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“リステリアフリー”って何? 〜コメダ珈琲店のケーキから考える〜

コメダ珈琲店より春の新作ケーキが発売された。

コメダオタクたる私は、意気揚々とコメダへ乗り込んだ。
どれから食べようかとメニューを見ていると、チーズケーキに気になる注意書きが。

※本商品はリステリアフリーです
リステリアフリー?リステリアって何だ?
聞き慣れない言葉なので調べてみる。

リステリアとは、リステリア菌のこと。食中毒の原因菌のひとつらしい。グルテンフリーみたいなノリで書いてあるから、調べるまではてっきり添加物か何かだと思っていた。
しかし、なぜ菌がいないことをわざわざ記載したのか?
私は「リステリアフリー」のチーズケーキを頂きながら、詳しく調べることにした。

※正式名称は「北の大地のフロマージュ〜北海道チーズ使用〜」だが、ここでは「チーズケーキ」に統一する。

●リステリア菌とは?

リステリア菌とは、環境中に広く存在し、食品を介して食中毒を引き起こす細菌。低温でも増殖できるため、冷蔵庫で保存する食品でも注意が必要とのこと。
少量を摂取しても症状は出ず、発症しても悪寒や発熱程度の軽症で済むことが多い。だが、妊婦・高齢者・免疫が低下している人などは敗血症など重篤化する危険もある。

……などなど、厚生労働省のサイトに分かりやすくまとまっている。
省庁って優秀。学生時代は調べ物で大変お世話になったものだ。

リステリア菌は、ナチュラルチーズなどの加熱されずに製造される乳製品から出ることがある。
リステリアフリーの記載があったのはチーズケーキ。

チーズを使用していることがリステリアフリーの記述に繋がっているようだ。

●リステリア菌の報告は?

リステリア菌という名前は、食中毒の原因菌として初耳だった。
欧米では多いらしいが、日本では滅多に集団感染の報告事例は無いという。

リステリア菌が検出されることがあっても、これが原因だと断定するまでには至らないようだ。
また、症状はインフルエンザに似ているという。リステリア菌が原因だったとしても、食中毒と分からないまま治って終わるケースもあることだろう。

●リステリアフリーの定義は?

リステリア菌の概要が分かったところで、リステリアフリーに戻ろう。
字面のまま捉えるなら、リステリアフリーリステリア菌がいないという意味になる。いないって、どのレベルでいないの?その基準は?そもそもリステリアフリーという言葉が正式に存在するのか?

私は初耳だったが、飲食や食品衛生の界隈では一般的な用語かもしれない。
とりあえずネット検索してみる。

ヒットしたのはどれも今回のチーズケーキを紹介する記事ばかり。それ以外には、台湾製のナッツ2件しかヒットせず。Xにおいても、この商品が出る以前のポストはヒットせず。
コメダ独自の造語ではないものの、飲食で一般的に使われている言葉ではなさそうだ。

●リステリアフリーの基準はあるの?

リステリアフリーという言葉に対して厳密な定義は存在していない。
もしあるなら、省庁や協会、研究所、大学などのページが検索でヒットするはずだからだ。

しかしコメダがリステリアフリーを謳っている以上、便宜上何らかの定義を置く必要がある。

同じ〇〇フリーとして、グルテンフリーを参考にしよう。
グルテンフリーの場合、各国で定められた基準がある。小麦を使っていようと、基準を下回っていればグルテンフリーと名乗っていいわけだ。
小麦粉不使用≠グルテンフリー、である。

グルテンフリー同様、リステリアフリーも「基準を下回るレベルで存在しない」ことを定義に据えていいだろう。

では、リステリア菌に食品としての基準は定められているのだろうか?
調べたところ、基準はしっかり決まっていた。また、検査方法にも様々ある。
以下のサイトに詳細が分かりやすく記されている。

しかしこれらは輸入食品に対して行われる検査で、どの食べ物に対してもする検査ではなさそう。
コメダは自社のチーズケーキに対してこの大層な検査を行ったのだろうか?それを知る術は無いが、私個人の印象としては、そこまでやったようには思えない。
なぜなら「※写真はイメージです」と同列で書かれているあたり、あくまでも「安心してね」程度のメッセージに過ぎない気がするからだ。

●本当にリステリアフリーなの?

仮に輸入食品に準ずる検査をしていなかった場合「リステリアフリー」と書くのはマズいのか?
結論から言うと、答えはノーである。

古い論文だが、牛乳とリステリア菌について調査したものがある。これによると、60℃程度でも1分で死滅してしまうという。

https://www.pref.yamaguchi.lg.jp/uploaded/attachment/44499.pdf

リステリア菌は芽胞非形成。つまり、高熱に耐えうるバリアを纏っていない菌である。加熱という言葉から、何となく私は沸騰レベルの温度を想像していた。実際は、かなり低い温度でもすぐ死んでしまうようだ。

「低温でじっくり焼き上げる」という記述の入ったチーズケーキのレシピを何件か覗いたところ、80℃〜90℃で1時間弱というものが多かった。
コメダのチーズケーキのレシピは不明だが「低温でじっくり」がこれらと似たようなやり方なら、リステリア菌は死滅していることだろう。

●なぜ「リステリアフリー」と記載した?

「リステリアフリー」を定義し、正当性を確認できた。しかし、リステリアフリーという言葉に対して納得できたわけではない。
私がこの表現に対して引っかかりを覚えた理由は、大きく分けて2つある。そこから、コメダがこの言葉を用いた背景を推測してみた。

ひとつは言葉選び
「リステリアフリー」は、自分が初めて聞いた言葉だから引っかかったわけだ。ネットの検索結果からも、普く浸透しているとは言い難い。
なぜそのような言葉を用いたのか?
新しい言葉を使うのは、今までの言葉では表現が不十分である場合。
今までにもコメダでチーズを使用したスイーツはあった。その際の注意書きはどうだったのか?

まずはジェリコ ティラミス。コーヒージェリーにエスプレッソソースとチーズドリンクを合わせた、期間限定デザートドリンクだった。

こちらの注意書きを抜粋すると……
※本商品に使用しているチーズドリンクは、加熱処理済みです。

そして次はチーズケーキと同じ、季節のケーキから。
珈琲所のティラミスである。マスカルポーネチーズクリームを使っていることが売りだった。

こちらの注意書きも……
※本商品に使用しているチーズは、加熱処理済みです。

今回のチーズケーキではこの注意書きを採用していない。つまり、チーズケーキに使用したチーズは、加熱処理済みではないということが想像できる。そして、世の中には非加熱のチーズケーキというものも存在する。そのため、妊婦さんなど重篤化リスクを抱える人たちにとっては重要な部分なのである。
加熱処理済みのチーズは使っていないが、調理工程からしてリステリア菌は死滅している。商品の安全性を主張することで、安心して食べてもらいたい。
そのような思いから選ばれた言葉なのかもしれない。

もうひとつは書いた理由。そもそもなぜこの注意書きを載せようと思ったのか。
食中毒の危険がある食べ物の全てに安全を保証するメッセージが付くわけではない。同じ細菌で例えるならサルモネラフリーとかボツリヌスフリーとか言っているようなものだ。しかもコメダのチーズケーキは紹介文に「焼き上げた」と書いてあるのだから、加熱済みなのは明らかだ。
もし食堂で「この卵焼きはサルモネラフリーです」と書いてあったら皆さんはどう思うだろうか?
「そっかぁ、安心!」と思う人もいるかもしれないが、私がもしそんな表示を見たら「いや、当たり前じゃないか?わざわざ書く必要ある?」と思う。

しかし、ここで先ほどの言葉選びにおいて触れた内容が効いてくる。
今までコメダが使ってきたチーズは加熱処理済み。しかし、今回のチーズはそうじゃない。そして、焼き上げるのが「低温」という点にも憂慮があったのかもしれない。
加熱処理されていないチーズが、低温で焼き上げられている。出来上がるまでに加熱が殺菌のレベルに達していなかったら…?と心配する人も出てくるかもしれない。
本商品は非加熱のチーズを使用し、低温で加熱調理しました。しかし低温とはいえリステリア菌が死滅するレベルの温度と時間には十分到達しています
この内容を簡潔に届けるべくリステリアフリーという言葉になったのかもしれない。

実際にXでは、リステリアフリーの記載に対して安心できるという声があった。リステリア菌で重篤化しやすい方々や、食品衛生に敏感な方にとっては、この一文が安心材料となりうるのかもしれない。

食の安全は、日々アップデートされている。例えば、今年からクルミもアレルギー表示が義務づけられるそうだ。

今は食品レベルだが、いずれ細菌・ウイルスのレベルでも法整備が進むかもしれない。数年後、リステリアフリーという言葉が浸透して普通に使われている可能性はゼロではない。……のかもしれない。

「かもしれない」ばかりで恐縮だが、これはコメダ珈琲店オタクによるオタ活の延長線上であり、あくまでも素人考えの域を出ない。
なるべく公的機関から引用して考えを述べたつもりだが、至らない点に気づいた有識者がいれば、ご指摘頂けると幸いだ。

何にせよ、コメダのケーキを通して新たな知識に触れることができた。
うんうん、それもまたオタ活だね!


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