「殺人出産」が現実味を帯びてきたね2022年
村田紗耶香 「殺人出産」
*ネタバレ注意*
Twitterで「子宮移植」がトレンド入りしたからか、図書館で自然にこの本に手が伸びていた。
一番胸に来たのは、環の膨らんだお腹をミサキが触りながら、二人が交わす会話。
まさに今この瞬間にも、最寄りの産婦人科の一室で交わされている情景が浮かぶようなシーン。
その、物語のコンセプトからある種切り離されたような「神聖さ」に、奇妙な畏れを感じた。
産み人システムが正義に変わった世界でも100年前の、つまり今の世界でも
新しい命を宿した女の腹の前で交わす言葉は変わらない。
その空間の中に存在するのは、政府でも、
精子提供者でも、人類存続という大義でもなく
新しい命を宿した者と、新しい命と、
その現象に触れる者
他には何も寄せ付けない、眩しい光ようなバリアがその空間から放たれているイメージでここは読んでた。
(まあその直後に「産み人の子供はみな兄妹」という環の発言で一気に世界観引き戻されるんですが)
でも逆に考えると、そういう「生」に関するシーンに不可侵性を感じること自体、
長らく女性を縛り付けてきた「母性神話」の格好の餌食なんではないかとも思う。
出産という能力を持つ「尊い」女を神話化することで、子育ての大義名分を一手に担わせ、
それでいて血みどろ部分は「穢れ」として覆い隠す。
っと、初投稿でここまで言うとフェミニスト叩きに合うのかな、と書きながら思う。まあこんな末端ライターまで目ざとくほじくる奴おらんやろ(鼻ほじ)
あと印象的だったのは、読み手に一番近い距離であるはずの語り手「育子」が、
最終的には姉と一緒に生き体(?)から生命エネルギーを切り出すことに唯一の「正しさ」を見い出したとこ。
これすごいよね~~旧正義と新正義間のグラデーションとして、読者の身代わりとして常に揺れ動いてくれていた主人公が、
最後に正義に確信を得たことで、今度は読者自身を主人公の舞台に引きずり出し、その足元をぐわんぐわんに揺さぶるっていう。
そして最後に自らの手で1つの生命を終わらせ、それより多くの命を生み出すことでその落とし前をつけようと決心する。
ここは完全に「10人産んで1人殺す」システムが、育子の中に倫理的な正しさとして落とし込まれた瞬間なんよなあ
へあ~~面白かった~~夢中で読んじまった~~トリプルとか清潔な結婚も感想書きたいけど力尽きたから今度気が向いたら書こ
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