ちくわぶブランド戦略
身体のバランスが悪い。
簡単に言うと、風邪ひいたみたい。
年内まだ大きな仕事が3つ残ってる。寝込めない。
でも、ちゃんとした文章が書けない。
どうするか。
SNS投稿で「ちくわぶ」が上がってた。
ちくわぶという人、定期的に話題になるようだ。
メルマガ・バックナンバー検索したら、出てきた。
「ちくわぶブランド戦略」(2003年)。
あまりにバカバカしいので、シェアします。
今日はこれでかんべん。
ちくわぶブランド戦略
ちくわぶはどういうブランド・ビジョンを持っているのだろう。
そもそも、ちくわぶ開発者は何がしたかったのか。
ちくわぶ本人はどんな未来ビジョンを描き、日々過ごしているのか。
ちくわぶとちくわは世間で言われているように本当に血のつながりはないのか。
2年前、メルマガSurfin'読者と周辺でちくわぶ論争が起こった。
世界各地にてちくわぶムーブメントが熱く巻き起こり、渋谷109前たむろする若者たちの間にまで
「わぶってさ」「この前、わぶのやつが・・・」
と話題になり、一種の社会現象となった。某TikTokerからは共演依頼まで舞い込んだという。ちくわぶ本人はもともと派手なパフォーマンスを好まず、できれば地味に暮らしていたいタイプなので、予想外の騒がれように驚き、「しばらく旅に出ます」との書置きだけ残し、去った。
人の噂は75日、ぼくも忘れかけていた。と、ふらりとちくわぶが帰ってきたのである。
彼の顔をしみじみ見ながら、ぼくは職業柄、「ちくわぶのブランド戦略」について考え始めた。
●「ちくわぶ」はブランドか?
はじめに、マーケティング的定義をしておこう。
ブランドは商品そのものの中にはない。生活者・顧客マインドの中に結ぶイメージである。
また、よく勘違いされるが、ネーミングやロゴも、ブランドではなく、構成要素だ。
ブランドの定義は、「実現したい価値を具現化したもの」。
ちくわぶはどうか。
そもそも「ちくわぶ」はブランドか。カテゴリー名ではないか。しかし、そういうことを言うと、「おでん」社同僚のこんにゃく、糸こん、大根、ちくわ、はんぺん、玉子も、すべてカテゴリー名である。
京都の老舗では、店名がそのまま暖簾(のれん)となり、ブランドになっていることがあるが、カテゴリーがそのままブランドになる、というのは、おでん社メンバー特有の傾向のような気がする。
りんごでも、「おうりん」、「ふじ」など各自の名前がある。
話が逸れたが、ちくわぶは関西人のマインドには刺さっていない。
「なんや、それ?」である。1980年頃週刊文春で好評連載された糸井重里『萬流コピー塾』お題が「ちくわぶ」だった時、ぼくは「ちくわの正式名称がちくわぶ」と思っていた。
「ストーンズ」が正式には「ザ・ローリング・ストーンズ」、「エーちゃん」が「矢沢永吉」であるように、ちくわの「正式な」名前がちくわぶだと理解していたのである。
そう。糸こんにゃくなど、いつも「糸こん」と呼び捨てにされているではないか。それと同じだと。
しかしこれはぼくの勘違いであり、実は同様の失敗を焼肉屋でやったことがある。「せんまい」を「ぜんまい」と間違え、注文して出てきたものを見て、「変わり果てたお姿に・・・」と泣いた。
●ブランドはマインドの玄関でドアを開く働きをする
ブランドは、生活者・顧客のマインドに刺さり、ポジショニングをしなければならない。
ところが、ちくわぶは関東人、しかも、幼い頃からちくわぶを食べ続けてきた人以外のマインドにはなかなか刺さらない。テレビCFや雑誌広告で全国に流せばいいというものでもなさそうである。
ここで、ブランドの4つのステップをおさらいしてみよう。拙著『マーケティングに何ができるかとことん語ろう!』第2部第2章『ブランド』を引用する。
マーケティングとは、企業が伝達したい価値が正しく伝わるようにすることである。価値をメッセージとして伝達する。
そしてブランドは生活者・顧客のマインドの玄関ドアをノックし、開ける働きをする。ブランド・イメージが良いということは即ちこういうことを指す。ブランドが良く知られている、ブランド・イメージが良いと、玄関ドアを開けやすくしてくれる効果がある。
突然ピンポンされて、玄関に見知らぬ男が立っていたら誰でも警戒する。しかし、玄関に横浜流星が立っていたら、男性は知らず、多くの女性はドアを開けるだろう。
男性も、浜辺美波が立っていたら、ドアを開けるはずである。良いブランドはこれと同じ働きをしてくれる。
●ブランド、4つのステップ
ブランドは生活者・顧客のマインドで次の4ステップを踏む。
STEP1:刺さる
STEP2:ドアを開く
STEP3:玄関に上がりこむ
STEP4:座布団を出してもらい、座る位置を確保する
STEP1:刺さる
「刺さる」とは穏やかじゃないなあ、とあなたは思うかもしれない。
しかし、生活者・顧客は情報の氾濫の中で暮らしている。携帯は絶えずピーピー鳴り、インターネットからはがんがん得体の知れない情報が飛び込んでくる。You Tubeは相変わらずうるさく叫ぶ。情報の海にのまれているのと同じだ。そんな中、「刺さる」ことなしには、注意を向けてもらえない。玄関でピンポンされるイメージだ。
おや、だれか来たみたいだ。だれだろう。
STEP2:ドアを開く
のぞき穴から見てみる。良いブランド・イメージのようだ。前から噂は聞いていた。ドアを開けてみよう。
STEP3:玄関に上がりこむ
話を聞くと、なかなかいいやつだ。立ち話も何だから、まあ、上がってくれ。
STEP4:座布団を出してもらい、座る位置を確保する
君はずっと家にいていいよ。そこに座っていてくれ給え。
こうなると、ブランドはポジショニングに成功したことになる。
●ちくわぶがピンポンした
らどうなるか。
「こんにちは。ちくわぶと申します」
「『ちくわ+ぶ』? はいはい。どうぞどうぞ」
生活者は、ここで、各自「ちくわ」か「麩(ふ)」のどちらか(たいていは自分に一番なじみのあるもの)を連想する。
「ちくわ」か「麩」の仲間が来たと思って、ドアを開けてやり、玄関に上げ、さらには部屋の「ちくわ」座布団と「麩」座布団を用意。
「どうぞお座りください」
ところが、ちくわぶはいずれにも座らず、「ちくわぶ」座布団はないんか、と、言いだす。ここで生活者は混乱する。「なんだ、君、ちくわ(or 麩)さんとこの社員じゃないの?」
そもそもちくわぶの成り立ちが、「竹輪をかたどった麩」という伝説があるくらいで、independent(独立独歩)ではない。自分一人でハンドルを持っていないのである。かつ、本人自身の味で勝負する気もない。ちくわぶの味とは、即ち、おでんだしの味。食感ももちろんあるが、しかし、おでん鍋に入ってこそ実力が全開になる。
あくまでdepend(よっかかり)なのである。ブランド戦略を立てるにあたり、これはとても厳しい。
選挙はマーケティング戦略が勝敗を決める。無党派を多くの候補者が名乗ったのは、「政党」カテゴリーがout of trend(時代遅れ)で衰退したブランド・イメージを持っているからである。ところがそうなると候補者各人がパーソナル・アイデンティティ(PI)つまり個人としてのブランドをくっきりと持っていなければならない。ならないが、これが有権者にはわかりにくい。
Aさんはおでんでいうと「こんにゃく」みたいなもので、「こんにゃく」と聞けば、まずほとんどのひとがああ、ああいう人だな、とわかる。
しかし、無党派の、しかも「元サラリーマン」とかいう候補になると、ちくわぶのようなもので、鍋のだしを味わってみないと本人の味がわからないのだ。本人に味がないとは言わないが、ブランドとしての旗が青なのか、黄なのかわからない。別の言葉でいうと、「共有された文脈」がないと理解されないことちくわぶと同じである。
さて。ちくわぶのブランド戦略。白紙を残して、終了することにしよう。
あなたなら、どうしますか?
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