元優等生現問題児〜(5)延命治療〜
深夜1時、物音で目が覚める。母が帰宅したのだ。彼女はすぐ自室に入ったようだったが、洗面所に来る際に私が居間にいるのに気づき、一言私に早く寝るようにと告げてきた。私はなんとか食事の片付けを済ました後に自室へ入り、そのままベッドに倒れ込んだ。いらぬ考えが頭を支配してくる前に眠りに落ちようとしたが、そんな時に限って余計に目が冴えて眠れない。暗闇で携帯電話の光だけが私の味方だった。その日は結局明け方5時まで眠れなかった。
父は朝9時に帰宅したようだったが、私は案の定すぐには起き上がれなかった。11時頃、見かねた父が部屋にやってきて、昼食を取りに外へ出ようと言ってきた。ようやく起き上がった私は、着替えと洗顔だけさっと済ませた後にファストフード店へ向かった。母は既にもう外出しているようだった。店に到着するなり私は大人二人分ほどの量を注文し、食事にありついた。父の前だとどうしてもいつもよりも多く食べてしまう。話し過ぎてしまう。そんな私を父はそっと黙って受け止めてくれる。だけれどその父の目はいつもすこし哀しげで、私の話を聞いているようで聞いていないように感じる。私はそんな父といる時間が好きだった。壊れそうな心を何とか繋ぎ止めてくれる時間だった。