アリサカ・ユキ

文学的な挑戦をする場所。 アリサカ・ユキの問題解決型の 「カジュアルにまじめにブンガク」するブログ 「賢い物語」 https://a-y-wise-storise.com/ トランスジェンダー、トランスエイジです。

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Kindle Unlimitedで読める。

アリサカ・ユキの出版した同人誌です。 愛されない少女と穢れたくない少年が、出会い、冬の空の下、信頼をつくります。 人間の中の力関係だとか見せかけの愛情などを考えます。 ぜひ、読んでみてください!! Kindle Unlimitedです。

    • 終わりの時に始まる

      今日のために 明日を忘れなければならない 焼肉弁当で締めるこの日は ちょっと元気が出る 終わりの時に 始まったばかりのこの日に やっぱりコカ・コーラでも飲もうか 生きてるねえ と 自分がちょっぴり誇らしい さて あとは お風呂に入るばかり なにしよっかな〜

      • すくいぬし

         わずかに開いている窓から、茜色の夕方の景色が見えた。わたしは出されていたグレープのジュースが紙コップに入っているのを、少しの嫌悪感を持って、覗き込み、それを口にしたいとは思わなかった。  久野さんは、小さな台の上にあるカップ焼きそばができるのを待っていた。ちょうど、私が座っているところから、右斜め前の部屋の隅にある台であり、彼の体を横から見ている配置になる。 「あ、三分」  そう言って、蓋を剥がすと、男は、ソースをかける。躊躇もなく、素早く、お箸を手に取り、混ぜ、ズズズっと

        • 愛、している、という、愛。

           その日の朝は、いつもと同じだった。薄暗い空は、何を聞いてもいつも答えてくれない冷たい親族のように心細く、いっそ縁を切りたいほどだ。だから、僕は、歩いている。動くなら、体から、力が生まれてくるような気がするから。大型のバンが、ビュンっと、大通りを走っていった。通行人たちが、街路樹と同じく、僕には、顔のない魚のように見えた。ようやく射してきた太陽の光が目に差し込んできて、思わず顔を伏せた。あまりに美しいものを見ると、人の目は潰れるのだろうか。  この日は、母の命日なのだ。最後ま

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        • 小説
          2本
        • 11本
        • 青空文庫コラム
          13本

        記事

          掌編3話

          「16歳」 わたしは16歳だった。 いつもご本を買うお店の入ったビルがその日、解体されて新しく建て直されることになった。何年もかかる。 とつぜん、わたしには、居場所がなくなった。友だちもなく、高校生活を何で埋めたらいいのか。 わたしは、呆然と鉄の幕のかけられた、昨日までの楽園があった場所に突っ立っていた。 「よっ」 後ろから声がした。振り返ると、赤い帽子を被った転校生がいた。ジャンバーを羽織っていて、私たちの学校にいるような子じゃない。だから、とても浮いている子だ。

          憧憬

          夜に深淵を隠したわたしたちは 単純な生を繰り返す こういうことだよ と言えたそこに いかなる苦しみがあったのか あの人は語らず 川面に魚影は映るが 人々のこころは 太陽すら暴けない 永遠という見果てない言葉 それを手にできるような気になって 日々を刹那に生きる 刀を持って声を張り上げた 猛き時代は幻だったか めくられたページにみえた はるかかなたの幼年時代に わたしたちは いつまでも いつまでも (詩「憧憬」) 下記、アリサカ・ユキのメイン・ブログ「賢い物語」の

          芸術が惨めなことを救うだろうか。「一室」 田山花袋[録弥] を読んで (青空文庫コラム)

          (あらすじ) 李という男を頼りに、私たちは支那の妓の見定めに行った。 『暗い狭い汚い一室に』汚いなりの女の子。 「『こんなものが相手になるかね?』」 「『それでは歌わせますか』」 『哀愁を込めた旋律が』、『漂ひわたった』 [『』内、「一室」より引用 以下同様です。] (感想) 「私」たち、つまり男たちは、そんなに期待しておりませんでした。部屋も女の子もみすぼらしかったのです。 でも、このまま帰るのもつまらない。よく、買い物に行って欲しいものはないけれど、手ぶ

          芸術が惨めなことを救うだろうか。「一室」 田山花袋[録弥] を読んで (青空文庫コラム)

          カフェ「ザナック」(小説)第二話

          「星子ちゃん、また休みか?」 あたしは、トレイに載せていたホットコーヒーを三田さんの前に差し出した。 「あはは、そうですね。困ったものです」 サボってもいいとは彼女があたしに言った言葉だ。実際に仕事をしないのは蓋を開けてみれば星子だった。 「ちょっと、寂しいなあ」 あたしの胸は、ちくりと痛んだ。じっさい星子はこのカフェ「ザナック」で働き始めると、とても活き活きし始め、お客さんの人気者になったのだ。あたしのこの胸の疼きは、いつでも星子の上に立っていたという、恥ずかしい認識が生ん

          カフェ「ザナック」(小説)第二話

          カフェ「ザナック」(小説)

          外国のアジア系の人が、レシートはいりますか、と聞いてくるので、いりませんと言う。 あたし、右川春乃(うかわはるの)は、レジのテーブルの上にある生ビールをつかみ、カバンに入れた。コンビニは安くないから発泡酒を買うつもりだったのだけど置いてなかった。 まだ、朝ははやく、まわりのビルは開いてなかった。仕事に行く人びとたちの往来だけがたくさんで、あたしの足並みもせっかちになる。 神社は最初にお参りした。その横に公園があって、あたしはそこの花壇の石垣の縁に座った。タバコを取り出して火を

          カフェ「ザナック」(小説)

          浮かぶ鯨(散文)

          そこでは人びとの顔が並んだ彫像のようだった。こちらを向いて笑った男もいたが、目はわたしを見ていなかった。いつしか月光が灯り、その人たちは突然上着を脱ぎ、走り出した。駆け抜けていく淡い光の中で、その姿から、一群の狼のように、轟く足音がしたような気がした。何を追っているのか? 海面に浮かぶ白い鯨だ。それは、国連に顕彰されたのだ。男たちはそれを囲み、大声を出した。褒め称えているのではない。威嚇していた。浮かぶ鯨は、賢そうな小さな目を閉じて、黙っていた。先ほど笑った男が、小さな短刀を

          浮かぶ鯨(散文)

          弱いものだけを相手にした勝負事しかしない人、への対処の仕方。「勝負事」 菊池寛 を読んで。(青空文庫コラム)

          今回は直接には、作家のご作品を語るのではありません。菊池寛の「勝負事」を読んだ、ぼくの過去からの連想を聞いてくださいね。 (「勝負事」 あらすじ) 地元で一番の石(こく)持といわれた家。 でも、主人公は、親からお金がないから修学旅行も行かせられないと言われる。 祖父が賭け事で、負けがかさみ、土地も家も売る羽目になったのです。 祖母(祖父の妻)が亡くなるとき、「恨まないよ。しかし、賭博はもうしないとわしの臨終の頼みを聞いてくれ」と。 祖父は、賭博から足を洗った……が

          弱いものだけを相手にした勝負事しかしない人、への対処の仕方。「勝負事」 菊池寛 を読んで。(青空文庫コラム)

          急カーブ(詩)

          そいつは走っていた 横の道から誰かが出てきそうになると けたたましく クラクションを鳴らした 頭を下げて謝る人もいたし 睨んでくる人もいた そいつは毎日に イライラしている 何もかもうまくいかない 頭の悪いまわりが悪い 本来ならば俺は こんなところで 燻っている人間じゃないんだ 信号は赤ばかりが目につく 構うものか そいつは走る やがてサイレン音 そいつはとばす 俺は正しい 間違っているのは世の中だ 急カーブで曲がり損ねる それではまた、次の機会にお会いしましょう

          イマジナリーねこ(詩)

          自転車を漕ぎ 本屋さんの自販機で アクエリアスを買っては飲んだ あの時代 すべてはあおいかなたへ集約され どこまでも時間は進みゆくようだった だからあなたもみたのだろう いつかの忘れられた棚の片隅にあるCDを それはコンポにかけられると 聞いたことのない音楽を流した 人の姿をした猫が 鰹節をかみかみしながら 耳の動きが 音に連動している だけどあなたはどこに行ったのだろう ぬくもりを覚えている エリーゼのために ピアノはしずかにささめく 部屋の入り口から くびをかしげて

          イマジナリーねこ(詩)

          羽撃き(詩)

          囀らない小鳥を 空に放した 降り注ぐ熱の光は 彼を鼓ち 夜は昨日に失った 昏がりに火を灯したその日 彼は飛ぶ 歌えない体できりきりと 痛みすら叫べず 朝と夜と 夕方が生活から何度も離れると 海原へ出た 彼は歌だった 閃光の流れた夜に似ていた そのとき島では 恥をかかされた老人が 娘を罵倒していた 夕食の用意をしている途中に 街では流行歌が流れる すばらしいすばらしいと スピーカーは鳴る 誰もがイメージだけを食べていた 光-線は、ビルの白さを黄金にして 沈

          鼓動(詩)

          今日はローソンで からあげくんを買うって決めてるんだ 最近ついてない 友達とは喧嘩するし、パートナーは冷たい あとね、5000円札、落としちゃった!! ねえ、この鼓動が聞こえる? あなたの音は聞こえるよ ぼくたちは生きてるの 血が体に流れている その偉大なシステムが、 空に雲ができるような 雲から雨が降り注ぐような 太陽が光り輝くような システムと同じものが ぼくたちのなかにある!! さあ、からあげくんを 買うぞ!!

          夢幻の中にあって現実を見れば休みどき。 「ランプの影」 正岡子規 を読んで。(青空文庫コラム)

          (あらすじ) 病の牀(とこ)に寝ていると、天井の模様がなにものかの顔に見える。 今宵ははじめて、ランプの火影が像を結んだ。 鬼神、猿、西洋の哲学者、丸髷(まるまげ)の女、三宝荒神、耶蘇……。 最後は仰向けに寝た人の横顔。 (感想) はじめ、現れたイメージから、主人公の心理を読み解こうと思いました。でもそれは、野暮なこと。想像は自由奔放がよろしいです。 病牀(びょうしょう)にあって、仕事をしてたのだけど、くたびれたのです。ぼんやりしてますと、ランプの火影が枕元に写

          夢幻の中にあって現実を見れば休みどき。 「ランプの影」 正岡子規 を読んで。(青空文庫コラム)