♯12 帰宅
金曜日。帰宅。
学校で検定があった。そのせいでチャイムが5分遅れた。
いつもより下校時刻が遅くなった。
明日は朝からバイトがある。6時に布団から出なければ。
21時に教室を出る。
早く帰りたかったので誰よりも早く下駄箱へ向かう。
寒さでうまく靴紐が結べない。これでも昨日よりは冬ではない。
電車に乗る。
早く帰りたい。優先席に座る。多分座っても大丈夫。
小説を読む。新調したブックカバー。
思ったより大きい。いつか手に馴染むのだろうか。
一時間ほど経過し、一旦紙から目を離し車窓に目を移す。
飲食店は既に閉店し、いつもより深い闇に包まれていた。
窓には車内の様子がありののままに映し出されている。
あまりにも鮮明で、向こう側がホントの世界なのではないかと、こちら側が光の反射によって映し出された瞬間的な世界ではないのかと。
下車駅が近づいてきた。
時刻は22時。
急にバイトが嫌になる。明日からの4連勤が憂鬱だ。
このままずっと電車に乗ってやろうと考える。
夜の電車は、昼の世界とは全く違う世界へと向かっているのではないかと疑問に思うことがある。
もっとも、下車駅を乗り過ごしたことはないので疑問は確証には至ってないのだが。
予定通り下車駅で下車。ゲシャゲシャ。
駅から光の線をひいたように続く大通りはいつもの姿を見せずシンとしていた。
コンビニでホットスナックを買った。
人もいなかったので歩きながら頬張った。
家に帰りたくなくても足は動く。
いくら来てほしくなくても来る明日のように、自然に、機械的に。
空を見上げる。星は見えない。
工場が立ち並ぶこの町は星が見えないみたいだ。毎日見上げることはないので曇っていただけかもしれないが。
先人たちは星に願いをかけたり思いを馳せたりしていたが、星が見えない現代人はどうすれば良いのか。
規則的に並べられた街灯に思いを寄せれば良いのか。
風が強い。目が乾き涙が滲んできた。
街灯たちが放つ光の波紋が広がる。
眠たい。
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