20240206
雪は朝から雨に変わり、雪除けされた歩道や車道の脇に白く雪が積み上がっていた。それでも空気の冷たさは変わらず、曇天も相まってどこか重苦しい雰囲気があった。それもそれで冬らしくて良い。暦的には初春ではあるわけだが。
小川洋子の長篇小説『余白の愛』(中公文庫)を読んだ。突発性難聴を患った語り手が自身の病気をいかに克服したかを語る雑誌のインタビューで出会った速記者の指に心惹かれて交流していく恋愛物語。わりと初期の作品で、リアリズムと幻想的なエッセンスによるバランスがかなり歪に感じてしまうような、若さというか技術的な側面での未熟さが目立ちはするものの、今の作品に通ずるコアな部分は存分に発揮されていて、挿入される逸話の魅力やリーダビリティの高さはすでに確立されていた。身体の部位における描写も巧みで、出てくる料理や、胡桃ケーキやココアなど、一つひとつのアイテムがかなり自分の好みのもので彼女の世界観が好きなんだなと改めて思った。