駒込〈古書古本〉休日
我が家には雑木が生えている。枝木を剪定しながら、無闇に維持している、何の思い入れもない、雑木。
通りに続く旗竿地の"竿"の始まり、門戸の足元に野鳥のトイレがある。一定の場所で白っぽい糞があるのだ。臭いはないので、枝でほじくり、隅に箒で掃いてしまう。
野鳥さんたち。
憩いの場にするのはやぶさかではないが、もう少し目立たない場所でしてくれないだろうか。そのポイントにどんな都合の良さがあるかは知る由もないが、通り道であるため不快です。
どうすることもできない現実を前に、さっさと作業を終える他なく、あらかた家事を済ませて家をでた。
空は快晴、古書店日和。
一路、総武線と山手線、目指すは「BOOKS青いカバ」。
名勝・六義園のお膝元にある、今回で三回目の訪問となる古書店である。
山手線・駒込駅の南口、六義園方面へ出て、横断歩道を渡るとローソン、六義園を目指して歩く。
有名な蕎麦屋「小松庵総本家 駒込本店」、染井門、築年を重ねた渋いマンションたちを横目に、本郷通りを南下。不忍通りとの交差点に差しかかると青いテントが見えてくる。横断歩道を渡って、東洋文庫ミュージアムの手前に「BOOKS青いカバ」がある。
街は森閑とした、非常に落ち着いた雰囲気が流れ、名勝のオーラが漂っている。店に辿りつくまでに、心のムードまで変わるような気がしてならない。本日は狙いの本があってきたが、それに縛られることなく、自由に見ていこうと心に留め、入店する。
入口から古本が並べられ、昔懐かしい気分になる。
入店してすぐ、中央に新刊のコーナ―がある。新書から単行本、文庫本と並び、右手に児童書・図鑑・絵本、さらに海外文芸などの単行本。左手に文庫、奥へ行くと、日本文芸、海外文芸。右奥は画集や写真集などが所せましと陳列されている。所々、未整理の本たちが積み上げられ、目線を上げれば何らかの全集や、それなりに高額の古書があり、気になるモノが多い。
これはいくら時間があっても足りない。
狙いの本はない。おそらく、倉庫か何処かにあり、ネットで注文が入れば配送ということだろうと、合点し、店内をウロチョロすることにした。予算は12000円くらいに設定し、とりあえず日本文芸のコーナ―へいく。
戦前・戦後と思われる古書から、比較的新しい現代文学、中には新刊もあり、先日芥川賞を受賞された安堂ホセさんの『デートピア』もあり、非常に悩ましい。古書は函に入っているものが多く、値段を見ると1000円程度から1万円を越えるものまであり、比較的リーズナブルである。高価な古書が並ぶ店も素敵だが、こうした、敷居が比較的低い店はやはり、魅力的である。
そして、とりあえず一冊。なんと、発行は"昭和五年(1930年)"とある。小説ではなさそうだが、戦前の中国について書いてあるらしい。
「これはエラい本と出会った」と足取りも軽く、海外文芸コーナ―。
赤と白のコントラスト効いた表紙、透明のカバーがされたロシアのSF小説を手に取る。
「よし、後は文庫本だな」
日本文学、哲学書(思想書?)と手に取り、
「あと一冊だな」
と、SF小説を探る。『異星の客』は魅力的だが、新品で買ってしまった。そこまでハインライン・ガチ勢ではないので、色々と手に取ってみる。
「アレ、透明ビニールで包装されてるぞ」
「うん? 2000円。文庫本で?」
「サンリオSF文庫? ハローキティの?」
まぁ買うよね。
帰宅後に調べてみたら、SF小説のオールドファンであれば常識の、今や伝説のSF叢書で、1978年から1987年にかけて刊行されていたらしく、一部はプレミア化し値段も高騰しているそうだ。
会計を済ませるとき、店主の小国さんが一冊オマケしてくれた。
(こんなこともあるのか)
と、駒込駅へ向かう帰路。古書店特有の出来事に、歓心を得た。
本日、六義園はなし。
小春日和も清々しい三月か、二月の末にでも訪問するから(それ以前もアリ)、その時は開店前に入園することにしよう。
こうして、素敵な古書店での時間が過ぎ去った。
一般書店にはない出会いがあり、スリリングで、新たな世界の扉が開く。
今日来なければ、サンリオSF文庫の存在を知ることは無かったかもしれない。Amazonを見ても、知らなければ目に入ることはなかっただろう。古書店は絶版や、再版の予定のない、今や貴重な本が山ほどある。マイナーであれば、まさに一期一会。ロマンチックに言えば運命の一冊。
やはり、リアル店舗が一番。
益々、書棚が充実していく。
そして、午後七時。
腹が減った。
昨日の"ニンニクたっぷり麻辣醤の砂肝"が残っている。
そこに茄子をぶち込み、麻辣茄子とする。
読書とネットサーフィンで夜が更けていく。
中々、素敵な休日。
明日からの仕事に備えて、英気を養うこととする。