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ロースト麹のメレンゲとみきヨーグルトのソルベを作る
GWですね。だからというわけではないですが、髪をバッサリ切りました。いまだ雨がちですが、晴れた日にはサラッとした風が首元を流れて気持ち良いです。長いのは長いので結べて楽、みたいなのもあるんですが、そうはいっても久しぶりにバッサリ切ると気分がいいですね。
あまりカレンダーと関わりの薄い生活をしているので、例年はGWといっても普段とあまり変わらないの生活をしているのですが、今年は法事で帰省したり、それにあわせて京都にリサーチ(という体のレストラン巡り)をしたりと、めずらしくちょっとGWらしい動きをしています。リサーチを兼ねて訪れたレストランについては追々書きたいなとおもいつつ、レストランレビューみたいなのは書きたくないしな……と書き方を悩んでいます。
みきヨーグルトのソルベを作る
先日の「発酵飲料みきの実験③」で作ったけど使わなかったみきヨーグルトがあって、せっかくなのでソルベを作ってみました。アイスクリームマシンはずっと欲しいと思っているのですが、自己冷却機能のあるものは結構値段もするし場所も取るしということで手を出せずにいます。というわけで、今回はアイスクリームマシンを使わない、比較的原始的な方法で作ります。材料は以下の通り。
水切りしたみきヨーグルト 200g
グラニュー糖 50g
レモン果汁 適量
材料はいたってシンプル。ヨーグルトの発酵度合いによって酸味が変わるので、レモン果汁で調整します。
ソルベを作るときに悩ましいのが甘味料をどうするか、というところ。アイスクリームと違ってソルベは油脂分があまり入りません。そのため、口溶けをなめらかにするにはトレモリンを使ったほうがよいのですが、そうするとどうしても甘さがくどくなります。トレモリンの主成分であるブドウ糖や果糖は、ショ糖よりもコクのある甘みを持つからです。もちろんそのほうが良い、という場合もあるのですが、ソルベはどちらかというとキレのよい甘さが求められる傾向にあります。口溶けをとるか、後味をとるかというところで悩むわけですが、今回は後味をとりました。
鍋にヨーグルトを30gほどとグラニュー糖を加え、軽く温めてクラニュー糖を溶かしておきます。粗熱が取れたら、ステンレス製のボウルに移し、残りのヨーグルトを加えて軽く混ぜます。
ステンレスボウルよりふた周りくらい大きいボウルに氷と塩を3:1の割合で入れ、ざっくり混ぜ合わせたら……
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ステンレスボウルをあてながら内容物を泡立てていきます。氷の結晶が大きくなる前にかき混ぜることでなめらかな質感を得る、というのがアイスクリームやソルベの基本的な考え方です。液体はボウルと接している部分から凍っていくので、その凍った部分をこそげ取るようにして泡立てます。ちなみに、これくらいの比率で氷と塩を混ぜると凝固点降下と融解熱でだいたい-15℃くらいになります。
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5分くらい混ぜ合わせると、こんな感じにもったりとしてきます。これくらいになるとホイッパーだと混ぜづらいのでシリコン製のヘラなどに持ち替えます。
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さらに5分くらい混ぜ続けて完成。いったん冷凍庫に移しますが、冷凍庫の温度はアイスクリームやソルベにはちょっと低すぎる温度です。カップアイスのように食べるならいいですが、デザートに組み立てる場合は、直前に冷蔵庫に移して、柔らかく練ってから使う必要があります。アイスクリームマシンがあると、適切な温度でしばらく保温してくれて便利なんですけどね。
ロースト麹をつくる
ソルベの付け合せに薄焼きのメレンゲを作ります。薄焼きのメレンゲは皿盛りデザートではわりとポピュラーな付け合せです。日本だとOdeとその系列店Opusesの定番メニュー「グレー」が有名です(Odeではデザートではなく前菜として供されています)。薄焼きのメレンゲで中身を隠す、というのはそこまでオリジナリティのある表現ではないのですが、店内の空間設計やテーマカラーと結びつけてプレゼンテーションするところに上手さがあるなあ、と思います。
今回は、次のみきの実験用に購入した大麦麹が届いたので、それをローストしたものをつかってフレーバーをつけようと思います。ロースト麹はノーマの発酵本のなかで紹介されているものを参考にしました。
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麹は固まっているので手で細かくほぐし、バットに平らに広げます。160℃に予熱したオーブンで、1時間〜1.5時間ほどローストしていきます。加熱ムラを防ぐため、10分おきに軽く混ぜます。
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焼けました。これでだいたい80分くらい。焼けた麦の香ばしさとカラメルの甘い香りが混ざって、とてもいい香りです。胞子に覆われている箇所は色づきにくいようなので、大麦の表面が露出している部分が十分に色づいているかどうかと香りが焼き上がりの目安になると思います。
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グラインダーで挽いたあとふるいにかけて完成です。キャニスターに保存しておきます。
ロースト麹のモレとノット・チョコレート
ノーマの本には、ロースト麹を牛乳やクリームと一緒にミキサーにかけて作るモレ(と本には書いてあります)が紹介されています。モレ自体は乾燥唐辛子やスパイス、ドライフルーツ、ナッツなどをトマトやチキンストックなどの水分と一緒に石臼でひいたもので、メキシコ料理でソースや煮汁のベースとして用いられるものです。モレのなかにはチョコレートが入るものがあり、ロースト麹にはチョコレートっぽい香りがあるので、そのイメージでモレと名付けられているのだと思います。個人的には全く別物だと思うのですが……気になったので作ってみることにしました。
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ロースト麹は予めクリームに浸し、ふやかしておき、牛乳と一緒にミキサーにかけます。麹の種類にもよりますが、大麦麹の場合はでんぷんとグルテンの影響で結構もっちりとした仕上がりになります。非力なミキサーだと壊れてしまうかも。
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5分ほどしっかりと回して粉砕し、裏漉しします。
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できました。モレというからにはもう少し液状だと思っていたのですが、あまりに想像と違う仕上がりです。複雑な工程であれば自分のミスを疑うのですが、分量に誤りはないはずですし、失敗する要素がないので、これで正解なのかな、と思います。ただノーマの発酵本には致命的な分量のミスもあるので、油断ならないところです。
本では、牛乳と黒糖を足して火にかけ、ホットチョコレートのようでホットチョコレートではない「ノット・チョコレート」を作る方法が紹介されています。
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ロースト麹のモレ60gに対して黒糖15g、牛乳500gの割合で小鍋に注ぎ、70℃くらいまで温めます。
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できました。薄々気づいていましたが、これ、ようは麹の香りがする麦焦がしですね。麦の香ばしさと麹の柔らかな甘い香りが重なっていて美味しいのですが、幼少期によく食べていた「ムギムギ」というお菓子に牛乳をかけたやつの味にそっくりです。もちろんロースト麹特有の風味はあるのですが、ここまで見知った料理や材料と酷似していると、その特徴を繊細に感じ取るのはなかなか難しい。麹の香りのような細部がすべて「ムギムギに牛乳をかけたやつの味」という強烈な記号に吹き飛ばされてしまう、という感じでしょうか。
ノーマのドキュメンタリーで、新作のアイデアを出しあう試食会のシーンがあるのですが、そこでレネ・レゼピが見習い料理人の作った白子のフリットを「これは最高に美味しいフィッシュアンドチップスだ。最高に美味しいが、この店で出す料理じゃない」といった感じで一蹴していたのが印象的でした。ちょっと皮肉っぽい言い方で、見ているこっちがヒヤヒヤしてしまったのですが、いずれにしても慣れ親しんだ味との類似というのは、特にゼロから北欧料理を作り上げようとしていたノーマのようなレストランにとって、厄介な相手だったのではないか、と思ったりしたのでした。
ロースト麹のメレンゲ
さて、ロースト麹のパウダーができたので、これを使ってメレンゲを作ります。
卵白 卵2個分(約70g)
グラニュー糖 70g
粉糖 70g
ロースト麹パウダー 20g
メレンゲのレシピは非常にわかりやすくて、卵白とグラニュー糖と粉糖がすべて同分量です。今回はそこにロースト麹パウダーが全体の1割ほど入ります。ただ、ロースト麹パウダーの分量はもう少し多くてよかったかもしれません。
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今回は通常の卵白の代わりに乾燥卵白を使いました。乾燥卵白10gに水60gを加えて、ミキサーで泡立てます。
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軽く泡立ったら、グラニュー糖を3回くらいに分けて加えます。軽く角が立つくらいになったら粉糖も3回くらいに分けて加え、泡立てます。ピンと角が立つくらいになればOK。
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ロースト麹パウダーを加えてざっくりと混ぜます。
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シルパットに薄くのばして80℃のオーブンで焼きます。厚みによって焼き時間は前後しますが、4mm前後であればおよそ2時間くらい。
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完成です。結局80℃で2時間焼いて、そのあと60℃で1時間ほど乾燥させました。手で適当に割って使います。
みきヨーグルトのソルベとロースト麹のメレンゲを使ったデザートを作る
ヨーグルトとメレンゲができたので、これらを使ってデザートを組み立ててみます。ロースト麹は香ばしいくぐもった香りで、たしかにチョコレートっぽい雰囲気がないわけではありません。かつ、チョコレートほど味や香りが強くないので、そういう意味では他の食材と合わせやすくはあります。今回はたがいに相性のよいバナナとマンゴーをそれぞれロースト麹とヨーグルトにあわせるイメージで組み立ててみました。
料理の組み立て方には、補色対比のように味や香りの傾向が異なる食材を組み合わせる方法と、グラデーションのように類似した風味のものを組み合わせていく方法があるように思いますが、今回の組み合わせ方は後者にあたります。ロースト麹→バナナ→マンゴー→ヨーグルト、というように、継ぎ目を感じにくい組み合わせです。個人的な印象ですが、最近は、対比構造を作るようにいくつかの風味のブロックを組み合わせていく料理よりも、類似した風味を組み合わせて継ぎ目なく作られた料理のほうをよく見るような気がします。少量多皿が主流なので、ひと皿をブロックと捉え、コースで対比を作っていく、ということなのかもしれません。
マンゴーとバナナのムース
……とすこし話がそれましたが、早速パーツを作ります。
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マンゴーはメキシコ産のアップルマンゴーを使いました。皮を剥いたら……
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3枚におろして小さめの賽の目切りにし、レモンで酸味を調整しておきます。表面がキリッと酸っぱくなっているくらいにすると味のピントが合いやすくなるので、ちょっと多めに加えるのがポイント。
バナナはムースにして使うのですが、単体では香りが強すぎるのでマンゴーを加えます。賽の目切りのマンゴーと馴染みを良くするのが目的なので、マンゴーの味が前面に来ないくらいに留めます。
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バナナとマンゴーとクリームチーズをミキサーでピュレして……
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ピュレの半量くらいの生クリームを加えます。クリームは8分立て。
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絞り袋に入れてスタンバイ完了です。ピュレは裏ごししておけばよかったですね。
組み立て
パーツが揃ったので組み立てます。
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お皿にムースを絞って……
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ロースト麹パウダーを振ってから賽の目切りのマンゴーをのせます。ロースト麹パウダーは、ロースト麹メレンゲの風味を補強する目的です。
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ソルベをスプーンですくってのせます。お客さんに出すならムースとフルーツはしっかり冷やしておく必要がありますね。アイスクリームがどんどん溶けていきます。
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仕上げにメレンゲで覆い、ミントを飾って完成です。
穏やかな甘さと酸味にメレンゲが食感のアクセントを与えています。味にアクセントをもっとつけるならタヒン(チリペッパー)を少量入れてもいいかな、という気もしますが、このあたりは好みですね。マンゴーもバナナもロースト麹もわりとモヤッとした味なので、味がぼけないようにフレッシュマンゴーにはしっかり酸味をつけておいたほうがいいでしょう。みきヨーグルトも麹の影響か、通常のヨーグルトよりも酸味の角の弱い仕上がりです。ミントの爽やかな香りも必須かな、という気がします。
おわりに
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以上、みきのヨーグルトとロースト麹のメレンゲの試作、そしてそれを使ったデザートでした。
みきのヨーグルトはソルベにすると穏やかな酸味と円味がとてもいい具合です。そのまま使うならサワークリームのほうが風味がしっかりしていて使いやすいですが、デザートに組み立てるときにはとてもよい脇役として機能していました。メレンゲも甘さをもう少し抑えればあまり重くならずに(油脂を使わずに)軽やかな食感を加えられるし、湿気だけ気をつければ作り置きがしやすいので便利です。
僕はペストリーがめちゃくちゃ苦手なのですが、皿盛りデザートはそのあたりをなんとか避けつつ色々やりようがあるので楽しい。これからブルーベリーやプラムなどの旬がやってくるので、それらを使ったものも考えたいな、と思っています。
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