
生きてるうちにできる自己表現なんて
『あいつさぁ、わかってないよね』
彼が声を大にして言った。
『だから危ないと思ったんだよ。チャンキナは。』
また違う彼は目を合わさずにつぶやいた。
『んー、まあ、しょうがないんじゃん?』
彼女は無責任に画面を見ながら口から音を発した。
私は昨年の夏前に社会的には大きな失敗をしました。
でも、人生的には今思えば大成功だったかもしれなくて、物事は多面的に捉えることで全てがマイナスにはならない事を知った。
なんとなく、仕事をして、なんとなく日々の空気になじんで過ごしている。よく言えば安定的な生活で、きっとお父さんやお母さんはソレを望んでいるとは思うのだけれど、意図的ではなかったとはいえそんな空気に馴染んだ生活を辞めた私のお話。
ようやく自分をアウトプットできるようになってきたから、少し呼吸がしやすくなりました。
私に起きたこと、伝えてみたいと思ったのでこの記事を書きます。
■私は長年続けてきた事を辞めた
突然ですが私は、10年以上飲食の接客に励んできました。
飲食業従事者ならわかると思いますが、昨年のコロナで初めて緊急事態宣言が出てから先の見えない戦いが始まって、罪なきお店が潰れたり、その影響で生活に支障が出た人も少なくはなく、本当に辛い戦いが今でも続いています。
私もこのコロナがきっかけで長年続けた接客というものから離れることになったのですが、離れた理由はただ勤めていたお店の経営がうまくいかなくなったから。というものではではありません。それとは似て非なるものです。
身の回りに説明するときは面倒に思われたくないので『コロナでお店大変で辞めたんだ』なんていうんですけれど。
■ちょっと変わったお店
私が勤めていたお店は少し特殊なお店でした。
素敵なシェフが作る、少々ハイクラスなお料理を食べながらマジックが見れるお店。
よくあるマジックバーとは違って、本当にゆっくりお食事も楽しめてプロが見せるマジックを楽しみながら、給仕するスタッフとお客様とでも会話もはずむ、そんな素敵なお店でした。
私はそこでお着物を着て接客するスタッフをしておりました。
お店は1店舗しかなく上にはまた別の会社がありまして。なんでかそこがIT系の会社だったんですね。
もちろんそのお店の経営に関してはそのIT会社の社長が行っているので、飲食のことは無知なんだな・・・と思う節があっても、雇われのみである私たちはイエスと言って働いてきました。まあ良くありますよね、こういった形態は。
■人を貶す言葉を吐く40代
さて、問題はその代表取締役。もう今だから言ってしまいますけれど、よくそんな言葉吐けますねってくらい幼稚な言葉で人を貶すし、お気に入りの女の子には色眼鏡。ってタイプで大っ嫌いでした。(あースッキリ)
もうどんな人だったかをすでに述べてしまったので詳しく書くつもりはあまりないのですが、自分が見下した人に対しては『あいつ馬鹿だからさあ』『あいつゴミみたいな態度じゃない?』『可愛くないよね』、本当に原文ママ。他の従業員がいたってお構いなしにこんな言葉を吐いてしまうような人でした。
冷静に考えたら、そんな代表の元で働くのは一刻も早く辞めればよかったんですけど、私はお客様のことが大好きで、そのお店が大好きでやめるなんて選択肢は働いているときは全くありませんでした。
代表は嫌いだけど、別に店舗にそんなに来るわけでもないし、やりとりは店舗責任者がやってくれればいいから触れずにいれば大丈夫。そう思って過ごしていました。
だけど、この状況が緊急事態宣言で大きく変わったのです。
■本社へ
緊急事態宣言中、私の勤めていたお店は一時閉店することとなりました。
その間に他に進められることをしましょう。という方針で、ボロボロになった店内を直したり新しくテイクアウトのメニューを考案したりと過ごしていたのですが、代表がこう提案します
『皆んなさぁ、飲食やってる奴なんてバカしかいないんだからマーケティングとか学んだほうがいいよ』
『学ばせて”あげる”から本社きなよ』
こうして、私含め選抜された数人は本社でマーケティングについて学ぶことになったのです。
私は学ぶことも好きだし、確かにただ飲食の接客ができるよりはマーケティングを学んでいるほうが強いと思ったので、これに関しては代表の言葉の棘はあったものの割とポジティブに捉えていました。
こうして、初めて本社に出向き勉強をする事となりました。
■人の期待値や物差しは身勝手だ
そつなく仕事をするタイプなので、私は代表から頭がいいと思われていました。なので『チャンキナは頭がいいから、まず本社きなよ』とオファーを受けたのです。
それとなくコミュニケーションもとっていたので、割と可愛がられてもいました。
この距離感を保っていたら今もそのお店できっと働いていたのだと思いますが、初めて本社に行って勉強会に参加をした段階で私は失敗を犯します。
マーケティングについての勉強会初日。もちろん私の他の参加者数名も初めての勉強内容で、何が何だか珍紛漢紛なままでした。
勉強会が終了した時に、教えてくれた本社の女性(代表のお気に)がこういいます。
『何かわからなかったところありますか』
内心、いや、皆んな8割分かっとらんだろと思いつつ誰かが発言するのを待ちましたが誰も何もいいません。
代表がこういいます
『え?なんもないの。どう?』
ああまずい。こういう雰囲気は本当に良くないやつ。でも誰も何もいいません。だって本当にわかんないんだもん。
仕方ないなと思い、場の空気を考えて私はこう発言しました。
『そうですね、マーケティングについての勉強は私達は誰しも初心者なので、正直取り組んでみたり今日教えていただいた内容を各々が噛み砕いてまずはやってみないと誰がどの方面で力を発揮するかもわからないと思います。でも、個人的にはすごく興味深い話でしたし、私は多少本を読むことなどが苦手な節もあるのでお時間がかかるかもしれないですが、まずは取り組んでみたいと思います。』
この発言が大失敗でした。そうですか。社会って難しい。
■あいつさあ、やる気あんの
帰宅後、急にこんな連絡が店舗の責任者から送られてきます
『チャンキナは勉強会からちょっと外れて、デザインやろうか』
はて?なぜにそんな急に・・・?
確かに私はデザインも独学でやってはいたものの、勘が良い私はおかしいと思いました。そしてよくよく理由を聞くと、私の発言が代表からしたらやる気がないように捉えられたのだと。
え〜、なんで〜。
理由は以下
・誰しも初心者なので
→甘えてるよね。そんなこと言ってたら何もできないよ。
・取り組んでみないと〜
→すでに勉強会で教えてるのに取り組んでみないとって何?舐めてんの?
・本を読むのが苦手な節もあるので
→やろうとしてないよね。読みたくないの?本も買ってあげるって言ってるのに。
ざっくりこんな感じでした。大人って本当に難しいですね。
ちなみに本の件ですが、私は文字のアウトプットはできても実は本(特に小説)が読めず、インプットがとても苦手です。なので、若干濁しつつ伝えておこうと発言しました。
変に素直なところや、変な責任感で発言をしたことで私は代表から突き放されます。
一緒に勉強会に出ていたあなたのお気に入りの女の子は『ん〜わかんな〜い。』っていいながら携帯を見ていましたが、それはお気に入りフィルターがなんとかしてくれるんですね。と、いう気持ちがあったこともここで吐き出しておこうっと。
■そして周りも
こんな状況におちいって、身の回りの態度が激変していきます。私が仕事を辞めた理由がこれです。
代表の急な手のひらクルーを目撃した身の回りの従業員たちはこう考えます
次は、自分かもしれない。
そりゃそうですよね。怖いよ。割と気に入られていたチャンキナを急に突き放すんだもん。
こうして私に対するみんなの態度が変わっていきます。
『将来もチャンキナと一緒に働きたい』と言っていたシェフはこう私に言います
『チャンキナは発言が危ないから、本当は本社とか行かせたくなかったんだよ。もう一緒に働いていく自信がないから、ちょっとシフトからはしばらく外れて欲しい。でもまたいつかは一緒に働きたいから、それが半年後か1年後、いやもっと先かもしれないけど頼むよ。今の従業員達とはチャンキナが仲良いのも知っているけど、そこは、まあ、個人的に連絡とってさ。うまくやってよ。』
代表のお気にの従業員はこう言います
『あーまあ、仕方ないんじゃん?そう思われたんならそうだし。私はわかんないって言ったけど、それはうーん。なんでだろうね。大丈夫だったみたいだし笑。』
社長はこう言います
『なんかさぁ、やる気あんのかないのかも良くわかんないやつにさあ、時間もさきたくないわけ。お客さんいるだかなんだか知らないけど、俺社長で忙しいから連絡されても困るんだよね。俺関係ないんだけど。そっち(店舗)でやってくれる?』
みんなこうして自分の身を守ることを第一に考え、今まで一緒に頑張ってきた年月は無かったかのように私に言葉を向けてきました。
普通のお店じゃ無かったから。すごく小さなお店だったから。とても大袈裟な言い方かもしれませんが、ただの職場の人ではなくて家族みたいに接していて、時には一緒に遠出したり。夜中まで相談しあったり。一緒に涙することもあった人達で大切にしていました。でも簡単に関係性なんて崩れるもんです。
急に刃物を突き立てられたかのような感覚に陥って、『一緒に働いていく自信がない』とシェフから言われたその日に帰りの電車では涙が止まらず、なぜ泣いているのかも理解できず、正直記憶を飛ばしてしまいました。
それからしばらくご飯を食べることもできなくなり、おかしいなと思って病院に行くと適応障害と診断されます。又、しばらくは落ち着いていたのですが、昔から持っていた摂食障害もぶり返すことになります。
人間が急に突き立てる刃物は本当に怖いです。
私はそのお店を離れることにしました。退職届の理由には『あんたらのせいで人間不信になったからだよバーカ』と書きたかったですが『新しく、デザイン業界で学ぶためにこの度退職させて頂きます』と綴りました。大嘘。
■気晴らしに
適応障害は、とても明確なストレス要因があってそれを取り除くことで徐々に治っていきます。私の場合はもう、理由が明確も明確だったのでお店を離れたわけですが、元々センシティブな所もありなかなか改善しませんでした。
でも、少しお外に出れるようになってご飯も食べれるようになった頃、気晴らしに某デジファブ施設に足を踏み入れることになります。
元々手作業でレザーのハンドクラフトを趣味で行っていた私ですが、これってちゃんと設計してレーザーカッターで切ったらどうなるの?と思っていたので、適応障害で自宅に引きこもりをキメている間に何かしなきゃとIllustratorで図面を引く練習をしまくりました。
設計なんて正直したこともなかったけど、もう仕事もないし時間しかないし、やるならこれかなってテンションぐらいで始めたのですが、なんとか図面が引けるようになりました。
そして初めて自分が作ったデータでレザーをカットする日が訪れました。
初めての図面作成、初めてそれを読み取って動いてくれるレーザーカッター。
ものすごいスピードでその線分をレザーに落とし込んでいく様子は、小学生の頃に初めて自転車が乗れるようになった時と同じくらいのときめきを私に与えてくれました。大人になってこんなにお腹の底から温かい何かを感じることがあるんだなって衝撃、今でも忘れません。
こんなにときめく機械がこの世に存在するの?と本当に思った私は、その日施設の店員さんにこう言いました。
『私も、この機械自由に使えるようになりたいです。久々にときめきました。・・・できますかね。』
『大丈夫っすよ。お姉さんみたいにこんな喜んでキラキラしてる人久々に接客しました僕、笑。そのテンションならいけるっす!』
すごく久々に人の温かい笑顔に触れた気がして、どうしてもレーザーカッターが使えるようになりたくて、帰宅後その施設で働くべく求人なんてかかっていなかったけれど体当たりでフォームから働きたいと応募しました。
■行動することは0を0.1にする
自分でも無茶だなって思いました。
でも仕事もなんもないしなんなら病気だし!!!!という、もうなんでもありの状況だったからこそ、ダメもとでなんでもできました。
結果的に私は今レーザーカッターを扱えるようになり、人にレーザーカッタの操作や素晴らしさも教えることもできるようになりました。そう、その施設で採用されたんです。(ありがとうございます本当に)
あの社会的失敗があって何も無くなった自分だったからこそ思い切って行動することができて、本当に0というかむしろマイナスだったところから0.1の可能性を掴むことができました。
割と理不尽な出来事だったとは思うけれど、今ではもう過去の話。
きっと何かを辞めること、何かを始めることは人間誰しも怖いことだと思います。私も我慢してしまうタイプなので中々仕事もやめれないし人にNOと言えないタイプなので、物凄くわかります。
だけど、今の私が伝えられることは、(荒波は立てたくないけど)違うと思ったことはやめてみて次に進んでみることは全く悪くないよということ。とても月並みな言葉ですが。
人生の中で自分を100%自己表現することなんて難しいかもしれないけれど、なんとなく過ごす日常に流されないで自分が生きれる場所は他にも探せばあるのだということ。
全てが成功ではなかったけれど、私は今生かされているのではなく自分として生きている感じがします。
3Dの世界を一緒に学ぼうとしてくれる人、出来ないことを悪だとせず一緒に考えてくれる人、シャツ作りたい!って言ったら死ぬほど丁寧にパターンを教えてくれる人、遠方から支えてくれる家族、音楽を共に作ってくれる人、ラテアートを教えてくれる人たち・・・画面をみてタイピングしながらふと身の回りを思い返すだけで、こんなに沢山愉快で素敵な人に囲まれていることがわかります。
本当に、本当に皆さん有り難うございます。別に裕福じゃないし、なんなら全然生活費足りないんだが?みたいな局面も正直まだまだあるけど、お陰様で私は楽しく過ごせています。
今日は素材の話じゃなかったけど、どうして私がレーザーカッターやその他デジファブに拘るようになったのかも伝えたいなって思っていたので、チャンキナのこと書いてみました。すごい濃い一年だったな。
大変長くなりましたが、ここまで読んでくれて有難うございます。これからも暖かく見守ってください。そして沢山ときめきながらものを作りましょう。お手伝いします。
辛くなってしまった。そんなあなたの話も私でよければじっくり聞きたいです。匿名でもなんでもいいよ、待ってるね。
人生何とかなるぞ〜〜〜またねっ
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