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006_欅
欅がある。
T町の神社に欅の古木が1本ある。
20メートル程の立派な欅。
樹冠に隠れて見えないが、先端付近の幹に手があるそうだ。
手、といっても人間の手というわけではなく、木地の人形のような手だ。
なぜそのようなものが打ち付けられているのか。
宵詣りが流行していた昭和初期に釘で打たれた名残のようで、木の成長とともに上へ上へと登っていったらしい。
そんな話を聞いたことを思い出し、改めてなるほど、と独り頷いた。
結局、いくら見上げても手は見つけられず、帰ろうと踵を返す。
数歩進んだところで、あ、と気づく。
木は先端部分が伸びるのであって、幹自体が上へ伸びるわけではない。
手が登っているのだ。
後ろで、かさり、と音がした。
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