共作絵本『火の国の王子さまと氷の国のお姫さま』について
こちらは、相互フォローしている大枝岳志さんと制作した絵本『火の国の王子さまと氷の国のお姫さま』の絵を中心とした解説記事です。
記事をお読みになる方が物語を読了されている前提で書いております。
物語はこちら↓
まえがき-共作に至るまでの経緯と絵本について
大枝さんとは、「あなたの記事からイメージした絵を描きます」という私の自主企画(通称:記事から絵)で接点が出来ました。以来、お互いがお互いの創作物への敬意を公言しており、つくるものや世界は違えど「表現で目指す深度や温度」が大変似ている大枝さんと「いつか」「なにか」したいと思っていました。
私がnoteの人へありがとうを伝えるための展覧会をやると決めた時最初に思い浮かんだのが大枝さんとの共作であり、意を決して声を掛け詰問を受け快諾頂きました。
絵本にする物語は、お互いを初めて認知し、かつ大枝さん界隈で絵本化希望の声が高かった『火の国の王子さまと氷の国のお姫さま』に決定。
絵本は展覧会会場のみで販売しており現在は在庫ゼロです。
原画の殆どはA4サイズ1枚で見開きひとつ分相当、絵本はA5サイズ左綴じです。この記事では「見開きひとつめ」を「第1幕」と数えております。
全て日本画または鉛筆で描いており、4分の3を墨、黒鉛、グレー、白のみで描写。絵本原稿にする際は最後の2幕を除きモノクロ変換して印刷をしています。
原画は全部で16点、うち4点(2点、2対)を2022年1月展覧会にて展示しました。
この記事では、実際に展示した4点についてお話しをさせて頂きます。
第3幕
お姫さまが初めて王子さまと出会い、会話をする場面です。
ろうそくみたいな炎がピカーっとなってる図に見えますが、「お姫さまの瞳に映っている王子さま」を描いています。
この前のシーンで、お姫さまは宴の会場の隅で静かに椅子に座っている描写があります。お姫さまは誰とも喋ってなさそうなんですね。そんな場所からふいに声をかけられ、しかも自分のことを愛していると強い目で言ってきている。
これまでのお姫さまの人生でこんなにはっきり愛を伝えてくる人は無かったわけですから、お姫さまにとっての王子さまはこんなふうに、きらきら見えてたんだろうなと思って描きました。少女漫画で、好きな人と出会うと背景がキラキラしたり花がぶわっとするあの感じです。
下絵では最初に紙からギリギリ出ない程度の大きめの丸を描き、次に中央の火を描いています。瞳に映る景色の画像などを資料にして、この絵全体がいわゆる「黒目」の輪郭を帯びるようにしています。
色合いは物語の色に合わせて茶系をベースに。
構図は見開きで炎が隠れてしまわないよう中央を避け、やや左に寄せています。実際に仕上がったのを見ると結構ギリギリでセーフだったので寄せる決断をしてよかったなと思います。
第6幕
氷の国でお姫さまと女王さま(母)が話をして、お母さんが娘に氷のティアラを渡す場面です。
火の国との交流、氷パパは大反対してるのですが、氷ママは王子さまとの逢瀬にも賛成しています。氷ママは愛について「神様が与えてくださったものであり、自分達が言葉や心で反対をしてみても神様には叶わない」という見解を持っており、娘の愛を尊重しています。
ティアラを愛に見立て、愛情を受け継ぐ。そんなタイトルにしています。
絵は王子さまを主に描いている第3幕と呼応させるように、お姫さまの見せ場となるものをと思いバーンとティアラにしました。
氷のティアラはゲームやアニメみたいなシャキーン!キラーン!したのじゃなくて霜のついた葉っぱや小さな氷柱など、氷の国で材料をすべて調達できるような素朴で可愛らしいイメージです。
世に無い小物を描く時はキャラクター設定表みたいに、ここにこんなパーツがあるよーというメモを作り、それを見ながら制作しています。図を見せたところ創造主(大枝さん)も同じイメージを持っていたようで良かったです。
線画を作るときにはグレードアップさせました。
この絵はかつて幼少期に魔法少女漫画を読みふけりお姫様イラストを描きまくってた私が大人の現役画力で描く「めっちゃ可愛いティアラ」でもあり、描いた本人がここ最近でいちばん気に入っている渾身の1枚です。
わーかわいい!ああかわいい!
第9幕・第10幕
王子さまとお姫さまが抱きしめ合って、氷のお姫さまが溶けてゆく場面です。絵本ではお姫さまを9幕に、王子さまを10幕にしています。
10幕は「記事から絵」で描いたもので、既に単体で掲載をしております↓
ここでは、9幕お姫さまや対の話を中心に書きます。
これもティアラの時と同様、王子さまが出とるならお姫さまだろうとサクッと決定。画材も鉛筆で統一しています。
絵本の構成を鑑みて、9幕の絵は左寄せに、次ページの10幕は絵を右寄せにしています。このように配置することで、ページをめくると額装と同じような一対になります。
お姫さまを描くと決めたものの、制作はかなり苦戦しました。
自分で考えておいて描写技術が足りず悩むのは稀にあります……。
王子さまのほうでお姫さまを氷の粒として描いているので9幕の方も王子さまは火として描くのは必然なんですが、とんでもなく難しかったです。カリカリ描くのではなく、全体を鉛筆でバーッと塗る→練りゴムで炎の部分を抜く→緩急をつけて場所を変えながら塗る・抜くの繰り返しで描いていました。
表情はラファエロの絵画なども参考にし、つとめて穏やかに。
自分が溶けてなくなっても王子さまと抱きしめあうことを選んだ、最も幸福で安心している瞬間です。
第14幕・第15幕
最後の場面、花の国が「楽園」と名付けられるまでです。
パネル2枚を1つの額に収めており、絵本では左の絵を14幕とし文字を入れ、次ページ、ラストにあたる15幕は右の絵を文字なしで配置しています。
15幕(ラスト)に文字を入れないのは初めから自然と決まっており、15幕から逆算して14幕をどうするかで2案ほど出ていました。ひとつは近景に花がぶわっとしている現在のバージョン(A)、もうひとつはAの遠景にあたる部分を近景にしているバージョン(B)です。
A案は前ページ(13幕)で描いていた花が満開になっています。B案は花の国からできた楽園に人の営みや息吹を想起させるために、花が街の灯りのように咲いている図です。海辺の街や温泉街の遠景とかを参考に作りました。
最終的にはページをめくった時に花がぱあっと咲いたように見えるA案を採用し、13幕(花がぽつんと一個だけ咲いてる絵)→14幕でぱあっと咲く→15幕でこれまでの余韻が流れ「終わりであり続きを感じるような静けさ」を作り綺麗に締まる構成に出来ました。没にしたB案はA案の遠景にちょろっと入れています。
花の種類はマグノリアや木蓮をベースにした架空の花です。はじまりの花みたいな単語でネット検索したらマグノリアが出てきて、大枝さんにも確認したところ花のつき方や花びらのイメージが合ってたので決定。
色合いは初めて読んだ時の印象を大事にして、焦茶やセピアで統一しています。絵本では印刷の都合でかなりピンクっぽい色になってしまいました。第二版の折には修正したいと思ってます。
15幕はエンドロールの役割も果たしています。
読み方向である右、つまり終盤に向かうにつれて絵そのものもだんだん抜けていくように、この絵の右側あたりは日本画の白の地塗りをした後に鉛筆線(色鉛筆)で描いています。
本当は右側は鉛筆だけで描いて地塗りすらしない構成が良かったんですが、A4サイズの横幅でそれをやると絵具の量感が急激に変わってしまい、スピード感が返って気持ち悪い気がしたので結局塗りました。
鉛筆っぽい線を残しつつ日本画絵具の質感も欲しかったのでどちらの絵も随分苦労しました。思ったより鉛筆で強く描いてしまい、絵具を乗せたら黒鉛がサーッと溶けてしまったりなど四苦八苦しながら制作をしています。
絵本原画の中でこの14・15幕が技術面では一番下手なのですが、空気は素の自分に最も近い絵な気がします。空や花、毎日のなんでもないものを漠然と綺麗だなあと感じ、ひとりでぼんやりしてる時の自分です。
絵本づくりについて
最初にお話しした通り、絵本は最後2幕以外は白黒に変換して制作をしています。
白黒にすることは初めから決まっていました。
うーん……「決まっていた」というとちょっと語弊があります。話し合って決めた訳ではないです。
大枝さんの頭の中で流れている物語の映像が白黒で、創造主の映像は読めば正しく読み手(この場合、私)に伝わるので、創造主の映像をそのまま絵にしただけです。最後2幕だけカラーなのも同じで、物語の創造主と描き手の想像が一致するのでそのまま描いた感じです。ここまでの文で「自然と決まった」を多用しているのも、イメージを擦り合わせるための質問や会話を殆どしていないからです。
描き手の手腕としては、ページを開いて鮮やかな色彩が溢れる絵本ではないので、白黒およびグレーのコントラストや明暗はかなり気を使っています。
演劇の舞台の暗転とかをイメージしながら最初のラフで全ページの白黒配合を決め、めくるたびに変化があるように仕掛けています。
色以外でも紙と画材で変化の仕掛けを作っています。上の画像左下、小さな表がそれです。
16点の絵に4種類の紙を使っており、描きやすく柔らかな質感で日本画定番の雲肌麻紙(くもはだまし)を多めに、要所でつるっとして微光沢がある鳥の子紙・同じ明るさのグレーでも紙の目が強く出て和紙と違いが出せる並口画用紙・最も一緒に自分と歩んできて自力を発揮できるクロッキー紙(と鉛筆)という感じです。
絵本、挿絵……その他共作において創造主の想像を正確に表現するのが描き手の仕事であり、そのために知識を仕入れたり使ったりするのが楽しかったです。
絵を描いたあとは撮影またはスキャナーで取り込み、映り込んだゴミをチマチマ修正→文字つき原画をデジタルで作る→発注、という流れです。
文字付き原画作成と発注は大枝さんの役でしたがレイアウトの微調整が苦手なのを土壇場で知り、繊細な調整を求めたいページは私が作りました。大枝さんと共作した唯一の反省点は「事務方の得手不得手は事前に確認すべき」です。
弁が立ち交渉が得意な大枝さんには絵本業者さんと膨大なやりとりと校正をして頂き、創造主・描き手ともに太鼓判がバンバンなとても素敵な絵本が出来ました。ちなみに大枝さんvs絵本業者は展覧会マガジンに掲載しております。
表紙は絵なし、マットな黒地に金の箔押しです。
これも自然に決まってました。
今回は共作絵本『火の国の王子さまと氷の国のお姫さま』についてお話をさせて頂きました。
絵本制作ならびに展覧会を応援してくださった皆様、購入頂いた方、そして、記事と物語を読んでくださった皆様へ改めてお礼申し上げます。
今後も鋭意制作して参りますので、よろしくお願いいたします。
『火の国の王子さまと氷の国のお姫さま』
作・大枝 岳志
絵・清世