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なにぶん嘘日記2/21『春めく』#青ブラ文学部

山根あきらさんの企画「春めく」に参加します。


朝の家事を一通り終えると珈琲を淹れることにしている。
でも今日はハーブティーにしようかな、ナントナク。
まだ残っていたかなぁ、とお菓子箱を探る(お菓子とお茶はセットで保存)。
ガサゴソ。
そんな音を立てると、耳ざとい居候のこびとがトコトコ現れる。猫か。

「ikuちゃん、おやつたべるのっ?」
「ちがうよ、お茶飲むだけ」
「なーんだ。…今日は、コーヒーじゃないの?」
「今日はハーブティーの気分なの」
「甘くしてくれたら、こびとも飲むー」

ガサゴソ。
あ、あった、カモミールティー。

「これにハチミツ入れてあげる」
「おいしい?」
「おいしいよ」

ティーバッグを開けると、甘い香りがフワリと立ち昇る。これから活動しようという時間帯に飲むお茶じゃないけど、今日の気分にはピッタリ。
ヤカンに水を入れて火にかける。シュボッ。

「ガスの青い火ってきれいだね」
「さわりたくなるねー」
「ダメだよ!」

コトッ、コトッ。家人の杖の音がする。
お湯が沸く音がそれに重なる。ポコ、ポコ。
沸いた湯をティーポットに注ぐ。トポ、トポ。

湯気が私のメガネを曇らせる。こびとがキャハハと笑う。こびとの笑いの沸点は水より低い。
ティーコゼーを被せてゆっくりと抽出する。既定の時間よりも長めに置く方がハーブティーは美味しくなる。こびとはテーブルの上に寝転んで頬杖つきながら大人しく待っている。
再びコトッ、コトッと音がする。お茶ができたら持って行こう。

窓からは明るい陽射しがキラキラと差し込んでくる。眩しさに目を細める。
「今日は、あったかいねぇ」
そう言いながらカモミールティーをカップに注ぎ分ける。

「春めいてきたね」
こびとが、ちょっと澄ました顔で言う。
洒落た言葉を使うので可笑しくなる。

「春めいてるかー」
「うん、めいてるね。しっかり、めいてる」
しっかり?なんか変だけど、まぁいいわ。

注ぎ分けたカモミールティーを、家人の部屋に持って行く。
お茶淹れたよ。ありがとう。うぃ。
台所に戻り、私とこびとはハチミツ入りのお茶を飲む。
「かもみーるって春めいてる」
お茶を気に入ったらしいこびとが満足そうに言う。ハル、ルルルー。
そっか、だから今日はカモミール気分だったのか。

こびとがルルルーと歌いながら、カモミールティーの袋の絵を見ている。白くて小さな花。
「これ、こびと部屋に飾るからちょうだい」
「いいよ」

ふと、ブラウニングの『春の朝』という詩のさいごの一文を思い出す。


…神、そらに知ろしめす。
…すべて世は事も無し。


二月の半ば、春めいた日の朝のこと。


© 2024/2/21 ikue.m


※詩『春の朝』について。参考サイト

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※更新はきまぐれです。また、コメントいただいた場合、返信は居候の小人にさせますので失礼がありました場合はご容赦くださいませ。
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※私の日記は表題通り『なにぶん嘘日記』です。百パーセント真実ではなく、半分、あるいは三分とか八分とかの嘘、すなわちフィクションが含まれるという意味と、「なにぶん嘘もありますのでどうぞよろしく」という意味の両方が含まれております。


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