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ローバート・キーガン先生に聞いてきた免疫マップを用いる際の重要なポイントの話


7月23日にロバート・キーガン先生のIDGs特別セッションに参加してきました。

イベントページはこちら。

ロバート・キーガン氏といえば、成人発達理論の提唱者。ご存知の方も少なくないのではないかと思います。

私が、成人発達理論について知ったのは、今からもう10年前くらいになるでしょうか。

「なぜ人と組織は変われないのか ― ハーバード流 自己変革の理論と実践」という本を紹介してもらい、そこで知った形になります。

調べてみたら、初版が2013年とあるので、やはり10年くらい前。

当時の私は、ちょうど、子供の学びから大人の学びへとフィールドを移したタイミングということもあり、大人の学びというのは果たしてどういった形になっているのかということについて興味津々でした。

またちょうど、企業から、人材育成や人の変容についての依頼を受け始めたということで「これはまさにドンピシャの本だ!」と興奮したのを覚えています。

そして、存在を知ってから早いものでもう10年。

前々から、いつかキーガン先生の話を直接、聞いてみたい思っていたこともあり、今回、ついに直接お話を聞かせていただくけるということで、もうこの日をワクワクしながら待ち望んでいました。

【成人発達理論とは】

ご存知の方も多いかと思いますが、初めて聞いたと言う方もいるのではないかと思います。簡単に成人発達理論についての紹介を上記の本から紹介していきます。

成人発達理論とは、大人の知性がどのように発達していくのかを研究した結果、生み出された理論になります。

本書が出たのは、10年以上前のことですが、その当時において、30年以上にわたり、さまざまな大人の知性にまつわる研究の結果から、成人発達理論としてまとめています。

以下、少し長くなりますが、ポイントの引用です。

このグラフから読み取れることが二つある。  

●ある程度の規模の母集団について年齢と知性の関係をグラフにすると、緩やかな右肩上がりの曲線を描ける。すなわち全体的な傾向としては、人間の知性は、大人になってからも年齢を重ねるにつれて向上していく。そのプロセスは高齢になるまで続く。人間の知性の発達は、二〇歳代で終わるものではけっしてない。  

●同じ年齢層のなかでも、知性のレベルには人によって大きな開きがある。たとえば、三〇歳代の人が六人(図の黒丸)いるとすれば、その六人の知性のレベルが全員違っても不思議でない。四〇歳代の人より高い知性の持ち主がいる可能性もある。

ロバート・キーガン; リサ・ラスコウ・レイヒー. なぜ人と組織は変われないのか ― ハーバード流 自己変革の理論と実践 (p.29). 英治出版株式会社.


人間の知性の発達プロセスについて、現在わかっていることを簡単なグラフにして描くと、図1-3のようになるだろう。


●曲線がほぼ横ばいになっている「台地」状の箇所がいくつかあることから明らかなように、人間の知性はいくつかの段階をへて高まっていく。それぞれの段階ごとに、世界認識の仕方が明らかに違う。  

●知性の発達プロセスは、つねに均一のペースで進むわけではない。発達が急速に進む変革期と、発達がほぼ止まる安定期が交互に訪れる。変革期をへて新しい「台地」に達すると、ある程度の期間そこにとどまる場合が多い(それぞれのレベルの大枠の中で能力が精緻化したり拡張したりするケースはもちろんある)。  

●次の段階への変容を遂げるまでに要する期間(つまり、「台地」の上にいる時間)は、段階が進むにつれて長くなる。  

●曲線が次第に細くなっていくことからわかるように、高いレベルの「台地」に進むほど、その段階までたどり着く人の数が減る。  

ロバート・キーガン; リサ・ラスコウ・レイヒー. なぜ人と組織は変われないのか ― ハーバード流 自己変革の理論と実践 (p.31). 英治出版株式会社.

大人の知性には3つの段階がある  

知性のそれぞれの段階についてはあとで詳しく論じるが、ここではさしあたり、質的に異なる三つのレベルの違いを簡単に見ておこう。図1-4のように大人の知性の発達プロセスをグラフ化すると、三つの「台地」が出現する。図1-5は、それぞれの「台地」の特徴をまとめたものだ。


ここまでの話をまとめると、今日の世界では、それまで環境順応型知性で(言い換えれば「よき兵隊」であることで)十分だった働き手たちに自己主導型知性への移行が、自己主導型知性で(「自信に満ちたキャプテン」であることで)十分だったリーダーたちに自己変容型知性への移行が求められるようになっている。

要するに、働く人すべてが知性のレベルを次の次元に向上させる必要がある。  

では、人々に要求される知性のレベルと、人々が実際に達しているレベルの間には、どのくらい大きな落差があるのか? 

要求されるレベルに達することなど、そもそも無理な話なのだろうか? 

それとも、世界の複雑性が高まるにつれて、世界が高い知性の持ち主を生み出す力も高まり、そういう人物が増えているのだろうか?  

本書で言う知性を測る方法として、精密で信頼性があり、広く用いられているものが二つある(明らかに、IQテストではそれを測れない。IQテストの結果と知性の相関関係はきわめて薄い。たとえばIQが125以上ある人のなかには、知性が自己変容型に達している人もいれば、自己主導型や環境順応型にとどまっている人もいる)。

その二つの方法とは、ワシントン大学文章完成テスト(WUSCT)と、先に紹介した主体客体インタビューである(8)。この二つの方法のいずれかを用いた調査結果(そうした調査はそれぞれ数百人規模の被験者を対象としている)をメタ分析した大がかりな研究が二件実施されている。図1-7は、この二つの研究の結果をまとめたものである。

ロバート・キーガン; リサ・ラスコウ・レイヒー. なぜ人と組織は変われないのか ― ハーバード流 自己変革の理論と実践 (pp.49-50). 英治出版株式会社.

 この図を見てわかることが二つある。  

●二つの研究は、まったく別個の被験者を対象にした調査をメタ分析したものだが、結論は一致している。被験者の過半数(六割近く)は、自己主導型知性の段階に達していない。しかも、いずれの研究も被験者をみると、大卒中流層の専門職の割合が大きいので、社会のすべての層を調べれば、この段階に達していない人の割合はもっと大きいと予想される。  

●また、自己主導型知性の段階より上に到達している人の割合は、きわめて小さい。  

要するに、人々に要求される知性のレベルと実際に達しているレベルの間には、きわめて大きな落差がある。ほとんどの働き手は自己主導型知性の段階に達しておらず、ほとんどのリーダーは自己主導型より高いレベルの知性をもっていない。

ロバート・キーガン; リサ・ラスコウ・レイヒー. なぜ人と組織は変われないのか ― ハーバード流 自己変革の理論と実践 (pp.51-52). 英治出版株式会社. 


と、キーガン先生とそのチームは、このような形で、大人の知性の発達についてまとめています。

読んでみると、どれも、なるほどー、という内容ですよね。3つのタイプを読むと、いろいろな人の顔が浮かんできます。

そして「大人の学びの支援をしたい」なんて偉そうなことを言っていた私は全然未熟じゃないかということに気付かされます。。。


【免疫マップとは】


成人発達理論では、人間には大きく3つの段階があるとまとめられていますが、そうなってくると気になってくるのが、どうすれば自分の発達段階を高めていくことができるのかです。(何よりも私が知りたい。切実に知りたい。)

そこでポイントになってくるのが、免疫マップという手法になります。
こちらも簡単に引用してみます。

「免疫マップ」とは、「変わりたくても変われない」という心理的なジレンマの深層を掘り起し、変化に対して自分を守ろうとしているメカニズムを解き明かす手法です。

著者たちは、変革が進まないのは「意志」が弱いからではなく、「変化⇔防御」という拮抗状態を解消できないからだと説きます。

ロバート・キーガン; リサ・ラスコウ・レイヒー. なぜ人と組織は変われないのか ― ハーバード流 自己変革の理論と実践 (pp.49-50). 英治出版株式会社.

読んで字の如く、「免疫マップ」には、頭に「免疫」という言葉が付いています。免疫といえば、自分の体に病原菌が入ってきた際に、自分の体を守るために働く機能のことです。

病気から体の健康を守ると言う点では、免疫はとても重要な機能といえます。

しかしながら、キーガン先生によると、その免疫と似たような形で、我々の心が変容を必要とする時に、変わらないでいるようにと働いてしてしまう機能があると言います。

その自分の変革を妨げる機能と適切に関わることが、大人の発達においては重要となり、それを可能とするのが免疫マップということになります。

免疫マップでは、以下のような4つの段階で、変わりたいと思っているが、自分の変容を妨げる仕組みが無意識のレベルから働いていくと考えていきます。

1、改善目標(自分がこうしたいと思うもの、決意)
2、阻害行動(決意をしても、それを妨げるように現れてしまう行動)
3、裏の目標(決意の裏側で自分の内面が抱えている裏の目標)
4、強力な固定観念(裏の目標を生み出す強烈な信念)

イメージがつくように、本書では、二人の人物の変容を妨げているものを免疫マップに落とし込んだ情報が載せられています。

私も、過去、何度も改善目標を立てたものの、一向に変われないでいるという経験をしてきていることもあり、初めて免疫マップを知った時には、なるほどと唸らされたのを覚えています。

そして、早速書いてみようと、自分を実験台として、自分の変容を妨げるものに目を向けようとすると、おぞましいものを見てしまったような気持ちになったのを覚えています。。。
(ていうか、今、もう一度見ようとするとやはりおぞましいものがちらっと見えた気がします。。。)

【IDGsとは】

ちなみに、イベントのタイトルにあるIDGsについても説明しておきます。

IDGsとは、Inner Development Goals の略で、SDGsを推進する上で必要な組織やリーダーの内面の発達(Inner Development)を目指すムーブメントです。

北欧を中心に2020年からIDGsが提唱され、現在では世界各国でこのIDGsを推進、啓蒙するHubが立ち上がり、活動を行っています。

また、IDGsのムーブメントには、GoogleやIKEAなどといったグローバル企業もスポンサーとなり、この活動の推進を後押ししています。

https://idgsvideo240723.peatix.com/

世界中でSDGsをゴールに掲げて、取り組みを進めてきているものの、なかなか活動が進まず、期待する成果が得られないでいるという実態があります。

そこで、何がそれを妨げているのかと考えていった結果、人間の内面の未成熟さこそがそれを妨げているのではないかという点から生み出されたのがIDGsというコンセプトになります。

IDGsの重要性については、この動画で語られていますが。
出てくる人たちが成人発達理論のロバート・キーガン氏を筆頭に、心理的安全性のエイミーエドモンドソン氏、U理論のオットー・シャーマー氏が出てきていていますし。
学習する組織で有名なピーターセンゲ氏もこの活動を支援するなど、さながら世界中のHR業界を代表する権威のオールスターのような状態。

いかにこのコンセプトが世界中で大事になってくるのかというのが想起されます。

IDGsでは、以下の5つカテゴリーに人間の内面の成長を必要とする要素を整理しています。

1. ビーイング(自分のあり方)
2. シンキング(考える)
3. リレーティング(つながりを意識する)
4. コラボレーティング(協働する)
5. アクティング(行動する)

そして、5つのカテゴリーの中で、23のターゲットを設定しています。

この辺り、SDGsとタイトルとともに、構成まで、とても似たものになっています。

日本語での説明については、以下のサイトに詳しくあります。
ぜひこちらもご覧いただけたらと思います。


【イベント当日の構成】

当日は、以下のような構成になっていました。

  1)ご挨拶
  2)内面発達指標「IDGs」 とは、IDGsファウンダーからのメッセージ
  3)ロバート・キーガン教授・プレゼンテーション「IDGsを実現するためには ~ How IDGs are more likely to be accomplished?」
  4)枝廣淳子氏・プレゼンテーション「SDGsとIDGsの関係」
  5)パネルディスカッション
  6)日本でのIDGsの広がり
  7)まとめ

2時間のセミナーでもうこれ以上ないほどのモリモリ感。
今思い返しても、とっても贅沢な時間だったなと思います。

【キーガン先生の話で印象的だったこと】

キーガン先生のセッションでは、IDGsの重要性と、やはり免疫マップを用いて生まれたあるチームリーダーの変容の話を聞かせてくれました。

あるチームリーダーは、以下のような形で、チームメンバーから手厳しいフィードバックを受けていたのだそうです。

このフィードバックが届いた時は、本人、とてもショックだったようで、顔が青ざめていたという話をされていました。

そこから、なんとか変わりたいと、彼のチャレンジが始まったのだそうです。

そのチャレンジはたしか1年弱ほどの期間を必要としたという話でした。

変わりたいと決意をしても、なかなかスムーズに変わることができないという反応が繰り返されていった中で、免疫マップを用いて、ゆっくりと丁寧に自分の内面を掘り下げていきました。

定期的に繰り返されるコーチングセッションを通じて、自分の変容を妨げるもの、強力な固定観念と向き合っていったのだそうです。

その結果、最終的に、彼は自分の内面にある大きな根っこを見つけたと。
それは、何世代と自分の家柄を遡ると、貴族の家柄の出身であり、それが相手に対してフラットに接することができない要因だったとのことでした。

それに気づいてから、彼は大きな変容を遂げることに成功したのだそう。

1年後、彼に届いたフィードバックは、以下のように変わったとのことでした。

いやー、なんか素晴らしい言葉ですよね。。。
とても同じ人に向けて送られた言葉とは思えません。

きっとこのリーダーはとてつもなく苦しかったのではないかと想像します。それにより、多くのメンバーがこうやって豊かさを感じられるようになっているわけですから、本当に素晴らしいことだなと思います。

なお、このイベントはすでに終了してしまっているのですが、講演の内容やIDGsに向けての活動をぜひ多くの方に知ってもらいたいということで、今はアーカイーブの視聴チケットが販売されているとのこと。。

視聴チケットは以下から購入できますので、ぜひ見てみてもらえたらと思います!!


【私から質問させてもらったこと】


イベント終了後は、私が前々から気になっていたことであり、かつまた、今回の講演においての最重要ポイントでもあると思った点について聞かせてもらおうと、イベント終了後にキーガン先生のところに行ってきました。
列に並ぶこと10分程度でしょうか、ついにお話を聞かせてもらうこができました。

それが以下の質問になります。

私 「先ほどはありがとうございました。本当に素晴らしい実践の共有だったなと思います。こういった事例があるということを知ることができ、私は今、大きな希望を感じています。その中で、1つ質問があります。

あのケースは本当に素晴らしいと思いますが、ただ、ああ言ったケースは、必ずしも毎回生まれてくるものではないのではないかと想像します。

キーガン先生は、これまで数々のケースを目にしてきたと思いますが、うまく変容が生まれるケースと、思うように変容が生まれてこないケースの違いはどこにあると考えていますか。」

それに対して、キーガン先生はこのように返してくれました。

キーガン先生 「それは、参加者とコーチの関係性にあると考えています。

免疫マップの場合、ひたすら自分の内面を深掘りしていくことになります。これと向き合うのは、誰が行っても簡単なことではありません。

参加者が本当に変わっていきたいと思えるようにコーチは信頼関係を築き、自身が内面を深めていく活動を妨げることなく、そして進めていく支援をしていく必要があります。

そのためには、コーチとの信頼関係は必要不可欠です。」

キーガン先生は、私の目を見ながら私の疑問に対して、こう答えてくれました。生涯忘れることのない、とても贅沢な時間だったなと思います。

ここでいただいた回答は、考えてみれば当たり前のような話ではありますが、私のこれまでの経験と対比して、まさにそこに尽きるというものだなと思いました。

こういった言葉を超至近距離で、直接私の質問に答えていただいたというのは、本当贅沢なことだなと思いまし。今後もずっと大切にしていきたい言葉になりました。

質問させてもらった後に、とってもらった写真がこちら


【今回、得られた学び】

「関係性があってこそ」というのは、改めて、何よりの発見でした。

世の中には、免疫マップも含めて、さまざまな対話・ワークショップの手法があります。それらの手法はどれもとてもパワフルなものではあることは間違いありません。

それこそ、建築家の設計図のように設計図さえあれば、誰でも素敵な建物が建てられるかというとそうではなく。建てるにもさまざまな技術やセンスが必要になります。これは料理でも楽譜でも同じでしょう。

そして、私が普段、さまざまに方々に向けて実施しているワークショップにおいても同じことだなと思います。全く同じデザインでワークショプを実施しても、生まれてくる意見や場の雰囲気は全く異なったものになってきます。

コーチングでは「Doingも重要だが、それ以上にコーチのBeingが大事」と言われています。

たとえば、最低限、ご飯が食べられれば良いやとか、もう少し報酬が欲しいなと思ってファシリテーションをしている人と、社会を変革するためにワークショップを実践している人とでは、生まれてくるものは全く別のものになってくるでしょう。

まさに、免疫マップにしても、IDGsの促進においても、関係性とそれを生み出す自分自身のあり方・Beingが大事になってくるのだなということを思いました。

また、今、私が今、複数企画中のセンシングジャーニーにおいても、内面の発達は最大のテーマになってきます。

これからセンシングジャーニーをいろいろと生み出していきたいと準備をしているこのタイミングで、こういった機会を頂けて本当に運が良かったなと思います。

そして、他人の変容について偉そうなことを言おうとしている私が、改めて、自分の内面と向き合うことを忘れてはいけないなということも思いました。


次にキーガン先生にお会いできるのがいつになるのかはわかりませんが。

その時には、キーガン先生が今回、聞かせてくれたような実践を共有できるよう、がんばっていきたいと思います。

ということで、今日も素晴らしい学びの機会をどうもありがとうございました。

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