016_望郷
故郷がある。
好むと好まざるとにかかわらず誰しもに故郷がある。
それを思い偲ぶことを望郷と呼ぶ。
研究室の同期から聞いた話。
その子の実家はF県の県境に近い小さな町の出身。
明治期は何とか耐え忍んだものの、昭和の大合併で周辺集落とくっついて新しい集落となり村となり、ついには平成の大合併で町になったと。
元々は別々の村だったから同じ町でも文化が違うんだよ、ツギハギの町なんだよ、と地元の話になるといつも言っていた。
民俗学専攻の研究室ということもあり、たびたびそういう(一般的ではないという意味で)変わった風習とか地元名産品やお祭りの話題で盛り上がることがあった。飲み会の席であったり、講義の合間であったり。
その子の話に戻る。
私の地元では結婚は特別なことみたい。
冠婚葬祭は誰にとっても特別なものでしょ、と返した記憶がある。
「誰」でなくて「地元」にとって特別なの、と返された記憶がある。
結婚式の朝、仲人が新婦の家まで新婦を迎えに行って、新婦とその親族と一緒に新郎の家へ一緒に向かうんだけど、その途中で近所の人たちが藁縄を張ってお嫁さんを通せんぼするんだよ。
通せんぼされたら仲人たちがお金を渡したりお酒を振る舞ったりして藁縄を解いて貰って、ようやく新郎の家に入って新郎と会えるの。
「ナワバリ」は面白い風習だよね、と答える。
この話には続きがあるの、と。
夜、朝通った道で近所の人たちがもう一度藁縄を張っているから、新郎側の親族がそれを内側から切っていくんだよ。
なるほど、と唸る。
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ありがとうございます。進行形で記憶を供養しています。