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先輩の後ろ姿に、物語を重ねる。

「若かりし頃は」なんていう歳でもないが

私にはふと思い返す思い出がある。

私が今こうやって、文章を投稿するようになった

そのきっかけの思い出だ。

もともと、文章は得意ではなかった。

字が下手だった私は、文章そのものを書くことが

少なく、国語も苦手で読解力もなかった。

そんな私が文章を書き始めたのは、手紙だ。

そんな手紙の物語は以前エッセイで好評を得た。

今日話すのは、私が物語を書き始めたきっかけだ。

最初はほんの落書きであった。

何分、美術センスのない私が出来る自己表現など

文章を書く以外なにもなかった。

周りに創作の仲間がいる環境でもないし、

むしろ、最初は見せるのさえ恥ずかしいと思っていた。

パソコンにはメモ書きの山が、見えぬゴミとして

あちらこちらに落ちている有り様だ。

そんな私が、初めて作品を見せたのが、職場の先輩だ。

その人は、私に初めて仕事を教えてくれた人でもある。

その先輩は物静かでどこかミステリアスで、

お昼には、いつも決まって本を読んでいた。

私も時々本は読んでいたので、

会社のとある飲み会で、読んでいる本についてを話した。

その先輩は、本当に楽しそうに本を語った。

大学生の頃は卒論に宮沢賢治をテーマに置いていたぐらいだ。

そんな先輩は短編をよく書いてた。

私はそんな先輩の熱量に絆されたのか、

自分の書いた作品を、初めて人に見せることになった。

相手はもちろん先輩だ。

文字数は3000文字ぐらいだったと思う。

初めてのことで、不安と期待が入り混じる。

私はそんな中、先輩の感想を待ち侘びた。

そして、第一声。

「いや、これ多分私より上手い…」

意外だった。

読みやすかったとか、よく出来てるとか、

そんな感想がくると思っていた。

その後も、言葉遣いや世界観に褒めと指摘が入り、

私の作品に色が飾られたような気にもなった。

今となっては、第一声は社交辞令だったのかもしれない。

それでも、その感想で舞い上がった私は、

調子に乗って今でも物語を書いている。

勘違いは、今も続いているのだ。

その先輩の第一声がなければ、

私は物語を書き続けてはいなかっただろう。

そしてもちろん、投稿することもなかっただろう。

私は転職をして、先輩と顔を合わせることがなくなったが

今でもやりとりはずっとしている。

先輩は今年11月の東京文フリに出店するそうだ。

もう何年も出店をしているらしい。

先輩は笑って「まだまだだよ」なんて言うけれど

私はそんな先輩の姿が眩しくて仕方ない。

私がここまで頑張れているのも、

その先輩に追いつきたい一心なのかもしれない。

これが、私が文章を投稿するようになった

きっかけの話だ。

先輩には、文フリが終わったら食事に誘った。

先輩は日本酒が好きだ。

恵比寿で美味しいお店を探すつもりだ。

また、楽しく話せるといいなと思いながら、

私は眠りにつく。

先輩には、きっとこの記事を見せることはない。

見せるには、少しばかり恥ずかしいかな。

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静 霧一/小説
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