『Official Competition』アルゼンチン、これは風刺劇か茶番劇か
17. ペドロ・アルモドバル『パラレル・マザーズ』二人の母、二人の娘
18. ジェーン・カンピオン『パワー・オブ・ザ・ドッグ』マッチョイズムの終焉と新たな時代の幕開け
19. ヴァレンチン・ヴァシャノヴィチ『リフレクション』あるウクライナ人医師の破壊と再生の物語
20. パブロ・ラライン『スペンサー ダイアナの決意』"伝統に勝る人間はいない"のか
21. ミシェル・フランコ『Sundown』メキシコ、ただ太陽が眩しかったから…

この記事が参加している募集

よろしければサポートお願いします!新しく海外版DVDを買う資金にさせていただきます!