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五月初めの昼過ぎだというのに照明をつけないといけないレベルで室内は暗くなっていた。急速に発達した雨雲のせいだ。空は断続的に光っており、唸り声のような音を撒き散らしている。あられ混じりの大粒の雨がマシンガンのように打ち付けており、道路もベランダもうるさいぐらいだった。 こういう日は漠然と嫌な予感がするものだが、今のオレには些細なことだった。 オレは猫を焼いていた。 別に食べるつもりはないのだが、オーブンに入れて丸焼きにしていた。 窓の外を見下ろすとこの土砂降りの中
私は鹿だ。かねてより神として崇(あが)められている。 一年前、世界に大きな革命が起こった。 人類滅亡である。 私はその経過を家電量販店でテレビを見ていた。 最初は日本だった。『現代に現れたゾンビ』というタイトルで報じられ、おどろおどろしい姿に成り果て子供たちが取り上げられていた。すぐさま隔離され、襲われた人たちも隔離されたのだが、その日のうちに新宿で新たに出現。それ以来、日本各地でゾンビが現れ、更には世界中で確認されるようになった。 ずっとテレビを見ていた訳
彼についての印象をお聞かせください。 『そうですね……。頭のおかしい人ですかね?』 彼についての印象をお聞かせください。 『まあ、凄い人だと思いますよ。凄いです、はい』 彼についての印象をお聞かせください。 『イカレてますよね』 彼についての印象をお聞かせください。 『死ねばいい』 「おいおい助手君。なんだねこれは」 男は眉間に皺を寄せてA4用紙を突き出す。ボサボサの頭にヨレヨレの服、風呂には数日入っておらず悪臭を放っていた。 一方助手と呼ばれた女性は髪
彼に心臓は無い。 「僕は人間です」 こう呟くことを彼は朝の日課としている。私の役割はそんな彼をモニターし、サポートすることだ。 彼は朝七時に起きると、顔を洗い、洗濯機を回し、朝食を食べる。そしてトイレを済ませ、歯磨きをし、着替え、洗濯物を干してから、パソコンの前で仕事を始める。 私はそれと同時に掃除を始める。 洗面所は特殊な仕組みをしており、天井付近に設置された無数の噴射口からシャワーによって洗面所のあらゆる場所を洗い流せるようになっている。彼が洗顔と歯磨き
※見開き1ページ相当の小説です 眼球がグラグラする。綺麗にくぼみに収まっていない感じだ。 今さっき寝返りを打ったところで、目が揺れて目が覚めた。嫌な目覚めだ。それにしてもしかし、寝てしまった理由が不明だ。ここはショッピングモールのコーヒーショップの床の上であり、流石にこんなところで寝落ちするほど疲れていなかったはずだ。 寝返りを打つまで顔が向いていたところにはガラス越しに斜陽が落ちており、目元の辺りが太陽を浴びていたと分かる。外はすっかり茜色だ。 それにしても、
※能力主義についてのあれこれを私見も交えてまとめたものです。あえて少し極端に書いてます ガラケー三人が家に集まって、スマホXさんが公開した動画を閲覧していた。 『スマホ一万人を対象に調べた研究結果があって、能力を最大限発揮するための方法が分かりました。これを真似すれば皆さんも能力を発揮できるようになり、成功できます』 「嘘つけ」 ガラケーAはそう吐き捨て、電気ジュースをぐいっと飲んだ。 「スマホスペックのやつらを対象にした研究結果がガラケースペックの俺らにも通用す
河川敷の堤防で男が仰向けになっている。二十手前の大学生だ。指を組んで枕にし、七月の雑草に身を埋めている。彼はまるで悟りを開いた僧侶のような面持ちで青空を見ていた。雲の流れは緩やかで、真夏日を越える気温の中で直射日光が彼を容赦なく襲っていた。このままではこんがり焼き上がるだろう。 それでも彼は動こうとしない。 持ち合わせはスマホしかなく、日焼け止めも塗っていない。では焼きに来たのかというと、そうではない。本当は今すぐにでも日陰に移動したいのだ。肌が弱い方だからあまり焼
※見開き1ページ相当の小説です その人は面倒臭がり屋で、年中コタツを仕舞わないほどでした。夏場には暑苦しいぐらいですが、冷房がきき過ぎてコタツに入ることもありました。それで満足でした。寝るのも面倒になってゲームを始めて気づけば深夜テンションで朝を迎えることもあります。それでもちゃんと会社に向かいます。 社会でうまくやっていけてる自信はありません。周りを見れば色々な人がいて自分と同じような人も見かけますが、自分よりはうまくやっていけてるように見えます。みんな自分よりも足