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渋谷区民が「渋谷の地図」を描いてみた ~アカデミック編~
こんばんは、きぜつです。
前回の記事で、妻が何も見ずに書いてくれた「渋谷の地図」をゆるっと紹介しましたが、今回はちょっと深掘りしてみます。
![](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/160330589/picture_pc_59e7fba32970717171e39e8e04addcd0.jpg?width=1200)
このような地図は「メンタルマップ」と呼ばれることがあり、学術的にも分析されています。地理学選書の『メンタルマップ入門』では、冒頭に以下のような記載があります。
メンタルマップとは、5万分の1の地形図や縮尺に基づいて描かれる道路地図などの、いわゆる客観的に正しいと認識されている地図とは異なり、一人ひとりの人間の精神のなかに構成されている地図のようなものを指すメタファー(隠喩)としての地図である。したがって、一人ひとりの人間が個性的でユニークなように、メンタルマップも当然個性的でユニークなものになる。
妻の渋谷の地図もユニークで、自分とは全然違い、それぞれ個性的なものでした。この人は世界をこのように見ているんだな、ということが少し垣間見えて楽しいです。
▼前回の記事はこちら
アーバンデザインなどの研究者であり建築家のリンチによると、都市のイメージを物理的に表現したときに、5つの要素に分類できるとされています。
1.パス paths(道路)
2.エッジ edges(境界)
3.ディストリクト districts(区域)
4.ノード nodes(結節点)
5.ランドマーク landmarks(目印)
※リンチ(1960)『都市のイメージ』の解説部分
今回の試みとして、この5つの要素ごとに、妻が描いた渋谷のメンタルマップを紐解いてみたいと思います。
1.パス paths(道路)
街路・運河・鉄道など人々が移動に利用する道筋であり、他のエレメントを関連付ける役割を持ち、五つのエレメントの中では卓越した存在である。一般に、パスの起点と終点が明瞭であるほど、そのパスは強いアイデンティティをもつ。
※「パス paths(道路)」解説部分
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なんと・・・妻の渋谷メンタルマップには、
パス(道路)が、ない!
これはどういうことでしょうか?
妻に取材してみたところ、最初に道路を書くことはよぎったらしいですが、場所と場所のとのつながりがイメージ出来なかったので書かなかった(書けなかった)ようです。渋谷という、道が複雑に入り組んでいる大都市ならではの難しさなのかもしれません。
ということで次の要素に行ってみます。
2.エッジ edges(境界)
パスと同様線状であるが、通路としてではなく、二つの地域の境界となったり、地域を隔離し移動を遮るものとして感じられるもの。河川、海岸線、城壁、鉄道の線路など。
※「エッジ edges(境界)」解説部分
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妻の渋谷メンタルマップでは、代々木や代官山などのエリアとの境界線が緩やかに描かれています。妻がイメージする「渋谷」は概ね、東は明治通り、西は山手通り、南は首都高、北は代々木公園通りに囲まれたエリアかな、ということが読み取れます。そういう意味では、広い道路(基本的にはパスとして認識される)はエッジの役割も果たしているのかもしれませんね。
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車線が多く、確かに歩行者視点ではエッジと言えるかも
3.ディストリクト districts(区域)
何らかの一貫した性格によってアイデンティティを形成している面的広がり。公園やオフィス街のような機能的特徴からだけでなく、高級住宅地区や黒人居住区などのように、社会経済的特徴あるいは人種的特徴もディストリクトを形成する。
※「ディストリクト districts(区域)」解説部分
![](https://assets.st-note.com/img/1730562058-zFoNnIUJ3AZBYpbWCyhiwu86.png?width=1200)
妻の渋谷メンタルマップでは、ディストリクトがたくさんありました。
唯一明示的に線で囲まれていたのは「渋谷ワイワイゾーン」と書かれた広がりでした(※妻による個人的な呼称)。駅前のスクランブル交差点周辺のいつも人混みごみごみな一角です。ハチ公もいますね。
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この他にも、地図には点として描かれてはいますが、内容では面的な広がりと捉えられるものがいくつかあったので、見ていきます。
「再開発ゾーン」
現在、渋谷は東急などによる「100年に一度の再開発」と言われるプロジェクトが進行していますが、直近で行われたのは渋谷駅南西部に広がる桜丘地区の再開発と言えるでしょう。妻はそのあたりを「再開発ゾーン」として認識しているんだと思います。
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2020年に発売された、あいみょんの曲「さよならの今日に」では、まさに再開発中の桜丘地区で、特別許可のもとミュージックビデオが作成されています。
「渋谷東住宅エリア」
渋谷駅から南東の方面に「東」という比較的住宅が多い地区があります。緩やかな坂を上るにつれて、実践女子大や國學院大などの教育機関や渋谷氷川神社があります。この地区に妻の知り合いが住むことを考えていたらしく「ここも渋谷区なんだ!」と知ったため「渋谷東住宅エリア」と書いたようです。
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「奥渋エリア」
渋谷駅から北西の方面、文化村通りを歩くと、旧東急百貨店の前でいつの間にかオーチャードロードという名前に変わります。この道沿いを中心に「神山町」や「富ヶ谷」などの地区では「奥渋」と名付けられたエリアが広がっています。
駅前の喧噪とは打って変わって落ち着いた雰囲気のなか、カフェや雑貨屋が立ち並んでいます。
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「松濤高級ゾーン」
オーチャードロードからわずか1本だけ路地に入ると、景色が一変します。そこは日本のビバリーヒルズとも言われる「松濤」地区。かつて旧佐賀藩主の鍋島家がこの地に開いた茶園に由来する名前で、最低敷地面積のルールがあるために区画が広く、有数の高級住宅街となっています。
湧水地を中心とする一画は、現在鍋島松濤公園として整備されています。
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「道玄坂♥ホテルゾーン」
松濤と道一本を隔てた「円山町」「道玄坂」エリアの一部は、かつては花街であり、現在もそこにはホテル街があります。妻は、松濤と道玄坂の対極的な様子が印象に残っていたらしく、それぞれを地図に書いたとのことです。
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4.ノード nodes(結節点)
駅・交差点など都市内部にある主要な地点である。観察者がその中に入ることができる点であり、彼がそこに向かったり、そこから出発したりする強い焦点である。ノードはパスの集合点あるいは接合点であり、人が移動する際の起終点や通過点となる。また、ノードはディストリクトに極性を与える中心にもなり、観察者の位置によって、点としても、ある範域をもつ面としても認知される。
※「ノード nodes(結節点)」解説部分
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ノードの定義と照らし合わせてみると、唯一「スクランブル交差点」がそれに当てはまるのでは、と思いました。まさに「渋谷ワイワイゾーン」というディストリクトに極性を与える中心になっている交差点ですね。
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5.ランドマーク landmarks(目印)
周囲のもののなかでひときわ目立ち覚えられやすい何らかの特徴を持ち、道しるべとなるもの。例えば、建物、等、看板、山などである。ノードがその中に人が入れる対象であるのに対し、ランドマークは観察者からは離れて存在する。
※「ノード nodes(結節点)」解説部分
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妻のメンタルマップでは、4つのランドマークが描かれていました。
このうち3つは、2010年以降に開業もしくは再整備した「生まれ変わった渋谷」を象徴する建物です。
渋谷ヒカリエは東急などによる渋谷駅周辺の再開発のトップバッターとして東急文化会館の跡地に2012年に開業した商業施設です。
渋谷スクランブルスクエアは、東急東横線の駅舎と東急百貨店東横店の跡地に2019年に東棟が開業した複合施設です。現在進行形で中央棟と西棟が計画されており、再開発はまだまだ続きそうです。
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右:渋谷スクランブルスクエア(2019年 東棟開業)
MIYASHITA PARKは従前から宮下公園がありましたが、いろいろあって(詳細は割愛)再整備の機運が高まり、現在の形となったのは2020年とのこと。ちなみにこちらは三井不動産による管理運営がなされています。
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そして最後に、妻のメンタルマップの中央に位置し、枠囲いで強調もされているSHIBUYA109。こちらは、再開発以前から(調べてみると1979年から)長らく渋谷のランドマークの1つとして君臨し続ける建物になります。
妻曰く「小学生の頃から訪れていた思い出の場所。今回の地図はマルキューから書き始めた」。
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今回、思いつきで「渋谷メンタルマップ」を考察してみましたが、とても興味深かったです。
妻のあたまの中の渋谷の中心は、長らく名実ともに渋谷のシンボル、マルキューなのでした。