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タイパ重視の時代に、人はなぜまだ文章を書くのか【書評】「無人島のふたり-120日以上生きなくちゃ日記-」

人はなぜ、文章を書くのでしょうか。

タイパが重視されるこの時代、効率的に人の記憶に残すのであれば写真や動画が圧倒的に有利だそうです。
心理学では「画像優位性効果」という言葉がありますが、人間の脳は言葉よりも図や写真の方がイメージとして伝わりやすく認識されやすいのです。

それでも人が文章を書く理由を、私はこの本で改めて考えることになりました。


本の紹介:「無人島のふたり-120日以上生きなくちゃ日記-」

https://amzn.asia/d/4E1FwAG

『プラナリア』で第124回直木賞を受賞した山本文緒さんの作品です。
山本さんはコロナ禍の2021年春、膵臓がんのステージ4bと診断され余命半年の宣告を受けます。
こちらの本は、宣告を受けてからお亡くなりになる数日前まで綴っていた山本さんの日記です。

なぜ書くのか?①自分を癒すため

冒頭のお話に戻りますと、私は人が文章を書くことの理由は大きく2つあると思っています。
まず第一に、自分を癒すため。
本の中に、こんな一節があります。

振り返ってみると、この日記を書くことで頭の中が暇にならずに済んでよかったとは思っている。何も書かなかったら、ただ「病と私」のふたりきりだったと思う。長年小説を書いてきてもういい加減「書かなくちゃ」という強迫観念から解き放たれたいと感じるかと思ったら、やはり終わりを目前にしても「書きたい」という気持ちが残っていて、それに助けられるとは思ってもいなかった。

「無人島のふたり-120日以上生きなくちゃ日記-(山本文緒)」

こちらを読んで改めて、「書く」ことは「癒す」ことだと思いました。
私は上の娘が産まれてから、毎年欠かさずしていることがあります。娘の誕生日に、手紙を書くことです。
それは娘へのメッセージという仮面を被りながらも、慣れない育児に奮闘し、葛藤していた自分を慰めるためのものなのです。
「あのとき怒ってごめんね」「あのとき一緒に泣いたよね」そんなことを書きながら、私は過去の自分と向き合うのです。
書きながら、なぜそんなことをしたのか?と思考を整理する。くちゃくちゃになっていた感情をほぐして、納得する。時には、当時の自分を許してあげる。

残された時間があとたった数ヶ月でも、病魔に侵されパソコンに向き合うだけで体力のほとんどが削られようとも、山本さんは書くことでご自身を癒していたのだと思うのです。

なぜ書くのか?②誰かの人生を動かすガソリンになるため

あえて引用はしませんが、山本さんの最後の日記で動悸が止まらなくなりました。
私はその日記で確かに「死」の訪れを感じました。
あまりに生々しく、思わず本を閉じました。
読んでしばらく経つ今も、まるで自分が経験したかのように「死」の恐怖に怯えてしまう瞬間があります。

山本さんの日記の場合は「死」ですが、もちろん逆に「生」を感じることもあるでしょう。
ひとは人生の中で何回かは、何かしたい!しなければ!と強い衝動に駆られるときがあります。
そのドライバーとなるのは、必ずしも自分自身の経験とは限りません。
私自身、今までの人生の岐路で大きなドライバーになったのは、本や記事に残されていた会ったことのない人の人生でした。
どんなにお金がある人でも、頭がいい人でも、1日は24時間です。経験できることは限られています。
そんな制限の中で、文章で書かれた他人の人生や言葉から衝撃的な「熱」を受けて突き動かされることがあるのです。

冒頭で書いた通り、効率的に人の記憶に残すのであれば写真や動画が圧倒的に有利だそうです。しかし、文章にはじわじわと脳みそに残り続ける「熱」がある。
文章はその人の過去をなぞり、整理し、感情をほぐす丁寧なプロセスを辿って作られるからこそ、その人がそのときに考えていたことがしっかりと腹に落ちます。感情の機微が伝わります。
だからこそ、瞬間的に記憶に変わるスピードは画像や動画に負けようとも、脳みその中でずっと冷めないじわじわとした「熱」を生みます。そしてそれは他の誰かの人生を動かすガソリンになるのだと思うのです。

まとめ:私がライターを志す理由

私がライターを志す理由のひとつは、コンサルタントとして企業や人を「伸ばす(成長させる)」ことより、彼らの歩んだ軌跡を「残す」仕事をしたいと思ったからです。
残すことで、後世の多くの人の人生に影響を与えたいからです。

ライターが書くものは自分自身のことではありません。取材する企業や人のことです。
だからこそ、いつでも暖かく、取材相手の過去をなぞってほぐして整理して、癒すことのできるライターになりたい。
取材相手の歩んだ軌跡を、自分色のフィルターを通さず相手らしさだけを映して透明度高く書けるライターになりたい。
そして、透明度は高いのになぜかそのまま見るより一段と実物をキラッと光らせる文章を書けるライターになりたい。

暖かく、透明度高く、そしてキラッと光る。
そんな南国の海みたいなライターになりたいなと思っています。

人はなぜ、文章を書くのか?その問いに改めて向き合うきっかけとなる本のご紹介でした。

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