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きしぉう博士のアジア研究ノート

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きしぉう博士が書いたアジア研究や歴史学関連の2020年10月から2021年1月までの有料記事の全てが読めるマガジンです。
アジア研究、特に東南アジア研究の前線の話がかじれます。 それから、大手の出版局・大学出版局から本を…
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#読書

講義用ノート コミュニティ形成の東南アジア史(1)シリーズ概論

本業です。シンガポール国立大で教えている大学2・3年生向けの「東南アジア史入門」の授業をコミュニティ形成史として作り直し、日本語の講義用ノートを作る計画です。ちびちびやります。域内の研究もできるだけピックアップしていきますが、東南アジア研究の系譜的には、ビクトール・リバーマン → マイトリ・アウントゥイン → 土屋、あるいはD.G.Eホール → オリバー・ウォルターズ → レイナルド・イレート → 土屋です。なので、基本的にはミシガン大及びコーネル大系列の伝統に基づいて(多少

書評:アミタブ・アシャリアのThe Making of Southeast Asia: International Relations of a Region

書評です。 元々は2000年に出版され、かなり大規模な加筆修正の上、2012年にコーネル大出版とISEAS出版から協同で再版されたアミタブ・アシャリア教授(アメリカンユニバーシティ教授)のThe Making of Southeast Asia: International Relations of a Regionを紹介、批評します。 この本は、東南アジアにおける地域統合プロセスの通史を書こうとした野心的な作品です。そして、東南アジアの地域統合の通史として見た場合のこの

「星の王子さま」の死ついて:第一次資料で読む

マダムスノウから「星の王子さまの死」についての電話先日サンテグジュペリの「星の王子さま」に登場するトルコの天文学者と小惑星B612についてポスコロ的な立場で旧植民地から読んで見るという記事を書いてみました。その終わりの方でアメブロのマダムスノウの記事を紹介させていただきました。 すると翌日、マダムスノウから電話がかかってきました。スノウさんはアメブロでは10年くらい詩を掲載し続けてるベテランの人気ブロガーなのですが、私にとってはリアルのお友達なので電話です。 マダムスノウ

本を出す:プロポーザルの書き方と内容

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歴史家のお仕事

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読み方について

テキストの読み方、使い方というのはいろいろある。私は「正しい読み方」というのには全く興味ない。興味があるのは、技術としての読み方だけだ。 史料を読むというのは、探偵みたいに読むことだ。「いつどこでだれが」と考えながら、書かれたことが有り得そうかどうか、矛盾する資料があるかどうか、そんなことを考えなければいけないだろう。 私の場合、職業柄大量のテキストを読まなければいけないけれど、そうでない人はそんなに大量に読まなくてもいいと思う。去年スピノザの本棚には200冊も無かったと

¥100

米澤穂信「いまさら翼といわれても」を読んで

米澤作品と出会ったのは、10年ほど前のことだったと思う。図書館で「秋季限定栗きんとん事件」という浮いたタイトルを見つけてしまった。ペラペラと数ページ読んでみると面白くて止まらなくなり、結局そのまま上下巻借りて徹夜して読み切った。次の日にこれが米澤穂信の「小市民シリーズ」の第3巻だと知って、「春季限定いちごタルト事件」「夏季限定トロピカルフルーツ事件」を読み終えた。その後、長編は「ベルーフシリーズ」以外ほぼ全て読んでいる。先日、古典部シリーズの第6巻「いまさら翼といわれても」が

小学生の私がプロレタリア文学に出会った話

私は、「左翼の牙城」と呼ばれる高校に通い、「中央委員」さえやり、学生運動で有名な大学に行き、結局今でも半歩くらいは左派の思想伝統に乗っかって書いている。 初めてプロレタリア文学に出会ったのは小学生の頃だ。しかし、あれが「オルグ」だとすれば、それはボーイ・ミーツ・ガール的なオルグだった。

陳光興の「方法としてのアジア」

日本では一部でしか読まれてないようだけれど、陳光興の「脱帝国 方法としてのアジア」という本は、デューク大出版からの英語版が出て以来、ここ10年間世界中のカルチュラル・スタディーズやエリア・スタディーズのあり方にかなり大きな影響を与えてきた。この本のヒットで、実は日本の中国研究者だった竹内好の作品も国際的に注目を集めている。中国、台湾、シンガポール、そして欧米の研究機関でもこの本の内容を反映している「比較アジア学」「超アジア学」「間アジア学」「グローバル・アジア研究」など(一見

世界史 / 書評:ビクトール・リーバーマンの「Strange Parallels」。21世紀歴史学の最重要書

ビクトール・リーバーマンの「Strange Parallels: Southeast in Global Context, c. 800-1830」は、歴史学の業界では今のところ今世紀の最重要書と考えられている。(英語の書評でもJournal of Asian Studies誌上でのラウンドテーブルでも読んでみるとよい。)ただ、2巻で合計約1800頁もある上、リーバーマン先生の文章ってけっこう単調なので、全部読んだ人は少ないと思う。日本語訳も、出すのは相当大変だろうと思う。で