ねこペティREMIX#19「すいか」 (エッセイ「苦手な食感」)
「すいか」
(Watermelon)
「くろいつぶつぶあるよね」
「うん」
「あれほっとくと、ちびくろむしになるから」
「そうなの?」
「でもちょっかいだすなよ」
「どうして?」
「おこらせるとからだにいっぱいのぼってきて…」
「(ごくり)」
「そこがそのままくろくなる」
「……え? ちょっとまって」
「なに?」
「 じ、じゃあぼくたちのあたまのもようも、もしかして…」
「いやー!」
「いやー!」
今回登場したねこ:ヅラちゃん、ワケちゃん
年齢不詳オス。自転車置き場にいつもいる、髪型以外そっくりな仲良し兄弟。真ん中分けがヅラちゃんで七三がワケちゃん。
「苦手な食感」
食べ物の好き嫌いはあまりないほうだと自分では思う。
子供の頃それほど好みじゃなかったものも、酒を飲み始めてからはたいがいOKになった。
転じてむしろ好きになったものすらあるので、人の味覚や好みは変わるものだと思ってる。
けれども変わらず苦手なものも、困ったことにひとつある。
「苦手な食べ物ありますか?」
たまに聞かれることがある。
穴倉にこもったような生活をしていても、誰かと食事する機会だってあるにはあるのだ。
僕の答えは2つあり、ひとつは生のエビ。
これは味は好きでも体が反応してしまうので、必ず言わなきゃ迷惑がかかる。
もうひとつのほうは、いうかいわぬか毎回迷う。
お呼ばれや外食先で出されるはことはほぼないものだし、特定の食材というわけでもないので、会話の流れでは言う必要はきっとない。
けれどたまに相手によって「聞いてほしい」の芽が生えてしまうことがあり、そんなときだけ冗談めかしたトーンで話す。
僕は「少し古くなった果物(りんご、すいか、トマトなど)を口に含んだときの、ポクポクした、無数のつぶつぶが口の中いっぱいに広がるあの感じ」が実はたまらなく苦手なのだ。
どれもそうなる前は好きなのに。
上中里にあった母の実家では朝食の皿に必ずポテサラが添えられていて、そこになぜか必ずポクポクりんごが入っていた。
母の帰省にくっついて、田舎から年一ぐらいで東京に来られるのは、物珍しくて楽しかったのだけれど、それだけはどうにも苦手で、毎朝目をつぶって飲み込んでいた。
顔にも口にも出さなかったことなので、今知れば家族は驚くことだろう。
いろいろ時効だと思うので白状しましたごめんなさい。
でもあのポテサラの、僕一人が味わっていたであろうちょっとぞわわとする感じを思い出すたび、振り子時計のあった祖父祖母実家の茶の間が瞼に浮かぶ。
僕にとっては忘れられない思い出の味だ。
※ウェブマガジン「にゃなか」掲載作品(2016~18)に書き下ろしエッセイを添えてお送りします。掲載順は当時の連載どおりではありません。
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