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複雑性PTSDはハイパーグラフィアになる可能性がある



まえがき

 まず最初に言っておかなけばならない事があります。あくまで筆者は複雑性PTSDであって、医療従事者ではありません。なので、医学的な観点からの記事ではない事に留意してください。

ハイパーグラフィアとは?

ハイパーグラフィアは、書いたり絵を描いたりしたいという強い欲求を特徴とする行動状態です。ハイパーグラフィアの形態は、書き方や内容によって異なります。これは、てんかんおよびゲシュヴィンド症候群の側頭葉の変化に関連する症状です。 側頭葉てんかんによって損傷を受けた場合にハイパーグラフィアに影響を与える可能性のある構造は、海馬とウェルニッケ野です。側頭葉てんかんは別として、化学的原因が過書症の誘発に関与している可能性があります。

Hypergraphia - Wikipedia

 側頭葉に損傷を受けた人は、ハイパーグラフィアになる可能性があると解釈して、これを前提に話を進めます。

複雑性PTSDとは?

PTSD(外的ストレス障害)は大きな自然災害,人災,
激しい事故,個人的な暴行(性的暴行,身体的攻撃,
略奪,強盗),戦争などで自分や親しい他人が死に直面
するなど過度のストレス事象を経験することで発症す
る。PTSD の主な症状として突然ストレス事象を想起
したり(フラッシュバック),ストレス事象の記憶を新
たに書き換えたり忘却したりすることが困難となる。
このようなストレス事象の強固な記憶固定はその後の
社会活動において大きな弊害となる。海馬は記憶の形
成に関係する重要な脳領域であることが知られている。
また,先行研究において数か月間 PTSD を患った患者
において脳の海馬領域が委縮することが知られている
(Woon et al., 2010)。

ストレス科学研究29巻 (jst.go.jp)

 戦争や災害、虐待、犯罪に遭うなどして、トラウマを抱えてフラッシュバックに悩まされている人は、側頭葉が萎縮し、海馬が変形している事が分かっています。
 詳しくは、こちらの本を参考にしてください。

 ハイパーグラフィアとPTSDの共通点は、「どちらも海馬が損傷している」という点です。
 この事から、一つの仮説が考えられます。それが、「PTSDの人はハイパーグラフィアになる可能性があるのではないか?」です。

PTSDはハイパーグラフィアになるか?

 私は複雑性PTSDの当事者であって、PTSD(いわゆる単発性PTSD)ではないので、あくまで複雑性に重きを置いて話を進めていきます。
 さっそく本題です。
 上記の通り、複雑性PTSDの人は海馬に損傷を受けています。その為、『物忘れ』や『記憶喪失』など、記憶に関する障害が発生します。そういった状況に至った場合、『覚えておかなければならない事は文章に書き残す』といった手段に出る人がいてもおかしくありません。
 現に私は、自分が記憶喪失だと自覚した小学校低学年あたりから、日記をつける癖が生まれました。
 当事者にとって、メモや日記は『もう一つの記憶媒体』となるのです。
 さらに、『文章を書く行為に、生き甲斐や遣り甲斐を見出す人』が生まれる事もあり得るのではないでしょうか。
 現に私は、執筆中毒と表現できるほど文章を書く行為が大好きですし、同世代に比べて、書く速さが秀でています。学生時代、読書感想文を夏休み突入前に書き上げたのは私だけでした。
 そして、私のブログには、哲学的で自伝的な意味を含んでいます。

「書きたがる脳 言語と創造性の科学」によると、ハイパーグラフィアの特徴は「同時代の人に比べて大量の文章を書く」「外部の影響よりも内的衝動に駆られて書く」「書いた文章が本人にとって哲学的・宗教的・自伝的意味を持っている」「書いた本人にとって意味があり、文章が優れている必要はない」とされています。

取りつかれたように文章を書きまくる「ハイパーグラフィア」がよくわかる実例 - GIGAZINE

 また、ハイパーグラフィアは統合失調症の方がなりやすい病気とされていますが、これは幻覚によるものです。
 例えば、「超自然的存在からの神託を授かったから、言葉にして世に届けねばならない」みたいなものですね。
 因みに、これも私の症状と類似します。そして、該当の記事がこちらです。
 神様の声を聞いたくだりが出てくるので、ぜひ読んでね(笑)

 「複雑性PTSDにそんな症状あるのか?」と思われたかもしれません。
 あまり広く知られていませんが、稀に「解離性幻覚」と呼ばれる症状が現れる事があります。
 統合失調症だと誤診されるほど、複雑性PTSDと統失には似通っています。

解離性幻覚は、辛い体験を自己意識から切り離したとき、そこにフラッシュバックが起きると、その辛い体験が外から聞こえたり、外に見えたりすることになって生じる解離性の幻覚である。

このような幻覚(われわれはお化けの声、お化けの姿と呼んでいる)は、被虐待の既往をもつものにしばしば認められる現象であるが、統合失調症と誤診されることも少なくない。

杉山『発達性トラウマ障害と複雑性PTSDの治療』誠信書房



以下に引用する宮地先生の論文も、複雑性PTSDと統合失調症の異同を論じたもので、ICD-11で言及されているような幻覚妄想といった陽性症状にも触れられています。



幼少期の虐待体験(性的虐待、身体的虐待、心理的虐待、ネグレクト)が、幻覚妄想などの精神病様症状を惹起することも明らかになっている。

その症状発現は虐待の程度や累積度に依存しており、例えば、身体的虐待のみを受けるよりも、そこに性的虐待が加わった人の方が、症状を呈しやすい。症状の内容としては、幻覚妄想など陽性症状が中心であるが、陰性症状や思考障害との関連についての報告もある。

全体的な指標で見ても、複雑性PTSDの患者ではMMPI統合失調症尺度の値が高くなる。

このように、虐待など慢性的な極度のストレス体験が統合失調症様の症状を呈することは数多くの研究で明らかにされている。

(中略)

心理学的には、被虐待、特に性的虐待が解離症状を引き起こし幻覚を惹起する素地となること、自己無価値感や他者信頼感の欠如という否定的認知や愛着形成不全が妄想の発現につながること、養育者との対話のずれや狂いが思考障害と関連することが指摘されている。

(中略)

リードらのトラウマ神経発達モデルによれば、長期的な幼少期虐待がストレス制御を司る脳内回路(HPA)にダメージを与え、結果、ドーパミンやセロトニンシステムが変化するために、統合失調症様症状を呈しやすくなるという。

そして幼少期トラウマにより受けた脳の変化は成人になってもなお持続し、この変化は統合失調症に認められるものと共通していることが報告されている。

宮地. 清水., 複雑性PTSDと統合失調症. そだちの科学: 36 (4), 46-53, 2021



このように見てくると、複雑性PTSDは「心因性精神疾患」よりも「身体因性精神疾患」として考えた方が良さそうに思えてきます。

複雑性PTSDと統合失調症様症状 | ISTこころみクリニック大門浜松町 心療内科・精神科 (ipt-clinic.com)

 私が学生時代に見た神の姿や声は、解離性幻覚によるものだと、主治医から診断を受けています
 その幻覚を現実だと思い込んでいると、「この真実を世間に拡散しよう」という責任感と焦燥感に駆られて、尋常じゃないほどの文章を執筆してしまうのではないでしょうか。
 かく言う私も、医者から言われるまでは、「これは現実だ」と思い込み、「神様は本当にいる」という趣旨をブログに書きまくるようになっていました。

 また、もう一つの視点としては、「文章を書く事そのものが、現実逃避の機能を持ち、複雑性PTSDの人にとっては依存しやすい行為なのでは」という点です。
 どういう事かというと、虐待を受けて育った人は、辛い現実から逃げたくなります。そこから逃避や解離と呼ばれる症状に悩まされるのですが、その中に、『妄想』もあると考えています。
 これも実体験です。幼い頃の私は虐待と学校での虐めがあまりにも辛く、無意識の内に空想の世界へ没入するようになっていました。そこから、その妄想の内容を書き止め、小説として作り上げるようになりました。
 その名残から、今でも小説を書く趣味があります。

 これはホラー小説で、暴力的で残酷な描写を含むのですが、これも複雑性PTSDの人にありがちな妄想のようです。
 この事は、トラウマ研究の世界的権威・ベッセル・ヴァン・デア・コークの研究で分かっています。
 虐待を受けた人は、何気ない家族写真やロールシャッハテストを見ても、暴力的な想像をしやすいそうです。
 現実と妄想の区別がついていなければ、いつの間にかハイパーグラフィアになる事もあり得るのではないでしょうか。

詩人や作家は、何ものか(ここでは詩神と表記されている)がアイデアを囁いているかのような体験をする。
それが、現実のものと錯覚すれば、統合失調症の幻聴ということになる。
あるいは、神のものだと考えれば、宗教的啓示となる。
内なる声、詩神、幻聴、宗教的啓示、というのは、同じ現象の様々な程度の違いなのではないだろうか。

『書きたがる脳―言語と創造性の科学』アリス・W・フラハティ - logical cypher scape2 (hatenadiary.jp)

 以上の事から、複雑性PTSDはハイパーグラフィアになる可能性があると言えます。

あとがき

 ハイパーグラフィアにとっての執筆は、多くの人が思っているほど苦痛なものではなく、人生そのものなのです。

書くことは人間の至高の営みのひとつだ

ハイパーグラフィア・・・書くことは私という人間の至高の営みのひとつ! - 脳のミステリー (goo.ne.jp)

参考文献


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