東京にだって居場所はある!
東京を訪れるたび、かなりの頻度でAbbey Road 六本木に足を運んでいる。今夜も行ってきた。
ここは夜な夜なビートルズの曲だけを生演奏で聴けるライブハウスで、四方八方どこを見てもビートルズだらけ、ずぶずぶにビートルズに浸かれる場所なのである。
一般的なスタンディングのライブハウスではなく、ライブレストランというような形で、観客はゆったり飲食をしながらライブを楽しむ。
19時に開演し、30分の演奏+30分の休憩が4回繰り返される。
ビートルズの曲を演奏するのは「THE PARROTS」(ザ・パロッツ)」というビートルズのトリビュートバンドで、ほとんどの営業日において登場する。
パロッツは本家のポール・マッカートニーも認める超一流バンドである。
東京のど真ん中で毎晩ライブを開催し、ビートルズ一本でお客さんを毎晩魅了し続けていることがあまりにもすごいし、あまりにもかっこいい。
私はこのパロッツのステージを楽しみに、東京出張の夜は会食や余程の用事がない限り、アビーロードで英気を養う。
演奏レベルが異様に高く、ビートルズサウンドの再現度は言わずもがな、メンバー個々の技術とパロッツそのもののサウンドも魅力に溢れている。
(特にポール役のゴードン野口氏の歌声に完全に魅せられている。が、最近はリンゴ役の仙さんから目が離せない。)
ビートルズがライブで演奏をしなかった後期の曲をライブで視覚的に楽しめるのも貴重で嬉しい。
たまたま隣り合ったお客さんが「ビートルズはそんなに聞かないが、パロッツが好きでよく来ている」と言っていた。
ビートルズの熱烈ファンからあまり知らない人まで、気兼ねなく受け入れ、間違いなく楽しませてくれる懐の深さがアビーロードの素敵なところだ。
私がはじめてアビーロードを訪れたのは数年前、同じくビートルズ好きの相方に勧められて勇気を出して向かったものの、こんなお子様のおのぼりさんが1人で夜のギロッポンのライブハウスに行くなんて……無条件で拒絶されるに違いない…と震えながら扉を開けた。
しかし、入店した瞬間、ビートルズ一色の空間に心は高まり、不毛な自意識は吹き飛んだ。
お店のシステムもすぐに理解でき、思いの外アビーロードは気安く私を受け入れてくれたのだった。あまりに楽しかったもんだから、六本木駅まで東京タワーを背に、シーシャを吸っているガタイの良い外国人の合間を縫ってスキップしながら帰ったものだ。
アビーロードに集まるのは、会社帰りのサラリーマン、ビートルズど真ん中世代の諸先輩方、私よりもずっと若い大学生、三世代家族、海外の方まで非常に多様な客層で、いかにビートルズが世代や国を越えて人々に愛されているかを実感できる。
日頃、周囲にビートルズ愛を共有できる人があまりいないので、この空間では「好き」を目一杯解放してもいいことに安心感を覚える。
それでも通い始めの頃はまだ20代で、なんだか自分が空間の中で浮いているような感覚があり「アビーロードにいても違和感のない大人になりたい!」という謎の憧れが芽生えたものだ。
ある時、目の前に座って静かにライブを鑑賞していたお姉さんが、幕間の休憩時間におもむろに毛糸を取り出し、編み物を始めたのが痺れるほどかっこいいと思った。
こうして人は、時間の使い方や心のゆとりといった文脈における「オトナ」を学ぶのだ。
何度も通ううちに私もすっかり慣れ、ステージの合間用に文庫本を持参し読み耽っている。この時間も大好きだ。
私のような西の者にとって、東京出張はとにかく心細いイベントだ。
決して東京が嫌いなわけではないのだが、やはり桁違いの人の多さと大阪とは決定的に違う都会感に身体はずっと強張ってソワソワしている。東京では人前で喋る仕事が多いことも関係している。
だけど東京は私のことなんて歓迎も拒絶もしない。
ただ、いっぱい栄養を摂取して、いっぱい仕事を頑張る場所だ。ひたすら無関心に、そうさせてくれる自由な場所だ。
ここでしか味わえない幸せを噛み締めて、また明日も生き抜き、西に帰るのだ。