見出し画像

ショーン・ベイカー『ANORA アノーラ』ボンクラ息子&ガチギレ両親との対決

大傑作。2024年カンヌ映画祭コンペ部門選出作品、パルムドール受賞作品。ショーン・ベイカー長編八作目。NYのストリップ劇場で働くアニは、ロシア語が多少出来るということでロシア人客を担当することになり、ヴァーニャと出会った。アニにベタ惚れしたヴァーニャは彼女を自宅に招き、自分がオリガルヒのボンボンであることを明かす。そして、仲間たちと共にオンラインゲームとセックスとパーティ三昧の日々を送り、最終的に気分で訪れたラスベガスで結婚する。ここまではありがちな話だが、息子がストリッパーと結婚したと知った両親がガチギレ渡米を決意すると、ヴァーニャは大慌てでアニを捨て置いて逃げ出し、状況確認と結婚無効化のため先に派遣された三人のポンコツ部下たちと乱闘の末、アニは彼らとは別の目的を持ちつつ一緒にヴァーニャを探す旅に出る云々。オリガルヒとか出てくるし、マフィアみたいな連中に追われる話か…と思っていたが、ゲームとセックスしかしてないボンクラ息子が土壇場でアニを守る男気を発揮するはずもなく逃走するし、全員がほどよくポンコツで、基本的に口で戦うことを選ぶので、口汚く罵り合いはすれど暴力沙汰に発展することがないため平和に観ていられるのが良い。更にヴァーニャを探す四人の罵り合いは非常にコミカルでテンポもよく、場内は常に爆笑に包まれていた。そんな喧騒の中でも、明らかに苦労したことなさそうなボンクラと結婚しても大変なだけとは思うが、ああまで熱烈に彼女の存在を受け入れてくれた人間とその愛(に見えたもの)を、単純に嘘だったと思うことも、金のために切り捨てることも出来ない…というアニの複雑な感情を(主にイゴールとの掛け合いの中で)掬い取るのも忘れない。あのラストは、彼女が切ることの出来る全てのカードを切った瞬間であり、その先でも彼女を見ている人の存在に気付き、傷付いた自分をようやく解放できたのだろう。

LBで"マーティン・スコセッシがギャングに行ったことを、ショーン・ベイカーはセックスワーカーに行っている"というレビューがあった。それには同意しつつ、スコセッシを出したのはポンコツ部下の取りまとめ役であるトロスが想像以上にロバート・デ・ニーロに似てるのもあるだろう。キレても愚痴を零すだけで手は出さない"キレイなジャイアン"ならぬ"キレイなデ・ニーロ"か。

・作品データ

原題:Anora
上映時間:139分
監督:Sean Baker
製作:2024年(アメリカ)

・評価:90点

・カンヌ映画祭2024 その他の作品

1 . パヤル・カパーリヤー『All We Imagine as Light』ムンバイの重みに苦しめられる三人の女性の物語
2 . ショーン・ベイカー『ANORA アノーラ』ボンクラ息子&ガチギレ両親との対決
8 . マグヌス・フォン・ホーン『The Girl with the Needle』デンマーク、望まぬ赤ちゃん戴きます
9 . ミゲル・ゴメス『Grand Tour』結婚を前に逃げる男と追う女の"新婚旅行"
10 . ヨルゴス・ランティモス『憐れみの3章』
11 . キリル・セレブレンニコフ『Limonov: The Ballad』
12 . クリストフ・オノレ『マルチェロ・ミオ』父を演じ直し、父に近付く旅
15 . カリム・アイノズ『Motel Destino』ブラジル、暗殺を寝ブッチした男とパラダイス的モーテル
18 . モハマド・ラスロフ『The Seed of the Sacred Fig』イラン、"かつての家族を取り戻すために"
20 . コラリー・ファルジャ『The Substance』より良い自分を夢見たことがあるか?
22 . アガーテ・リーダンジェ『Wild Diamond』フランス、ある孤独なインフルエンサー少女の物語

いいなと思ったら応援しよう!

KnightsofOdessa
よろしければサポートお願いします!新しく海外版DVDを買う資金にさせていただきます!

この記事が参加している募集