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『Captain Miller』
監督:Arun Matheswaran
出演:Dhanush、Shiva Rajkumar、Priyanka Arul Mohan、Aditi Balan、Sundeep Kishan
2024/1/12公開のタミル映画。
あらすじ
舞台は1930年代のとある村。この村には、村人たちの土地の寄進によって大きなヒンドゥー寺院が建設されたものの、王が低位カーストである村人を寺院に立ち入れさせない、という因縁があった。そういった現状に不満を抱いていた村の青年イーサ(Dhanush)は、独立運動家である兄の反対を押し切って、イギリス植民地軍に志願入隊する。入隊後、イーサはミラーという名前をもらう。
入隊後、反植民地運動を展開しているインド人たちを殺害するミッションに参加し、同胞を虐殺した罪悪感にさいなまれたミラーは、独立運動家たちの亡骸を処理している最中、作戦を指揮していたイギリス人将校を殺害し、その場から逃亡する。逃亡後、ミラーは森の中で偶然出会った義賊たちと行動を共にすることになる。
村のヒンドゥー寺院には600年前から伝わる像が隠されていたのだが、その存在を知ったイギリス政府は像を強奪する。王から奪還を依頼されたミラーは、イギリス政府軍から像を取り返すことに成功するが、像を持ったままどこかへ逃亡する。
王とイギリス政府軍はミラーの居場所を聞き出そうと村人たちを拷問する。そこにミラーが戻ってきて、王を殺害。村人たちは、長い間禁じられたヒンドゥー寺院に入ることができる。その後、激怒したイギリス政府軍が総攻撃を仕掛けに来るものの、勇敢な仲間がそろったミラーたちは彼らを打ち破り、村に平和が訪れる。
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イギリス植民地時代、傍若無人なイギリス人の振る舞い、イギリス政府軍と村の青年たちの闘争……と書くと、当然『RRR』が想起されるわけだが、この映画の肝はそこではない。
あくまでもメインの筋は、王の支配下で理不尽な扱いを受ける低カースト者とその抵抗の物語なのだ。
だから、この映画を「タミル版RRR」なんて言ってしまうと、非常に安直だと思う。
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この映画に一貫していた「アンチ権力」というメッセージは極めてタミル的な発想だと思う。
「タミルらしさ」が何かという問いに対して、この地にまだ2年しか住んでいない私が述べるのはとてもおこがましいが、答えの一つに「権力への反骨精神」があるように思える。
あるいは、「タミル人であることの誇り」とか。
例えば、中央政府が推し進めるヒンディー語教育の強制に対して、タミル・ナドゥ州は強い不快感を示し、反対の意向を表明している。
実際にタミル・ナドゥではヒンディー語を解する人は極めて少ない。
そんな感じで、タミル人には自分たちが属するコミュニティの文化や伝統に誇りをもち、それを奪おうとする勢力への対抗意識が強く根付いていると言えるだろう。
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そう考えると、この映画は最初から最後まで「奪い返す」物語だった。
低位カーストの村人たちが、王に奪われた土地を奪い返す。
あるいは、イギリス植民地軍から宝の像を奪い返す。
あるいは、王とイギリス植民地政府から村の平和を奪い返す。
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主役を演じたDhanushは、タミル映画で活躍する人気俳優の一人。
『Captain Miller』では素晴らしい演技を見せてくれた。
素朴で弱々しい村の青年、植民地軍から逃亡した後の荒々しい無法者、そして村を救う正義のヒーロー。
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王の娘が、父親を殺した人物たちへ復讐を誓うシーンで映画が締めくくられる。
つまり、続編の存在が暗示されるような終わり方だった。
スクリーンで再びキャプテン・ミラーの活躍が観られるのが楽しみである。