戦略、ファースト
旭化成時代。
広島から大阪へ転勤した。
担当した建材グランデは販売店(施工店)さんから姿図というパネルについての製造指示書をいただき、旭化成でそれをコンピュータ入力する。そのデータが富士工場へ飛んで、製造指示書になる。
CIMだかCAMだかなんだか言ってたけど、忘れた。
何しろ90年代後半だ。Windows95は1995年に出たけど、あれはあくまで個人のノートパソコンの話であり、会社ではオフコンと呼ばれたオフィスコンピュータが主体、たいへんめんどくさい入力作業だった。
しっかり研修受けた人でないとできない、極めて属人的な仕事だった。
本来であれば、販売店(施工店)さんと工場がダイレクトにつながっていれば間違いもないし、その分納期が速くなる。
でも、当時の通信環境やらコンピュータ投資額を考えれば、「いったん旭化成の営業オフィスが紙で受け取って、それをコンピュータ入力し、工場へデータを飛ばす」のが現実的だったんだろうね。
事業利益向上策にはOE(Operational Excellence)、優れたオペレーションとSP(Strategic Positioning)、戦略的ポジショニングがある。相互がリンクし、ビジネスのアーキテクチャー(構造)を利益がしっかり出るように作る。
OEはbetter(より良く)を目指す。
SPはdifferent(違い)を目指す。
上記のグランデの受注システムは当時としては画期的だった。OEと言っていい。紙の姿図を工場へ郵送していてもおかしくないのだが、アナログの図をデータというデジタルへ転換するわけだから。
ただ、それがグランデのSP、販売戦略上有効に効いたかというと、残念ながら、ゼロだった。その証拠に、グランデ事業は長年赤字に苦しんだ挙げ句、事業撤退している(ぼくはその頃、旭化成を辞めていた)。
気をつけなければならないのは、OEはSPにつながらず、ややもすると自己目的化してしまうところにある。
その代表が、スーパーマーケットやコンビニ、ファミレスに代表されるセルフレジだ。
これらは、スーパー、コンビニ、ファミレス運営会社の利益構造を改善したかもしれない。人件費の削減という意味で。でも、顧客にとっての利便性はゼロ。
「袋お持ちですか。小は5円です・・・」も、SP(戦略的ポジショニング)を向上させない。むしろ下げる。
ブックオフは、「捨てたくない人の受け皿」という戦略的ポジショニングを取っている。そして、お客さん自らが商品を持ってきてくれる、というOEだ。仕入れが要らない。
このドンキのコピーは今年いろいろ見た中で秀逸。
「必要十分な機能を適切な価格で提供するドンキ」
というSPをしっかり訴求している。
ユニクロが広島市中区袋町で出発したとき、SP(戦略的ポジショニング)ありきだった。
「手頃な品質の服を、手頃な価格で」
これは、1984年当時画期的な戦略であり、「違い」だった。アパレルは一様に高かったのだ。服買う、となると、気合い入れないといけなかった。
いま、ユニクロ店舗に行くと、セルフレジがメインになっているが、このOEはSPがあってこそ。
B2Bマーケティングでは、MA(マーケティング・オートメーション)をセールスフォースにするか、何にするかといった議論が先に出てくるが、ぼくに言わせればそれらMAこそOEであり、導入したから利益が増えるわけではない。
何にせよ、一番に取り組むべきはSP、戦略的ポジショニング、違いをいかに生み出すかだ。戦略、ファースト。
その意味で、現在の流通(スーパーマーケット、コンビニ、ファミレス)はSP忘れのOEオンリーであり、いずれ曲がり角を迎えるはずだ。
このままでは、お客さんから見捨てられるから。