20230529
雨の降る一日だった。ウィリアム・トレヴァー『恋と夏』(谷垣暁美訳、国書刊行会)を読み終えた。事故で妻と子を亡くしたディラハンの元に嫁いだ孤児のエリーが、彼女が住むラスモイという村にやってきたフロリアンという若い男と禁断の恋に落ちる様子を描くラブストーリー。架空の村ラスモイの人々の視点を移動しつつ、密やかながら確実に惹かれ合う二人の感情を瑞々しく描いている。御年八一だったというトレヴァーの筆力に感嘆した。しかし、個人的にはここに登場する、かつて仕えた名家の記憶を語り続け、痴ほうだと思われているオープン・レンという老人がキーパーソンになっているところに老練さを感じた。細やかな生活情景の描写で淡々とひと夏の村の全体像を描きあげる構造にも好感を持った。