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「清修館挿話」 林芙美子 を読んで。(青空文庫コラム)

(あらすじ)

谷村さんは、医学を志す学生です。夏休みを終えて、新しく下宿先を変えます。そこの「太つちょ」の下女に好かれます。

しかし、谷村さんは、街で偶然出会った「美しい女のひと」が気がかりです。同じ下宿「清修館」にいるようですが……?

(感想)

下宿にいる美しい女のひとのことを聞くと、太つちょの下女は、彼女はもう引き払ったとか、旦那がいるとか、教えてくれます。しかし、それは、下女が谷村さんの意識から美しい女のひとを忘れさせるために言った嘘でした。

こういう嘘は気持ち悪い。たしかに、自分のために平気で誰かの出鱈目を言える人がいます。そのように言われてしまっていることの不穏さと不快さ。または、その嘘に気づいたときの嘘つきの人への不信感と嘔吐感。作者の林芙美子は、この太つちょのことを主人公の谷村さんのことばで「豚」と言わせてます。それはとてもきつい言葉づかいとも思いますが、彼女自身なにか、思うことがあったのかもしれません。

さて、美しい女のひと(このように作中では呼ばれているのです)が泣いていて理由を聞くとお金を貸して欲しいと言います。嘘やすれ違いから、谷村さんは、相手を貸したお金を持ち逃げする人と思わされたのですが、ちゃんと返してもらいました。

谷村さんは、人というのがわかってきて、落ち着いた大人へとなろうとしていて、青春小説なのだなあ、と、思いました。清々しい感じですね!!

下宿を引き払うことに決めて、そこで下女へのちょっとした軽い復讐も思い立ちますが、それはご愛嬌です。

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