がんばって、がんばって、がんばったから。今日、わたしはパフェを食べる。
今日は、大切な日だ。
スタバでマロンラテ飲んだあとに、ピエールマルコリーニのマロンパフェを食べるという贅沢をする権利が、今日のわたしにはある。
わが家は不妊治療をしている。治療には様々なステップがあるが、わが家での大切な日とは、顕微授精の胚移植をする日のことを指す。
女性の身体からいったん卵子を採りだし、本来は女性の身体の中で行われるはずの受精を、身体の外で行う。そこでうまれた受精卵が成長して胚となる。タイミングを見計らい、胚を女性の身体へと移植するのだ。お腹にもどす、と表現したりする。
細かい説明を省いていることもあるが、文章にするとずいぶんあっさりと感じる。わが家が、この胚移植むかえるのは今回で3度目。ここにくるまで、自分でいうのもなんだけど、結構がんばったのだ。
専門のクリニックに通い出して、わたしの卵巣嚢腫(良性の腫瘍だった)があることが分かり、治療したいのに、手術のせいで前に進めないもどかしさを味わった。手術で綺麗に残してもらったはずの右卵巣は、後に、機能が残っていないと分かる。
治療開始だ!と意気込むも、自然妊娠の道が途絶える。夫の検査結果がよろしくなかったのだ。治療の選択肢はほぼなく、顕微授精にかけるしかなくなった。
心穏やかに治療に取り組めるなら、まだいいのだが、そうもいかない。心無い、「子どもはまだ?考えてないの?」という言葉。わたしより後に結婚した友人たちの、妊娠報告ラッシュ。妊婦さんの乗る車両を徹底的に避ける毎日。わたしの心はどんどん醜くなった。
もう、メンタルはズタボロだった。それでも、クリニックに通い続けるしかなくて。夫や母に助けてもらいながら、毎日注射に通ったり、薬の副作用にも耐えた。
いや、もうキリがない。挙げようと思えば、いくらでもある。経済的なこととか、仕事との兼ね合いとか。不妊治療辛かったことカルタ作れそう。でも、辛かった数だけ、わたしは頑張ってきたのだなあ、とあらためて思う。うん、作るなら不妊治療がんばったことカルタの方が前向きでいいかもな。
今回の移植日は、9月1日。仕事はお休みをもらった。栗が大好きなわたしには、願ってもない、最高のタイミング。
嬉々として、名古屋タカシマヤの開店待ちをする。まずは、デパ地下パトロールといこう。今のご時世、平日開店直後だからこそできる娯楽だね。
ああ、眼福とはこのことか。すやの栗きんとんも、仙太郎の渋栗蒸しも、たねやの栗月下も。あれもこれも、発売日。スマホで写真を眺めているだけじゃ得られない高揚感がそこにはある。和洋菓子コーナーをぐるぐるし、「また今度来るね」と心の中でつぶやいた。次に向かったのはクリニック近くのスターバックス。
スターバックス 中日本エリア限定 ハニーマロンラテ
数週間前に飲んだ、ダブル抹茶ティーラテがすっごく甘かったからかな?甘さスッキリに感じる。「スタバ、さすがだなぁ」と思うのが、飲みものなのに栗のほっくり感らしきものがちゃんと表現されているところ。上のクッキーみたいなトッピングもおいし。マロンラテは移植直前の緊張感を、ふっと和らげてくれた。
無事に移植を終え、本日二軒目。
ピエールマルコリーニ マロンパフェ
これ、過去イチ驚きのある、パフェだった。
最初は、プラリネが主張。甘くって、ほんの少しビターで。マロンクリームは上品でさりげない。
甘さスッキリのシャンティを経て、マロンアイスクリームに到達。これがもう、おいしいのなんの。香り高いラム酒が栗の風味を引き立てる。アイスの中のくだいたマロングラッセがこのパフェではじめて出会った固形の栗。
そのあと大きい固まりが出てくる。え?甘くない!マロングラッセではなく、エトフェ(蒸し栗のことらしい)だった。
次々と押し寄せるしっかりとした甘みの中にふっと現れた、栗本来の自然な甘み。ここでいったん、栗をじっくり味わえるとは。パフェでこんなことがあるとはね。
わたしがじっくりと食べ進めるせいで、もう形をとどめていないチョコレートアイス。それでも、さすがピエールマルコリーニ。シンプルにおいしいよなあ、なんて呑気にしていたら…ピリッ!なにこれ!?
底の方に、スパイスが効いたソースが入っていたみたい。あとで店員さんにきいたところ、シナモンやナツメグ、ショウガなどが入っているスペキュロス風味のソースなんだそう。これがまたいい仕事をしてる。甘いパフェをキリッとしめる辛み。
ピエールマルコリーニのパフェは小ぶりだし、上にどーんと栗が乗っかってるものとちがって、かなり地味な見た目。しかしそのグラスの中には、ドラマさながらの驚きと、張りつめたキモチをじわじわっと溶かしてくれるいやしが、ふんだんに詰まっている。
本当はこのパフェを食べるかどうか、直前まで迷っていた。栗が大好きとはいえ、ケチな性格をしているわたし。スタバのマロンラテとピエールマルコリーニのパフェを同日に、というのは贅沢すぎるんじゃあないか。特にパフェは、リッチなお値段だし。
クリニックの待合でぐるぐると考えをめぐらせた。平日だから並ぶこともないだろう。しかも発売初日に、食べれるなんて滅多にないぞ。今までがんばってきたじゃない、きっとそのご褒美にちがいない。もう1人の自分に言われたみたいだった。この贅沢は正当なものだ、と。
不妊治療ってがんばっても、がんばっても。結果に結びつくとは限らない。今回の移植だって、どうなるか分からない。少なくとも過去2回の結果には、それはもうあっさりと、希望を断たれている。膨大ながんばりがそこにはあったのにも関わらず。
だからこそ、「がんばったね」と自分に声をかけてやらねばいけない。夫や母もそういってくれるが、自分自身ががんばったとちゃんと認めてあげないと、ずっと苦しいままだ。わたしがわたしを認めてあげるツールのひとつが、スイーツ、なのだと思う。
術後2日目で久しぶりに食べたおやつは、病院内のミニストップのシュークリームと、ノンシュガーのマウントレーニアだったな。五大栄養素は病院食から、心の栄養はとろりとしたカスタードクリームがもたらしてくれた。
日曜日も注射のためにクリニック行って、帰りにタカシマヤに寄ったら、たまたま催事でアンジェリーナがやってきてたんだっけ。大好きなモンブランでお腹いっぱいなりたい!って願いを叶えてくれる、オリジナルサイズ。
ご褒美にスイーツっていうのは、よく耳にするワードだけど、ほんとうに理にかなってるのではと思う。わたしは、たしかに、何度だって、スイーツに心を救われてきた。がんばったね、って自分をいたわりながら、ここまでやってきた。「ん〜、おいし〜!」って思う存分、心をあずけながら、これからもやっていくのだろう。
ひとり静かに、しゃんと背筋を伸ばして食べたマロンパフェは、あらためて大事なことを教えてくれた気がする。
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