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みんなさ、命を削ってんだよね

目の前でひとが亡くなった話をしよう。
グロテスクだとかではないけど、不謹慎だとかひとの死をネタにするなとか思うなら見ない方がいい。




もう5年ほどにも前になるかな。
僕は某スポーツクラブで働いてスイミングのコーチをしていた。
と言っても。そんなに大したものではなくて、アルバイトだし、特に資格も持っていはいない。
ちょっとだけキレイな泳ぎができて、なんとなく教えられるってだけ。


僕は初級者コース(クロールと背泳ぎ)のコーチを任されていて、隣に中級コース(平泳ぎ)、またその隣に上級コース(バタフライ)が設けられていた。スイミングスクールの階級とはだいたいそんなような分け方をされていて、僕は初級なのでいちばん壁際のコースでおじさんやおばさんに教えていた。こどもを教えるのは夕方からだ。

いつも通りに教えていて、何事もなく終わる予定だったのだが(そりゃそうだ)事は起こってしまう。高齢者がたくさん来ているという事は「オトナだから大丈夫だろう」と安心してはいけないな。


僕は生徒側を向いていてこれから何を話そうかとちょっとだけ考えて、ぼーっとしていた。(ちゃんと仕事をしているぼーっとである)
後ろの方でひとだかりができてガヤガヤしている、ちょっと見ただけだと、誰かおもしろい教え方か何かしてみんな集まっているんだろうと思っていたのだが、なんだかそれとは様子が違う。

みんな唖然としているし、楽しそうではない。

これは何かあったな。と、おばちゃん生徒を放っておいてプールサイドに上がり駆け寄ってみた(プールサイドは走ってはいけない)。
ひとが倒れていて、先輩のチーフコーチが大きく話している。

「……さーん!大丈夫ですかー!聞こえますかー!」

顔には全く力がなく、目にも輝きが全くない。
その様子を見た瞬間に僕はAED(心肺蘇生装置)を取りに行かなきゃと思った。あんまりその時の瞬間は覚えていないのだけど、チーフコーチも早くAEDを持ってきて!と叫んでいたと思う。

急いでAEDを取りに走りもらってきた。女性の水着をハサミで切断しAEDをペタペタと胸に貼る。(救急隊はすでに呼んである)
みんなに離れてもらって「ピピピっハナレテクダサイ」とかなんとか鳴るのだが女性に反応は全くない。
チーフコーチは倒れてしまった方の名前を呼び続けていたかな。「帰ってこい!」とか「起きてー!」とも叫んでいたと思う。僕はなぜか冷静になっていて、他に何かできる事はないかとひたすらに考えていたが、蘇生動作中はAEDに任せるしかないので、あと僕らにできる事は蘇生を願う事と救急隊が早くきてほしい事を願うのみだった。

AEDの音を聞くためにスーーっと静かな空気がその場所に漂っていて、それがなんとも悲しいような情けないような気持ちにさせていた。


意識が戻るのを願うばかりなのだが、AEDをしている最中は近づけないので、倒れたその女性を放ってある程度離れて皆で見ている状況がひどくザワザワした気持ちにさせた。(一応僕は胸があらわになっていることもあって、遠くにいた)



実を言うと内心僕は、なんとなく「もうダメだな」と思っていた。

もう全く動かなくなっていたし、青白くなって目は半開きで生気も全く感じられない。(いや、意識のないひとなんてそんなものなのかもしれないけど)そんな状況からパッと息を吹き返すなんて考えられなかったのだ。

そんな事は思っちゃいけないんだけどね。
ひとの命に関しても僕は諦めてしまうのが早いんだなと大反省したのを覚えている。

しばらくすると救急隊が到着して女性を運んで行ったが、こちらの必死な処置を無駄にするかのように急ぎもしない救急隊に皆が苛立っていたのが印象的だった。
僕は救急隊もなんとなく「もうダメだな」と思っていて、そういう仕事ぶりなんだろうなと内心思ってガッカリした感じに見送った。



命の尊さを語るひとが多くいる中で、冷たい考えを持っている自分も嫌になったな。


命の尊さってなんだろね。みんないつ死ぬかわかんないくらいに命削ってんだよね。

命削って元気になろーかな。



命を鰹節化計画、これからの僕は。

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