牛を探せ!
どれだけ禅の悟りに近づいたかステップで示す「十牛図」。
細かい説明は省く。
一 尋牛(じんぎゅう):牛が必要であることに気づき
二 見跡(けんせき):外へ出て探し始める
三 見牛(けんぎゅう):見つけた
四 得牛(とくぎゅう):手に入れた
五 牧牛(ぼくぎゅう):飼い慣らす
六 騎牛帰家(きぎゅうきか):牛に乗って家に帰る
七 忘牛存人(ぼうぎゅうそんじん):牛の存在そのものを忘れてしまう
八 人牛倶忘(じんぎゅうくぼう):牛のみならず、人も、消える
九 返本還源(へんぽんげんげん):周囲の自然、人、世界とワンネスになる
十 入鄽垂手(にってんすいしゅ) :町に出て、後進を育てる
商いに応用してみる。
商いの応用で一番重要なのは
一 尋牛(じんぎゅう):牛が必要であることに気づき
わかりやすく翻訳すると
「いま、うちが取り組むべきテーマは何か?」
テーマが「牛」だ。
古本屋をやっているとしよう。
古本屋に「にぎわい」が必要だろうか。
必要ない。
お客さんにとって必要なのは、
第一に、自分のテイストに合った本があること
第二に、「こんな本もあったんだ!」というテイストを震わせてくれる書店からの提案
だ。
だとすれば、来店は、完全予約制にする。
事前予約段階で、「ああ、ヤマモトさんね。だったらこれとこれを用意しよう」と、店主が準備できる。
予約のない時はほかのことができる。自分の勉強なり店を閉じて取材に出かけるなり。
本好きが集まるコミュニティとしての場所に育てることができる。
つまり「お客さんの濃いテイストを震わせる」(これが牛)を尋ねる旅がこの古書店の商いといえる。
ところが「あるある」なのは
ふと開いたSNSで「PR講座やります!」という案内を目にした。
「PR手法」を「牛」と思ってしまう。講座に参加し、「牛を飼い慣らす方法(五 牧牛 ぼくぎゅう)」を得た。
六 騎牛帰家(きぎゅうきか):牛に乗って家に帰る
「家」は自分の商いだ。牛を応用しようとしても、牛の設定が間違っているから成果は出ない。
古書店ににぎわいを
というのがPRの成果だから。
町の中華料理をやっているとしよう。せいぜい20人来れば満席だ。
そんな店で、1万人のフォロワーが必要だろうか。
「いやいや阪本さん、1万人をファンベースにしておけば、そのうち何割かはアクティブなお客さんになってくれる。多いほど安泰じゃないですか」
これって、マス広告の論理だ。
2000年ごろ、インターネットが温度を上げ始めたころ、「ギャンブルみたいなマス広告と違ってインターネットなら丁寧にお客さんと対話できるよね」。
そこから、「メッセージを送っていいですか」と事前に許可(パーミション)をもらおうとする「パーミション・マーケティング」が生まれた。
やがてSNSが浸透してからはさらにピンポイントでお客さんと関係を結び、耕すために狭く濃いインタレストにフォーカスするフォーカス・マーケティングが提唱された(したのは阪本(笑)。そこからファンベース・マーケティングが生まれ、よなよなエールさんやJOYWOWは成果を出している)。
ところが、「インターネット前」およそ50年間に蓄積された「マス広告」のDNAは強靭で、2024年の現時点でもまだみんなの脳内に大きな顔をして居座っている。
アプリダウンロードが何百万!
とかね。ダウンロードしても使っているかどうかわからないし、削除されているかもしれない。大事なことは「インタレストに合致しているか」。
牛の見当違いといえる。商いがテーマ(牛)として取り組むべきはアプリのダウンロード数ではない。あくまでアプリは手段だ。
完全予約制の古本屋のような
きりりと解像度高い
牛
を探しましょう。