『大怪獣のあとしまつ』が教えてくれるマーケティングメッセージの重要性
こんにちは。モダンエイジの映画大好きマーケター栗原健也です。
皆さんが映画を観に行く際の判断基準として、重要視するポイントは何でしょうか?
私は、それはクチコミだと考えています。SNSでの友人知人のクチコミ、リアルでの会話、映画レビューサイトで高い点数をとれている、尊敬する著名人がこの映画について評価をしている…。
映画は実際に観てみるまでは自分が気に入るかどうかはわからないですし、たとえ気に入らなかったとしても、絶対に返品をすることができません。ましてや、劇場で鑑賞するなら2000円弱かかりますし、正味2時間くらいは拘束されます。
だからこそ映画の好意的なクチコミが上がっていれば、「見てみようかな・「やっぱり面白そう」といった気持ちで劇場に向かうことができるのではないでしょうか。
映画にとって、クチコミが重要であるということ、そのクチコミが好評であればあるほど良いというのは、事実かと思います。
■『大怪獣のあとしまつ』のクチコミ
「映画にはクチコミが重要」、こんなことを改めて考えるきっかけになったのが先週末2/4(金)に公開された『大怪獣のあとしまつ』のTwitterトレンド入り事件でした。
ドラマ「時効警察」シリーズの三木聡監督がメガホンを取り、主演に「Hey! Say! JUMP」の山田涼介さん、共演に土屋太鳳さん、濱田岳さん、西田敏行さん、そして監督の盟友であるオダギリジョーさんと、豪華キャストが集結した大作映画です。「平成ゴジラ」シリーズや「ウルトラマン」シリーズの若狭新一さんが怪獣造形を担当したのも話題になりました。
本作がTwitterのトレンド入りをしたのは、2/4(金)公開日。朝一で鑑賞した観客のクチコミが口火を切り、それからも続々と鑑賞者のクチコミが投下され、それら投稿に同調したユーザーにRTされたことによって、私の記憶が正しければ、当日の夕方ごろには、Twitterでトレンド入りを果たしていたように思います。
さて、ここで問題だったのは、トレンドの入り方です。本作に寄せられたクチコミ、その評価のほとんどはネガティブなものでした。
はっきりと酷評する声、実写版『デビルマン』(ネット民の中では観たら後悔すると有名)になぞらえて「令和のデビルマン」と表現する声など、大多数のネガティブなクチコミがトレンド入りを後押した格好となったのです。実際にトレンド欄への表示のされ方も、以下のように映画としては非常に不幸な形となってしまいました。
■マーケティングメッセージと映画内容の大きなギャップ
よく「好きの反対は嫌いではなく無関心」とは言われています。全くクチこまれないよりかは、こうしてネガティブな文脈でもクチこまれて、トレンドにまで乗ったのは、ある意味ポジティブととらえる向きもあるかもしれません。
Twitterのトレンド入りを果たす映画というのもそこまで多くありませんから、良くも悪くも作品を多くの人に知ってもらい、どんな映画なのか興味を引くことができた、ということは言えるかと思います。
ここで気になるのが、マーケティングとして、こうした形でのクチコミの発露を予期できていたのかといった点です。
というのも私も映画を拝見させていただきましたが、本作は実際の映画の内容とマーケティングメッセージとの間に、大きなギャップがあったように感じたからです。
映画の宣伝は「空想特撮エンターテインメント」をうたい、「大怪獣を倒したその後」にフォーカスしたものでした。私としては、特撮や怪獣造形にもこだわっているとのことで、「怪獣映画」「モンスター映画」「特撮映画」「スペクタクル映画」としての事前イメージを胸に劇場に足を運びました。
それが蓋を開けてみれば、怪獣要素はむしろおまけなのかとでもいうくらいに、三木監督お得意のオフビートな会話劇と人間ドラマが中心のれっきとした「コメディ映画」だったのです。
つまり、事前の鑑賞期待イメージとの差分があったのです。(補足をしておくと、私の場合は同監督の『転々』など好きだったりするので、これはこれで楽しめました)
私以外も同じようなギャップを感じた人が多くいるようで、実際にTwitterでも、こんな声が上がっています。
低評価が付いてしまう映画は数多くあれど、このようにネガティブなクチコミが殺到し、盛り上がり、半ば”炎上”するような作品は、ほとんどないと思います。ただ本作の場合はこうしたマーケティングメッセージと映画の実際の内容のミスマッチが、より加速させてしまったように思えるのです。
■どんなクチコミが発露されてほしいのか
このクチコミの発露をマーケティング的視点で想像してみると、どうなのでしょうか。どこまで想定内で、想定外だったのか。
私は当事者ではないので妄想になってしまいますが、あえてこの差分を逆手にとって、クチコミが生まれやすいようなメッセージングをしようと考えたのかもしれないなと思うに至りました。(例えば「全然想像と違った」みたいなクチコミ)
なぜなら好きの反対は無関心、全くクチこまれないよりかは、ツッコまれるような形でもクチこまれた方が良いかもしれないからです。※何度も書きますが、ただの妄想なので全然違ったらすみません。
そして前述の問題提起に戻ります。
マーケティングとしては、こうした形でのクチコミの発露を(ちゃんと)予期できていたのか。
多くのクチコミが生まれてトレンドに乗ったこと自体は、”成功”かもしれません。ただここまでの酷評が巻き起こり、”炎上”した形でトレンド入りするような事態までは、望んでいた形だったのでしょうか。
冒頭に申し上げた通り、「映画にはクチコミが重要」というのは自明です。ただどんなクチコミでもいいのかと言われたら、それは絶対に違うと思います。ここまでネガティブなクチコミが上がっている中で、そこまでのものなら逆に観たいと思ってくれる人は本当に一部でしょう。(もちろん映画主軸ではなくて、役者軸などで鑑賞する人もいるでしょうから、クチコミがすべての鑑賞意欲に影響を与えるわけではありません)
クチコミをただ生み出すだけでなく、どんなクチコミが生まれてほしいのか。後者をもっと明確に意識して、そのクチコミを生み出せる形で作品を送り出すようなマーケティング視点、コミュニケーション設計も重要なのではないでしょうか。
タラレバの話で申し訳ありませんが、コメディ映画としての要素を宣伝時に押し出していれば、「凄く笑えた」「贅沢なコントですね」みたいな、もっとポジティブなクチコミが発露されていた可能性もあったかもしれません。
私も実際に拝見した感想として、本作は宣伝を考える上では凄く難しい映画だなと思います。誰もが関心を抱きやすく、クチこんでもらいやすそうな「怪獣要素」を押し出していきたい気持ちも非常に良くわかります。
今回の状態が良かったのか悪かったのかの判定は私がするものでもありませんし、すべきではありません。ただ、いち映画を愛する者として、いちマーケターとして、今回はそうしてクチこまれやすさを重視した結果、前述したようなギャップが生まれ、不名誉なトレンド入りをしてしまった結果となったのではないかと思います。
メッセージングを考える際なのか、宣伝コンセプトを考える際なのか、もっと遡れば大元の企画の段階なのかもしれません、どのような形でクチコミの発露がされてほしいのか、どのような形で発露されるのがベストなのか。こういった視点を持ちながら進行するということは、本当に重要なのだということを本作『大怪獣のあとしまつ』の事例に教わりました。
最後に誤解なきようにお伝えしたいことは、ネガティブなことばかりではなく、『大怪獣のあとしまつ』を鑑賞して面白かった、楽しかったという方々もたくさんいるということです。映画の感想に答えはありません。どれも正解です。
よって、本ブログは『大怪獣のあとしまつ』を否定するものでは決してありません。
せっかく多くの人の力を結集して公開した映画なのだから、たくさんの人に見てもらいたい。それには、より良いクチコミが発露されたほうが絶対に良い。その上でマーケティング観点からどういったクチコミを生み出すのかを事前に設計しておくことで(100%ではないですが)より良い未来がその作品に築けるのではないかと思った次第でした。
作品そのものはマーケティングではどうでもできません。ですので、鑑賞した方の感想は誰もコントロールできません。ただ、予告や事前のコミュニケーションデザインといった領域であればマーケティング観点からのクチコミ設計でできることはあります。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
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