経営破綻時のJALから学ぶ
山崎豊子の『沈まぬ太陽』は、日本航空(JAL)を舞台にした不朽の名作です。同書では、先鋭的な労働組合の委員長である主人公が、会社と対立して不遇なサラリーマン生活を強いられる姿を描いています。会社は、経営側に近い第二労働組合を設立し、主人公が属していた反会社的な労働組合側を冷遇し、同組合の弱体化を図りました。
JALが破綻したのは2009年。同書が書かれたのは1995年から1999年。ここで描かれた同社の異常な労使体制が破綻の遠因になったといわれています。2009年に破綻後、京セラ名誉会長の稲森氏が会長として同社の事業再生を推進し、2012年9月に再上場を果たしました。
破綻した2009年3月期と、上場直後の2013年3月期のJALの財務内容を見てみましょう。参考に、競合である全日空(ANA)の同時期の業績比較もしてみます。
【JAL】
2009年3月期 2013年3月期
売上高 1,951,158 1,238,839
営業利益 -50,884 195,242
自己資本比率 6.9% 46.4%
【ANA】
2009年3月期 2013年3月期
売上高 1,392,581 1,483,581
営業利益 7,589 103,827
自己資本比率 18.3% 35.9%
競合であるANAは順調に業績を伸ばしています。2009年3月期はリーマンショックもあり大幅に業績悪化を強いられ、営業利益もギリギリ黒字を確保した水準です。しかし4年後の2013年3月期には、利益率改善を果たしました。純資産も順調に増やし、自己資本比率も大きく改善しています。この間の企業努力に高い敬意を表します。
一方、JALは劇的な変化を見せています。2009年3月期の事業費と販管費を合わせて約2兆円かかっていました。それが2013年3月期には約1兆円にまで圧縮されています。売上高は大きく減少していますが、費用の圧縮により黒字計上を果たしています。
この間のJALのリストラ策は以下の通りです。
・不採算路線からの撤退
・大型機の退役
・リストラ・給与引き下げ
これらによって、減価償却費や人件費などの固定費を大きく削減しました。
同時に、以下の大規模な公的支援・民間支援も受けています。
・債権放棄
・減資
・企業再生支援機構からの出資
・法人税減免
債権放棄によって銀行に、減資によって株主に経済的な損失を強いています。税金も減免されたため、巨視的に見れば国民全員に迷惑をかけたとも言えます。融資した銀行、株を買った投資家の自己責任とも言えますが、本来会社としては必死に迷惑をかけないようにしないといけません。
不思議なのは、なぜここまでステークホルダーに迷惑をかけるまで、リストラをできなかったのか、という点です。
稲森氏による「アメーバ経営」のもと、徹底的な合理化を図った、との言い方をされています。その側面もあるでしょうが、
・不採算路線からの撤退
・大型機の退役
・リストラ・給与引き下げ
といったリストラ策は、アメーバ経営でなくとも、だれでも思いつくアイディアです。こうなる前に、必ずJAL内で検討されていたはずです。日産も同様でした。90年代後半の経営危機下の日産におけるゴーン氏のリバイバルプランは、すべてゴーン氏が来る前から日産内にあったアイディアをまとめたものと言われています。つまり、(少なくともこの2社のようなステージにおいては、)経営力とは、企画力ではなく実行力であるといえると思います。
仄聞するに、不採算路線からの撤退は、その地域を地盤とする政治家からの圧力があり、撤退に踏み切れなかったといいます。リストラは、冒頭に記載した労働組合の反発があるため、できなかったといいます。つまり抵抗勢力に邪魔をされ、決断・実行できなかったと言えるでしょう。会社更生法の適用申請という事態に陥って初めて、これらのリストラ策を実施できました。
しかし、JALを笑えない会社・人は多いでしょう。抵抗勢力に邪魔をされて本来やるべきことができてない組織や人は多いでしょう。JALの事例から、自らを省みたいと思います。
あれから10年、JALは立派に黒字を計上する会社になりました。素晴らしい業績だと思いますが、つい10年ほど前に、多くのステークホルダーに迷惑をかけないとリストラできなかった会社であることは忘れてはいけません。
今年はコロナ禍でさらなる危機に見舞われています。こういう時こそ、実行力を伴う経営を見たいと思います。
『人の生涯は、ときに小説に似ている。主題がある。』(竜馬がゆく) 私の人生の主題は、自分の能力を世に問い、評価してもらって社会に貢献することです。 本noteは自分の考えをより多くの人に知ってもらうために書いています。 少しでも皆様のご参考になれば幸いです。