英語&翻訳解説【Running Away】
まず曲を理解する
「自分自身から逃げることはできない」、「どんなに苦しくても現実から逃れることはできない」というナンバーです。
命を狙われた銃撃事件の直後、政治的暴力が渦巻いていたジャマイカからロンドンに逃れ、音楽活動を再開していたボブは、彼を自分たちの代弁者として120%支持していたジャマイカの民衆を過酷な現実に置き去りにし、安全で快適な環境に身を置いたため、批判に晒されていました。
「逃げてなんかいない」とジャマイカのファンに向けてどうしても言わなければいけなかった当時の状況がボブに書かせた作品です。
後半部分で安全地帯に「逃げた」という批判に対して「そうじゃない」と反論しています。
でも、それだけの曲じゃありません。
異なった時代や社会に暮らす我々の心にもずっしりと重いものを残すナンバーです。
どれだけ必死で試みても、どれだけもがいても、自分自身を捨て去り、別の人間になることはできません。
世界にひとりしかいない自分をありのまま愛して受け入れるんだ、そうボブが一対一で我々に語りかけてくるような気がするナンバーです。
英語表現と訳し方
You running and you running
And you running away
Run awayは、run(走る)+ away(遠方へ)で、「急いで立ち去る」というフレーズです。
「逃げる」という意味で使われます。
Escapeとかfleeとかget awayと言い換えることができます。
現在進行形でrunを3回も繰り返して強調しているので、少し工夫して「お前は走り続けて逃げようとしてる」と訳しました。
Something wrong
「何か間違ったこと」という意味でよく使われるフレーズです。
Something(何か)+形容詞はネイティヴ話者が多用する英語らしい英語表現です。
例えば、something good(何か良いこと)、something strange (何か奇妙なこと)、something incredible(何か信じられないこと)という風に使います。
Wrongは「間違っている」、「誤った」という形容詞です。
「正しい状態から外れている」というニュアンスがあります。
道徳的な悪とか不十分さを表わすbadとは区別して使うべき言葉です。
Something badと言うと、「何かひどいこと(悪いこと)」という意味になります。
Find the place where you belong
直訳すると「お前にふさわしい場所を見つける」です。
Belongには「あるべき場所にある(いる)」という意味があります。
「あるべき」で「ふさわしい」場所こそがその人の居場所です。
このパート、少し繋がりがわかりにくいので補足説明しておきます。
お前は「何か間違ったことをした」結果として「居場所」を失ってしまった、だから「逃げようとしている」と指摘している歌詞です。
Every man thinketh
His burden is the heaviest
Every manはeveryoneと同じです。
ボブが愛読していた旧約聖書King James Versionに繰り返し出てくる表現です。
Burdenも聖書で多用されている言葉なので、統一感を出すためにevery manになっているんだと思います。
Burdenは「重荷」です。
荷物だけでなく、「義務」とか「責任」とか「税金」とか「心配」とか「苦しみ」など、負担になっている様々なものを指します。
Thinkethはthinksの古い形です。
「自分の荷物が一番重い」というのは、言い換えれば「自分が一番苦しんでいる」ということです。
分かりやすくするため、後者の形で訳しました。
Who feels it knows it
直訳すれば、「それを感じる者にはそれが分かる」です。
逆から言えば、「それを感じない者にはそれは分からない」です。
「それ」とは「苦しみ(burden)」のことです。
苦しみは体験した本人にしか分からないというのがこのことわざ的フレーズの意味です。
少しだけアレンジして「苦しさが分かるのは苦しみを感じる者だけ」と訳しました。
今回調べてみるまで知りませんでしたが、who feels it knows itは英語圏カリブ海諸国で共通して使われる定番表現らしいです。
レゲエナンバーでもよく使われています。
ウエイラーズ(メインボーカルはBunny Wailer)
ジミー・クリフ
ロメイン・ヴァーゴ
Live with no strife
直訳すれば「strifeなしに生きる」です。
Strifeは「争い」とか「衝突」を指す言葉です。
Conflictとかstruggleと言い換えることができます。
ジャマイカの人たちが置かれた状況とは正反対というニュアンスを出したかったので、「争いがない暮らし」と訳しました。
It’s better to live on the housetop
Than to live in a house full of confusion
Housetopは、house + topです。
「家のてっぺん」、つまり「屋根」を指します。
この箇所は旧約聖書の次の言葉をボブがアレンジして作ったものです。
「いさかい好きな妻がいる広い家」という部分を「無秩序な家」と言い換えています。
「無秩序な家」とはジャマイカのことです。
「屋根」とは避難先ロンドンでボブが暮らしたタウンハウス(townhouse)を指します。
ちなみにボブのベッドルームは4階建てタウンハウスの最上階(penthouse)、つまり「屋根」に相当する場所にありました。
「無秩序なジャマイカよりはロンドンのペントハウスに住む方がいい」というのがこの歌詞の意味です。
I made my decision
I decided(俺は決めた)の別の言い方です。
I made up my mindと言い換えることができます。
Makeを使った似た表現はほかにもいろいろとあります。
いくつか例を挙げておきます。
Make a mistake ⇒ 間違いを犯す
Make a move ⇒ 行動を起こす
Make a commitment ⇒ 確約する
Coming to ~
Come toの後ろに動詞が入ると「~するためにやって来る」という意味になります。
Come to seeだと「会いにやって来る」、come to celebrateだと「お祝いにやって来る」です。
成句的表現では少し意味が変わります。
Come to understandだと「理解できるようになる」、come to stayだと「定着する」です。
When it comes to ~ という言い方もあります。
「~に関していえば」という定型フレーズです。
When it comes to playing football, Bob was second to none(サッカーをプレーすることにかけては、ボブは誰にも引けをとらなかった)という風に使います。
韻を踏んでいる箇所
次の2か所で韻を踏んでいます。
翻訳する上で苦労したポイント
Who feels it knows itがかなり難しかったです。直訳では意味がうまく伝わらないのでいろんな言葉に置き換えてから比較検討して一番分かりやすく自然に言葉が流れていく訳を選択しました。
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