【短編】スマホとガラケー
※能力主義についてのあれこれを私見も交えてまとめたものです。あえて少し極端に書いてます
ガラケー三人が家に集まって、スマホXさんが公開した動画を閲覧していた。
『スマホ一万人を対象に調べた研究結果があって、能力を最大限発揮するための方法が分かりました。これを真似すれば皆さんも能力を発揮できるようになり、成功できます』
「嘘つけ」
ガラケーAはそう吐き捨て、電気ジュースをぐいっと飲んだ。
「スマホスペックのやつらを対象にした研究結果がガラケースペックの俺らにも通用するなんてそんなことある訳ねーだろ」
スマホはスマホ。
ガラケーはガラケー。
そもそもスペックが違うんだから、スマホのやつらがやってることを俺たちができる訳がない。構造からして違うんだから。
「ほんとそれな」ガラケーBは力強く頷く。「こちとらタッチが反応する液晶もないんだぞ」
ガラケーCは電気酒を思いっきり呷(あお)ると、不快感丸出しの画面で言った。
「こういうやつらって無自覚に俺たちのこと見下してるよな。自分ができたからって努力が足りないとか意思が足りないとかさ。そもそも無理なやつがいるってことを分かっていないんだよ。
俺たちがどれだけ頑張ってもスマホレベルのスペックになれる訳がないし、スマホレベルが可能な努力なんてそもそも俺たちじゃ無理に決まってんじゃん。
そこら辺を理解してないから、『努力してないクズ』とか言えるんだよ。見下してんじゃねーよ。無理なもんは無理なんだっつーの」
はんっ、と彼は自嘲気味に息を吐いた。そんな彼の肩にガラケーAが楽しげに腕を乗せる。
「恵まれてるやつは自分が恵まれてることに気づかないんだよな。生まれながらにスペックが良くて、環境も良くて、それでいて、俺たちみたいなのを『努力してないやつ』ってレッテル貼るんだからよ」
「そうだそうだ。ガラケー舐めんなよ」
ガラケーBが二人を見ながら電気菓子をつまむ。
「俺たちの中にももしかしたら『隠れスマホスペック』のやつもいるのかも知れねーけど、そんなの極一部に決まってるしな。じゃなかったらとっくになんとかなってるってーの」
「社会は一応俺たちにもチャンスをくれるけどさ」ガラケーAは電気ジュースを飲むと、一転、深刻そうに長い息を吐いた。その視線はどこを向いているでもない。
「実際、能力の無いやつなんて求められてないもんな。『平等に与えられてるチャンス』なんてのは、聞こえのいい綺麗事でしかない」
ほんとそれ、とガラケーCも深刻そうにジョッキを見つめる。
「俺たちガラケーが何人も集まって、それでなんとかあいつらを見返せるとしても、人件費の問題で叶わないしな。あいつらなんて一人でいいんだから、そりゃ会社だって俺たちよりもあいつらを雇うさ」
「ま、もうこんな世の中だしな。ガラケーなんか要らないってことだろ」
ガラケーAがそう言って、二人は僅かに顔を伏せた。
一瞬の沈黙。
ガラケーBが溜め息。
「運よくハイスペックに生まれてるやつからすれば、自分が運だけで成果を上げているなんて思われたくないんだろうけどさ……。現実問題として無理だよな」
「「なー」」
「誰か社会制度見直してくれないかねー」
「てか、スマホ連中はもっと自分たちが恵まれてることを自覚してほしいよな。それで俺たち〝どうしようもないやつら〟が少しでも成果を上げられるように〝持ってるもの〟を使ってくれよ」
「結局俺たち全員が社会の一員な訳だしな。俺たちだって俺たちにできる限りの努力をやってんだから、あいつらだってできる限りの努力をやってほしい。『自分と同じようにこうしたらいい』って伝えるんじゃなくてさ、もっと建設的な活動をしてくれって感じだ」
「ま、ここら辺の感覚をあいつらが理解してくれないと、いつまで経ってもこのままなんだろうけどな」
「そうそう。だからどうせ俺たちの愚痴なんてのは『他人任せにしてるだけの戯言』程度にしか認識されないのさ」
「だから、まあ、俺たちもちゃんと言っていかないとな」
「そうだな。行動しないと」
「このままだといずれ廃棄されるだけだしな」
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