何でめし食ってる?
E. YAZAWAが溢れてる。
ニューオータニからホールへ向かう橋。
隣歩くスキンヘッド白スーツE. YAZAWAおやじ。いかつい。
電話鳴った。
「あい」不機嫌そうだが、おそらく本人的にはE.YAZAWAなのだろう。低音。
と、「あ。すんません! 今日お休みいただいてるんですよ。たきざわさん、店来てくれはったんですか。すんま・・そう、そうなんですわ・・・今日と明日、あい、あい、あーー、もうしわけないです。あい。すんません!」2オクターブくらい高くなって、極めて愛想良い。商売人の声。
店休んで来てるんだ。考えてみれば年末の土曜日、飲食店は書き入れ時のはず。その彼を休ませるパワーを矢沢永吉は。
そう思って見回せば、「集会」みたいに集まってる面々、たいてい自営業顔してる。18でファンになってからでも今年で51年、みな、70前後の年齢だ。
やんちゃ時代にくっついてそのまま結婚、とみられる夫婦も多い。ならではの味わいがあって、しっとりしてる。席についてもはしゃぐことなく、妻スマホでぷよぷよやって。夫寝てる。
席、「いっちゃんええやつ」取ったつもりが、いざ着くと、端っこも端っこ、見下ろす感じ。S席の上にはSS、アリーナってのがあるんだね。手挙げた時には売り切れてたのか。
円周の一部だから席も限られてる。6席。ぼくの左に2、右に3という布陣。
隣がどんな人かというのはライブでは割りと重要で、これが私設応援団だったらめんどくさい。私設応援団というのは、四、五人で組作って「エーちゃん!」と叫ぶ。すると周囲がチャチャチャ! と手拍子で応える、というやつ。会場あちこちでやってる。時にウェーブが時計回りにやってくる。
まあ、そういうので開演前盛り上がるんだけど、でも、隣でああいう風に叫ばれるとつらい。
ぼくの席、右も左も、誰も来ない。このまま来なきゃいいのにと思ってたら、左におっちゃん二人組が。かなり温度低い。マスクして。開演ぎりぎりに右隣り若者一人、その右にカップル。
このカップルというのが曲者で、女性がキャッキャはしゃぐ。四十代前半、男が五十代後半。「中小不倫診断士」の吾輩としては、お見通しなのだ。
この女、始末悪くて、ライブ最中もずっと何かしゃべる。バラード中しゃべる。キックしてやろうと思ったが何分届かん。席狭いからスキマない。
さて、いよいよ始まった。
イントロ鳥肌。これ、2001年ライブの一曲目と同じ『さまよい』。
「霧がひくくたちこめ〜」の歌いだし「きり」で涙出た。2001年より確実に、昨日の方が声出てる。
涙ぬぐって、気づいたら、隣の若い男の子も目頭。いい子だ。
それだけエーちゃんの声、持ってる。発してる。たましい。
これまで二回、エーちゃんライブ体験してる。今日が最高に声出てる。年齢重ねた分、歌もいい。響く。
終わった。ホンモノを体験した清々しさ。
橋の上で若者が弾き語りやってた。君、やってもいいけど、今日と明日はやめとこう。ここ通る人、つい数分前までホンモノの音楽全身に浴びてた。よけいに君の歌と演奏、しょぼく聞こえるから。
ニューオータニへ行き、ちょっとした確認取るためフロントへ向かう。来月泊まる。
ある男性とすれ違った。取り巻きと共に歩いてる。知った顔。誰だっけ?
フロントで用事済ませ、タクシー乗り場へ向かい気づいた。テレビほかメディアでよく見かけるリゾートホテル経営者だ。名前出したらみんな知ってる人。
顔がすごく汚れてた。だからすぐわからなかった。記憶とあまりにズレてた。彼は今日のエーちゃんのライブ、体験してない。体験したら、顔きれいになってたはずだ。
わかった。
2オクターブ高くなった居酒屋店主といい、今日会場埋めたみんなは、「自分が何でめし食ってるか」再確認した。
エーちゃんは見事に模範、見せてくれた。歌でめし食ってる。めし食うということは、最高品質へと磨き上げなきゃならん。明らかに2001年より2023年の方がエーちゃん、上がってる。オレたちも、上げなきゃ。
ぼくは何だ?
ライブの最中、あらためて。
何でめし食ってる?
書く。
うん。ぼくは生涯、書けなくなるまで、書き続ける。決めた。
エーちゃん、ありがとう。