◯◯とわたし
◯◯とわたし
という物語が紡ぎ出されるようになってはじめて、◯◯はブランドになる。
『東京會舘とわたし』(辻村深月)
のように。
大正11年11月に開館してから、東京會舘自体、さまざまな体験を経た。
開館10ヶ月後の大正12年9月1日、関東大震災。
幸い、火災は免れたが、建物は容赦ない被害を受けた。
宴会として使うための空調、電灯、調理設備、電話、衛生設備など破壊され使い物にならない損傷を受けた。
壊すのに100万円、再建復旧するのに100万円かかると見積もられた。
まさに、引くに引けず、進むに進めない状況に放り込まれた。
「うちが施工したんですから、施工費の半分、もたせてください」
侠気(おとこぎ)あふれる清水組(現・清水建設)が再建復旧工事を請け負った。
これも東京會舘とわたし(清水組)の物語だ。
そして、「被災した東京會舘」という建物の「わたし」の物語。
復旧なったが、太平洋戦争に向かう中、軍の設備として取り上げられ、「大東亜会館」と名前が変えられた。
戦後はGHQが占拠、アメリカ兵たちが昼間からバーにたむろするようになった。
マッカーサーが抜き打ち訪問し、
「なんだ君たち。真っ昼間から酒飲んで。けしからん!」
このおかげで「朝から堂々と飲める」一見ミルクに見えるモーニングフィズ(會舘フィズ)が生まれた。
モーニングフィズと「わたし」。
モーニングフィズを開発した「バーテンダー(わたし)」。
あるいは、太平洋戦争中、灯火管制の中で結婚式を挙げた「わたし」の物語もある。
フリッツ・クライスラーの演奏に胸を射抜かれた「わたし」の物語もある。
このように、「東京會舘」ブランドが強いのは、「わたし」と紡ぎ出される物語があるから。
JOYWOWが来年創業25周年記念パーティをやらせていただくのは、東京會舘の歴史に「JOYWOW(わたし)」も混ぜてほしいから。
一方、「アマゾンとわたし」というのは成立しないよね?(笑)
ぼくたちがアマゾンを利用するのは「便利」という「機能」を買ってるから。
「楽天とわたし」も成立しない。楽天出店者ならそれぞれ楽天との物語は紡いでいるかもしれないが、一般のお客さんは、機能を買ってるだけだ。
デジタルが進み、デフレが席巻し、コンビニやスーパーがPB(プライベート・ブランド)をどんどん出すようになって何が消えたか。
文化。
ブランドは、文化だ。
メーカーが丹精込めて育て上げる文化。
文化は、「◯◯とわたし」を紡ぎ出す。
まちがっても「セブンプレミアムとわたし」からは何の物語も生まれない。
PBを買う客は、機能を買っている。あるいは、「低価格」を買っている。
結果、どうなったか。
日本は貧しくなった。
経済的だけではなく、文化的に、貧しくなった。
◯◯とわたし
を紡ぎ出すブランドを、育てていきましょうよ。
これ、あとに続く子どもたちにとっても大事だと思います。