ご褒美ビール
「あーーーーっ!!!惜しいっ!!!」
釣りをしようかっていうと、「餌をつけるのがね~。気持ち悪いのよね」なんて君は言うけど、この島の釣りに、餌なんていらない。
ほら、あの堤防の先、あそこがいいんだ。
あんな所で釣れるわけないって?
いいからいいから。まあ、ついて来てよ。
わぁ~~~綺麗ねえ~~って、そうだろ??綺麗だろ?
堤防から下を覗き見ると、青と緑と反射する光のグラデーション。
その中をキラキラと泳ぎまわる魚の影。
「餌なんかつけなくていいからさ、釣り針で引っ掛ける感じで。」
貴方は簡単に言うけど、そんな釣りの仕方、聞いたことないわ。
「大丈夫、大丈夫。レッツトライ!」
笑いながら、プシュッと缶ビールを開ける。
あーずるい。
自分ばっかり。
「一匹釣れたら、ご褒美ビールだよ。」
彼女が真剣になる。
ゆっくりゆっくり、針を魚の近くに寄せて行く。
「・・・ああっ!!!・・・・駄目ー!!」
大丈夫、大丈夫。
もう一度、もう一度。
「・・・・・あっ!!!」
「・・・・もうっ!!!」
「・・・・あーーーーっ!!!!」
今年の夏を思い出すとき、彼女の中に一番残るのは、何だろう。
そんな事を考えながら、ぷしゅっ!2缶目を開ける。
「こがんところで、なんばしよっとね。」
ああ、引っ掛け釣りをやってるんですけどね。
「ああ。そがん。ばってん、どーして魚の方がすばしこかろうもん。
姉さんにゃ難しかろうだい。」
いや、お爺さん、うちの彼女、結構集中力あるんですよ。
いつの間にかやって来たギャラリーのお爺さんに、ビールを勧める。
2人の男に見守られて、彼女は益々真剣な表情。
「あ・・・・」
「もうっ!!!」
何度も何度もトライするけれど、さすがに無理かな。
魚の方も用心してくるだろうし。
「きゃーーっ!!!!やったっ!!!
釣れたぁ~~~っ!!!!!」
「おお!姉さん、釣りなはったばい!!」
「釣れた!釣れたよ!!!」
小さな10cm程の魚を示しながら、最高の笑顔の彼女。
「やったな~~。」
「ね?うちの彼女、凄い集中力でしょ?」
敬意をこめて
僕はご褒美ビールを渡す。
ポケットの中に忍ばせていた小箱と一緒に。