20230429
多和田葉子『百年の散歩』(新潮社)を読み終えた。とても感銘を受けた。ドイツのベルリンの街に実在する通りや広場を〝わたし〟が〝ある人〟を待ちながら、道行く人に勝手に名前を付けて関係性を妄想したり、喫茶やレストランに入ってひたすら時間を潰す。しかし、そこには連想が数珠つなぎのように語られ、それはいつの間にか物語へと昇華される。これはわたしにとって、かなり理想的な形式だと思う。特に彼女は独語、英語、露語と様々な言語を扱い、詩人でもあるので韻やリズムで詩のように美しい文を紡いでいくあたりは流石。社会的な問題意識も高く、それは後半に連れて高まっている気もする。カントやマルクス、マヤコフスキーなど実在する偉人たちの名を冠した通りや広場で思考は自由に時も超える。小説にできることを余すことなくやり尽くした傑作だった。
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