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魅力的な公園は「社会の潤滑油」? 街の“つながり”を変える新研究
最近、「駅前のカフェや図書館って、色々な人が集まる場所だよね」という雑談を友達としたんですが、ふと「でも実際、ああいう場ってどれほど“多様な人の出会い”を生み出してるんだろう?」と気になりました。何となく「公園はのんびりしてて、いろんな層の人が集まってそう」というイメージはありますが、実はそうとも限らないのでは……? そんな好奇心を刺激してくれたのが、今回紹介する論文です。スマホの位置情報を使って、人々が実際に“どんな人と出会っているのか”を分析しているんですよ。気になりますよね。
第1章 社会を豊かにする「ソーシャル・インフラ」の可能性
まずは、この論文の概要をかんたんにお話しします。テーマは「都市に存在する公園やコミュニティスペースなどの社会インフラ(ソーシャル・インフラ)が、人々の間に生まれる“多様な出会い”にどのような影響を与えるのか?」というものです。
社会インフラというと、道路や下水道のようなものを想像しがちですが、ここでいう「ソーシャル・インフラ」は図書館や公園、コミュニティセンター、カフェや書店など、人々の交流の場になりうる場所のことを指します。著者たちは、こういった場所が「多様な人々を繋ぐ架け橋」となる可能性に注目し、実際に利用履歴データを解析することで、その有効性や課題を洗い出したんですね。
第2章 スマホの位置情報で“出会い”を可視化する?
論文では、120,000人以上の匿名化されたスマホ位置情報を活用して、ボストン周辺にある356か所の施設(公園や図書館、カフェ、そして比較対象となるスーパーや郵便局など)に誰が訪れているのかを分析しています。すごいですよね、まさにビッグデータ。
とはいえ、「多様な人々が出会っているか」をどうやって測るのか、不思議に思いませんか? 著者たちは、訪問者の居住地区の平均所得や人種構成を推定して、その施設内で「所得の違う人との遭遇がどれくらい多いか」「人種の違う人との遭遇がどれくらい多いか」を数値化したんです。
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しかも、ただ単に「人が多いから多様になった」ではなく、“Baseline”として食料品店や郵便局などを比較対象にして、「公園」や「コミュニティセンター」「カフェ」などは本当に多様な人を結びつけているのか?」という部分までしっかり検証しているんですね。
第3章 意外!? 「公園」「コミュニティスペース」「カフェ」で違う“つながり”の力
3.1 所得の差を“飛び越える”公園とカフェ
論文によると、公園やカフェ(ソーシャルビジネス)は、所得の違う人が出会う機会を増やしている傾向が見られました。ざっくりいえば「いつものスーパーや郵便局に比べて、平均1.5~2.5%ほど“異なる所得層との遭遇率”がアップした」というわけです。「1.5~2.5%って少なくない?」と思うかもしれませんが、これは人種や所得がバラバラな都市部であってもなかなか侮れない幅らしいんです。
例えば、地域によっては+20%近くまで多様性が増した公園もあったとか。都心にある小さな公園でも「ちょっと休もうかな」と立ち寄ったり、夏祭りやマーケットイベントが開かれたりすることで、普段は絶対会わなかったような層の人と“すれ違い”が生まれるのかもしれません。
3.2 「コミュニティスペース」は逆効果? でも人種の交流は促進!
一方、コミュニティセンターや図書館などは、むしろ同じ所得層で固まりやすいという結果も出ています。「え、意外……!」って思いましたが、考えてみると地元密着型の施設って、その周辺住民が中心に利用することが多いですよね。すると、どうしても所得層が似通った人たちが集まりがちになるのかも。
ところが、人種の多様性に限って言えば、コミュニティセンターが意外にもプラスに働くケースも確認されています。つまり所得層は似ていても、人種が違う人同士は出会いやすいということ。著者いわく「社会インフラは万能の特効薬ではなく、種類によって効果が異なる。しかも周辺地域の特徴によっても変わる」んだとか。まさに「混ざるところは混ざるけど、そう簡単ではない」ってことですね。
3.3 富裕層エリアの公園は人種がバラけやすい?
もう一つ面白かったのは、富裕層が多い白人エリアにある公園ほど、人種間の出会いが生まれやすいという傾向です。なんとなく「高所得エリアは排他的なのでは……?」と考えがちですが、もしかすると「緑の多い魅力的な公園には、遠くからも人が来る」「イベントが開かれやすい」といった要因が影響しているのかもしれませんね。一方で、カフェや書店などは同じような層で固まる傾向もあったので、一概には言えないのが興味深いです。
第4章 これからの街づくりにどう活かす?
論文の結論としては、「全てのソーシャル・インフラが平等に多様性を育むわけではない。しかし公園やカフェなど、種類によっては出会いの幅を大きく広げてくれる可能性がある」ということです。しかも、その効果は場所の人口構成や所得分布によって大きく左右される。
もし私たちが、「もっと多様な人々と交流し、助け合える社会を作りたい」と思うなら、地域コミュニティの特性に合わせたインフラを整備する必要があるでしょう。例えば、公園の活用を推進したり、図書館にイベントを誘致したり。またカフェなどは“おしゃれで高級”なイメージばかりでなく、地元民も気軽に使える工夫をすれば、人種や所得層を超えた交流が生まれるかもしれません。
第5章 補足情報と今後の研究の可能性
ソーシャル・インフラ:図書館、コミュニティセンター、公園、カフェ・書店など、住民同士が交流しやすい空間や施設のこと。
モビリティデータ:スマホの位置情報を匿名化し、人々の移動パターンを統計的に分析したデータ。
著者・論文情報
本研究はTimothy Fraser (Northeastern University)、Takahiro Yabe (Purdue University)、Daniel P. Aldrich (Northeastern University)、Esteban Moro (MIT, Universidad Carlos III de Madrid) らによる共同研究として、Computers, Environment and Urban Systems誌(Elsevier)に2024年10月付で掲載されています。