弟が死んだ日-月曜日-
母から連絡が来たのは、月曜日の22時ごろ。
私はまだ仕事中だった。
仕事が終わらず残業をしており、早く帰りたいと思いながら、ふと携帯で時間を確認した時、母からLINEが来ている事に気がついた。
なんだか、胸騒ぎがして、仕事を抜けて、すぐに母に電話をかけた。
母によると、
朝、バイトに遅刻しそうになりながら出かけたっきり、日曜の夜になっても、月曜日になっても、弟が帰ってきていない事
月曜日もバイトがあったから、どこかに泊まったのかもしれない事
弟の携帯にも連絡がつかない為、もしかしたら私のところに連絡が来ているかもしれないと思い、連絡したとのことだった。
母には、もしかしたら誰かの家に泊まっているのかもしれないし、カラオケやネットカフェにいるのかもしれない、明日すぐにバイト先に電話をかけた方がいい、万が一は警察に行こうと伝え、電話を切った。
母はいつも通りの口調で話しているつもりだったが、明らかに動揺しているようだった。
いつも以上にお喋りが多く、いつも以上に早口だった。
弟は大学生だった。交友関係も狭く、1人の時間が好きで家にいることが多かった。出かける時はバイトか、学校がほとんどで、友達と出かけることなんて滅多にない。特にコロナ禍でネット授業になってからは、バイト以外で出ることは稀だった。
弟は私と違って、連絡もなしに勝手にどこかに行くなんてことは絶対にしたことがない、突然、友達の家に泊まりに行くなんて、考えられなかった。
──弟はもうこの世にはいないのかもしれない──
母も私も、そんな考えが浮かんでいた。もしかしたら、という希望で、半ば願いのようなもので、2人とも、弟が死んだのではないか、ということは口に出さなかった。
口に出すのが怖かったし、ありえないという気持ちと、本当にそうなってしまう気がして怖かったからだ。
しかし、仕事をしながらも、私の中では、弟は死んでしまったのかもしれないという思いが沸々とわいていた。
その後、母から、追加で連絡が来ていた。
携帯も財布も家にあった事、バイトの時は、いつもバイト着を来て出ていくのに私服で出た事、バイクの免許証と鍵だけを持っていっているようだと。
自殺かもしれない
その思いが加速した。
弟は死んでしまったんだろう、そう考えると、自分でも驚くほどに納得してしまった。
自殺か事故かはわからないけれど、弟がもうこの世にいないということだけは、何故だかその時は、ストンと、その事実が腑に落ちた。
そんな自分に酷く驚いた。
信じたくない、縁起の悪い想像をしてしまった、明日弟がひょっこりと帰ってくる事を願いながら、明日も仕事のため、その日は目を閉じた。