熊本史学会が研究大会 菊池氏遺跡や八代鷹場、西南戦争など最新の成果を報告
12月9日、熊本史学会秋季研究大会がくまもと県民交流館パレアで開催され、約30人が参加し、熊大の今村直樹准教授ら3人の研究者が最新の研究成果を報告した。
菊池市教育委員会の阿南亨氏は、10月に国史跡に指定する答申が発表された菊地氏遺跡の発掘調査について述べ、「北宮館跡」と呼ばれる遺跡から区画された建物群の存在や多数の輸入陶磁器を検出したことなどから、菊池一族または非常に大きな経済力を持つ有力者の館が存在していた可能性が高いことを指摘した。また館跡は当時菊池川に面しており、周辺には石を配置した船着場や神社などの宗教施設、市場などが存在することなどから、「菊池氏の一次文字資料が少ない中、中世前期菊地氏の本拠の実態の一端が分かった」とした。その上で、阿南氏は「東国から下向して守護職にまで成長したのは菊地氏が唯一。在地領主から守護職に発展していく過程を理解する上で、菊地氏遺跡は全国的にも非常に貴重であり、肥後や九州の中世史を語る上で欠かすことのできない存在」と指摘した。
県文化課の丸山大輝学芸員は「熊本県八代鷹場の空間構造と新田開発」と題して環境史の観点から、権力の象徴としての鷹場の空間構造を分析した。丸山氏は鷹場は平野部を中心としつつ城下町や街道、さらに海・河川・山地などの複合的な地形を含み、空間指定や禁漁(猟)は領境などの社会的基準ではなく景観を基準として設定され、鷹場内であっても百姓や町人の生産や生活と、鳥獣保護との対抗関係が存在するために、規制にある程度の差を設ける必要があったことを指摘した。百姓の生活や生産、あるいは領主の年貢収入などに直接資さない、「有用資源」とは限らない鷹場が、生活者や生産力が求める地域環境と対立する場合でも、近世を通じてあらゆる環境の優位に置かれ続けた以上、これを(江戸時代が)環境保護の理想として手放しに評価することはできない、と述べた。
熊大永青文庫研究センターの今村直樹准教授は旧熊本藩主の細川護久の西南戦争における行動や影響力について報告した。同戦争時に岩倉具視や三条実美らが旧藩主家の旧領地における「旧誼」関係を利用し、旧藩主らの鎮撫を期待したことについて言及し、旧藩士族らの西郷軍への参加自体は止められなかったものの、開戦前後から護久の存在は旧藩地で大きく期待され、実際に熊本に下向した際には旧藩士族らの西郷軍からの離脱や繊維喪失に一定の役割を果たした、と指摘した。その上で戦時下の旧藩地における護久の行動などから近代熊本の地域史を規定する「旧誼」の意義などについても評価した。
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