世界史 / 書評:ビクトール・リーバーマンの「Strange Parallels」。21世紀歴史学の最重要書
ビクトール・リーバーマンの「Strange Parallels: Southeast in Global Context, c. 800-1830」は、歴史学の業界では今のところ今世紀の最重要書と考えられている。(英語の書評でもJournal of Asian Studies誌上でのラウンドテーブルでも読んでみるとよい。)ただ、2巻で合計約1800頁もある上、リーバーマン先生の文章ってけっこう単調なので、全部読んだ人は少ないと思う。日本語訳も、出すのは相当大変だろうと思う。できて抄訳じゃないかな。私も(自分の師匠の師匠だけれど)ななめ読みして7割位は読んだという感じ。けれど、研究でも大学の授業でも使えるので、この本と要点をまとめたいくつかのリーバーマンの論文は何度も読んでいる。
タイトルには「東南アジア」と入っているけれど、実際には南アジア、中国、日本、東南アジア、ロシア、フランスのケーススタディを使っているため、ユーラシアはほぼ全域をカバーしていると言える。重箱の隅をつつくならば、アメリカ、アフリカ、西アジアには深く踏み入ってはいない。
リーバーマンは、元々はビルマ史の専門家で、ビルマの歴代王国の行政パターンの研究で米国アジア研究協会からハリー・ベンダ賞(東南アジア研究者の優れた1冊目の本に与えられる賞)を受賞している。その後、大陸部東南アジアの研究を続けるなかで、西暦800年頃から1830年頃までの西洋史、日本史、ロシア史などとの「奇妙な並行現象」に気づいたという。これらの地域においては、共通して国家の数が減少していく現象が起きていた。また、政体はどこの地域でもより中央集権的に、より安定した統治システムに、より多い人口を抱えた都市に、より文化的に標準化されたものとなっていった。市場は拡大し、商業的な価値観が広がった。そして、「政治化された民族性」(一般的にはナショナリズムと呼ばれているもの)が政治において重要性を増してきた。歴史家たちが「西洋の特異な発展」と考えてきた多くの現象が、リーバーマンには遠く離れたロシア、日本、大陸部東南アジアにおいても起きていたように見えた。
これがリーバーマンがユーラシア全体の比較歴史研究を始めたきっかけだったと言う。特に、政体の統合のプロセスは、似たような時系列的展開をし、後の国家の基礎となる古典的な国家が現れたタイミング(8世紀から12世紀頃)、古典的な国家の崩壊(14世紀ごろ)、そして地域的な再統合のプロセス(16-19世紀)には地域を超えた類似性がある。そして、この統合と崩壊のサイクルは、時代が後になるにつれて崩壊の時期が短くなる傾向がある。つまり、危機からの再統合へのスピードが早くなった。
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