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詠金魚
2018年11月16日 08:43
冬の朝ははやく、カーテンを開けば白む窓には露が落ちる。やかんに白湯を点て、未明の過ぎた身体を温める。珈琲を淹れる日課はない。珈琲は好きだ。ただ、珈琲の好き嫌いがある。若い時分暮らしていた町で知り合った、珈琲店を営むご夫婦を思い出す。彼らは、大きくはない町のなかに珈琲の香りを広げることに夢を広げていた。 ご主人は、よく外国から葉書をよこした。葉書には、日焼けした彼の笑顔と背に広ぐ珈琲農園
2018年11月15日 15:13
大正生まれの祖母は戦時中の苦労話などを一切語らないひとだった。わたしの知る限りに、祖母の耳は遠く、それが老人性だったか否かも知らずにいた。体小さくあり、更にその容貌は、わたしから見ても年老いになく少女のような愛らしさ、そして愛されていた。一度だけ、伯母の酩酊具合の教えてくれたことがある。伯母たちが小さかった時分の祖母の母親像というものを。 わたしにとっての祖母と、伯母たちにとって
2018年11月14日 21:45
ひとは忘れながら生きていく。記憶のcapacityは表面張力の働かない風呂のよう。引力を無視される。その代わりに湯張り番がいる。番頭さんだ。 番頭さん、番頭さん、今日の湯かげんはどうだい。昨日の湯はどこぞへ流れたかね。湯の行く末は、番頭さんの懐だ。懐が広いね番頭さん。 うちの番頭さんは、すこしせっかちで今日の湯も流しちまうことがある。そう慌てなさんな。月はまだ高いよ番頭さ