見出し画像

「である(being)」ことを確認するために

ロイヤル・ダッチ・シェル社はこのほど、ビジネスの寿命についての研究に着手した。

なぜ何世紀も生き永らえる企業が存在しうるのか。当初の企業目的が年を経るうちに変わったり、外的要因によってその市場から退場せざるを得なくなったりするにもかかわらず。

シェルがこの研究をするのには、もっともな理由がある。
この世界第二位の石油会社は、いまから百年後、石油会社というものがこの世に存在しえないことを知っているのである。

太字・阪本

『ビジネスを育てる』第4章「グッドアイデアだと思ったら時すでに遅し」(ポール・ホーケン、阪本訳、ディスカヴァー・トゥエンティワン刊)p.129-130からの引用。

「する(doing)」ことではなく「である(being)」こと

という節タイトル。

万博についての朝日新聞記事を読みながら、「すること」ばかりが先行しているなあと思った。

記事内にもあるが、70年万博では、開催に先立ち、小松左京、梅棹忠夫、堺屋太一など錚々たるメンバーが文明論の観点から「万博は何のためにやるのか」「どうあるべきか」についての議論がなされていた。小松左京自伝にそのくだりは詳しく書かれている。

ところが今回の万博は「やること」だけが優先されていて、「なぜやるの?」「どこへ向かうの?」の話が聞こえてこない。だから当然、共感が生まれないから、人気出ない。

これは一般のビジネスでも同じ。

ポール・ホーケンは以下のように続ける。

市場や世界の激動を生き延びてきた理由として、これらの企業が自らの企業目標「であること(being)」だ。
企業目標を「する(doing)」のではなく。自社のビジネスを、世界との交流方法と定義しており、ある特定の製品・サービスを提供することとは定義していないのだ。

カフェにせよ、アパレルショップにせよ、「自分の外の世界との交流方法」と考えている店は少ない。たいてい「うちの売りのケーキは」「うちにしかないドリンクは」「今シーズンのイチオシアイテムは」「スタッフのコーディネートを更新しております」

ネタが尽きたら

本日よりセットオフフェアが始まりました

6/25(火)〜 7/4(木)
上記期間でセットオフを開催しております

概要としましては
2点以上購入 10%OFF
3点以上購入 15%OFF
・・・・

行きたい場所やビジョンのカケラもない。

「いやいや、それってキレイゴトですよね?」

キレイゴトの何が悪い(笑)

50年前、海苔(のり)の養殖と鉄鋼業しかなかった場所を大規模に埋め立てた。その上に建築した。

オープンして40年。表向きは40年前と変わらない姿を見せているが、ウラに回ればボロボロだ。

塗料の経年劣化でしょっちゅう塗り直ししなければならないし、度重なる台風や地震のおかげで建築物も手直しのない日はない。保険料も上がる一方。地震が発生するたび、地盤の液状化が心配だ。

電球を多く使う。その数100万個とも1000万個とも言われるが、正確な数はわからない。演出に必要な色を出したいので、LEDに変えられないところもある。

毎日、必ず、どこかで切れる。切れたままお客様を迎えるわけにはいかない。だから閉園後、メンテナンス専門会社が丁寧にチェックする。もちろん開園中は持ち場のスタッフが電球切れに気づけばすぐスーパーバイザーに報告する義務がある。

お客様と直に接触し、体験を創造するのは全員アルバイト。2万人。最低時給だが、4月からは100円上がり、引き上げ後の基本時給は1100~1450円。

実家から通っているうちはまだいいが、結婚し、生活を立てていくとなるとやはり厳しい。厳しいから辞める、ではなくバイト掛け持ちでがんばる。清掃スタッフのおかげで園内にカラスが来ない。ゴミがないから。

アルバイトが施設内で動ける範囲は厳しく定められている。それ以外のエリアに入ることは禁止。仮に入ったら減点対象になる。

仕事への姿勢が悪いと、スーパーバイザーから雷が落ちる。

「やる気がないなら、ゲストに戻って、パークへお金を落とせ!」

年に一回、アルバイトたちを慰労し、感謝を伝えるイベントがある。

この日ばかりは本社社員が普段アルバイトたちの身につけているのと同じユニフォーム姿で接待してくれる。世界的に有名なねずみのカップルほか、アヒルも犬も勢揃い。

アルバイトたちはゲストに戻り、テンションマックスで楽しむ・・・とはいえ、無料ではない。何のことはない、時給で支払った給与をちゃんと本社はこれで回収するのである。

ねずみや犬などの「中の人」は身長制限がある。40年前と比較して体格が良くなった日本人にはなかなか厳しい。「中の人」探しも大変である。

もうおわかりと思うけど、そう、あのテーマパークです。「東京」とついてるけれど、実際は千葉県のあそこ。

築40年の老朽施設を使い、そして最低時給のアルバイトで「夢と魔法」体験を提供する。このビジネスモデル自体が「夢と魔法」に見えてくる。

ではどうしてこれが可能かというと、そう、文字通り「ゲストには現実を忘れ、夢と魔法を体験していただく」というブランド・ミッションがあるから。

ブランドとか言うと、「キレイゴト」と言われることがある。

「キレイゴトも大事ですが、やはり売ってナンボでしょう」

一見、説得力あるように見える。

でもね。

寒い冬の朝、あったかいベッドから起き上がるパワーをくれるのは「キレイゴト」なんだよ。

「キレイゴトに自分も参加している」という思い。これがなくて、どうして寒い中、電車に揺られて舞浜まで行ける?

「誰を笑顔にしたいか」がキレイゴトだとすれば、そのキレイゴトなしにはこのビジネスモデルは成立しないんだよ。

JOYWOWはキレイゴト言ってるとよく言われる。でも、キレイゴト言ってるから、今日までもった。

以下の記事(2022.3.27)から引用しましたが、いまでも同じ考えです。

キレイゴトというのは、時々、思い出し、メンバーみんなで「一つ」かどうか確認する必要あると思う。「である(being)」ことを確認するために。

いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集