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リケダン
俺の名前はカズオ。理系科目が大好きだ。
世間では理系男子を略して「リケダン」と言うらしいが興味はない。
数字は嘘をつかない。そこにあるのは「一つの答え」のみ。非常にシンプルで分かりやすい話だ。
それに比べて世間の大人達はどうだ。よく嘘をついたり誤魔化したりする。時に感情的になっては曖昧なことばかりを口にし、結局答えにたどり着かないままになることがしばしばだ。まったくもって理解に苦しむ。
一方理系科目は、費やした時間の全てがゴールにたどり着くための足掛かりとなる。無駄がなく、俺を裏切ることは決してない。
通っている大学では理学部に所属。
総合大学であるため、いわゆる「文系」の人間もいるが、どうも馬が合わない。
法学部「甲は乙に対して〜」
経済学部「国際事情を踏まえての変動で〜」
社会学部「群集心理に焦点を当てると〜」
文学部「プロレタリア文学の特徴としては〜」
回りくどくてしょうがない。
余計な事は言わなくていい。
結論までを簡潔に言えばいい。
文系の人間は白黒はっきりしない要素を連ねて話を進めては、最後に「私はこう考えている」で収めてくる。
あなたの所感はどうでもいいのだ。
とある動画配信サイトでこんな話を聞いたことがある。
理系科目は、反復可能の知
文系科目は、反復不可能の知
要するに、理系科目はいつの時代も、どんな場面でも自然法則や客観性が保たれることで「一つの答え」を繰り返し応用できる。文系科目はその対極というわけだ。
どちらに価値があるのか、無論前者だ。
文系科目のように、時々に変わる答えを追求したところで時間のムダだ。当てにならない。何の蓄積にもならないし応用も効かない。
ゆえに俺は、理系科目が好きなのだ。
*
3年の秋が訪れ、就職活動の時期に入った。
全てがうまくいくと考えていたが、誤算だった。
不採用通知が9件に達していた。
キャンパス内のベンチでうなだれていると、一人の男が近づいてきた。法学部のノリオだ。
「おう!カズオ♪就活は順調か〜?」
ノリオは幼馴染みの一人。バリバリの文系男子で司法試験の受験を控えている。小学生の頃から弁が立つ男で雑談力も桁外れ。いわゆるクラスの人気者で、どんな場面でも友達を引き寄せるコミュニケーションおばけだ。
「その話は聞かないでくれ。絶不調だ」
「ははっ♪そっか、お前らしくないな♪」
「おかしなことに不採用通知しか送られてこないんだよ。先方の手続きミスなんじゃないかとすら思ってしまうよ」
「いや、手続きミスじゃないね♪お前の好きな言葉を借りるなら『それが事実だ。真実だ』だな♪はっは〜♪」
ノリオはよく落ち込んでいる相手に容赦なく残酷な表現をお見舞いしてくるヤツだが、なぜか憎めない。むしろ少し元気が沸いてくるような空気をつくり出す不思議な力を持っている。
「余計なお世話だよ♪でもほんとうまくいかなくてさぁ、筆記は通るんだけどことごとく面接で落とされる。何が敗因なのかまったく分からないんだよね」
「面接かぁ〜。なるほどねぇ。まぁ、カズオは空気が読めな、、あ、、空気を一変させる不思議な力を持ち合わせてるからな〜♪」
「どういう意味だよ!」
「決して悪い意味ではない♪」
「あのさぁ、、幼馴染みのよしみで教えてくれよ。話術というか、うまくやれる方法を」
「教えるも何も、、ふふっ♪」
「何笑ってんだよ」
「すまん、分かった♪」
「お願いします」
「じゃあ、女の子と一緒にデートしている状況で『喉乾かない?』って言われたら何て答える?」
「う〜ん、、『乾いてないよ〜』かな」
「『この部屋暑くない?』って聞かれたら?」
「『大丈夫♪暑くないよ〜』かな」
「うん。残念ながら予想通りなんだよな、、」
「え?ダメなの?」
「まぁ、、ダメではないんだけど、、この際お前だからはっきり言っておこう♪そーゆーとこが敗因なんだよ」
「どういうこと?」
「中学の頃に同級生が病死した時、ご親族を目の前にして『死んじゃってかわいそうですね』って言ってたよな」
「あ、、うん」
「彼女と同棲しようって決めた時もまっさきに『家賃と光熱費を折半できれば都合がいいから』って言ってたよな」
「だって事実じゃん」
「でもって、振られてんじゃん」
「まぁ、、ね」
「そしてこれは先月の話」
「まだあるの?」
「飲み会の会計時、血眼になりながら1円単位で割り勘して時間とって、みんなを帰らせなかったんだってな」
「数字はちゃんと揃えないと、、」
「メンバーの 一人が、そのせいで終電逃して家に帰れなかったんだとよ。でもってそいつが俺のところに来ては『お前幼馴染みなんだろ?カズオをどうにかしてくれよ〜』って言ってきたわけさ」
「俺、間違ったことは何もしてないよ」
「もう一度言う。『そーゆーとこ』が敗因だ♪」
「なんか、、理解できてないかも、、」
「だろうな。今度一緒に酒でも飲みながら一つ一つ紐解いて説明してやるよ。で、カズオ、せっかくだからもう一つだけ言っとくよ」
「う、、うん」
「お前は文系科目なんて無価値だってよく言ってるけど、結論を言うとそれは違う」
「うん」
「理系がモノを作る。そして文系がそのモノの使い方を決めるんだ。使い方は人によっても、時代によっても、国によっても、社会情勢によっても変わってくる」
「うん」
「分かりやすく言うと、有能な科学者達が叡智を集結してモノを作った。だけど、それが戦争で使われてしまえば多くの死者を生んでしまう。理系分野が産み出した技術力は、時に暴挙となって社会貢献とはほど遠い立ち位置に発展し兼ねないんだよ。だからこそ人間は、人の心を学び、歴史を学び、社会や宗教を学ぶ必要がある。まさに文系分野そのものにある『無限の答え』と向き合って幸福をもたらさなければ意味がないってわけさ」
「なんかかっこいいね♪」
「まぁ、ただの先人の受け売りだけどな」
「え?誰の受け売り?」
「天才物理学者アルバート・アインシュタインだ」
「え〜!そうなの!?」
「お前、憧れてんだったら知っとけよ♪」
「はい、、」
「で、もっと簡単に解釈すれば『人の数だけ答えがある』ってこと。お前が大事にしている『一つの答え』ってのも大事なんだけど、人間社会ではそれだけではやっていけない。それがまかり通るなら世の中から恋愛問題や人間関係のトラブルなんてなくなるんだよ。正しい『一つの答え』があるんだったらね」
「なるほど。ノリオお前、やっぱかっこいいね」
「だろ♪で、何の話してたんだっけ?」
「就活が絶不調だって話」
「あ、そうだった。で、結局言いたいことは何なのかって話なんだけど、お前みたいなやつこそ『一つの答え』に執着し過ぎず、頼りすぎず、まずは目の前にいる『人』と全力で向き合えよってことなんだよ。人には人の、その会社にはその会社だけの方針や事情があり、答えがあるんだ。そして既成の理論や自然法則はもはやAIが全て把握し、解決してくれる時代にすらなっている。だからこそ『人』としてのお前が重要になってくるし、それをさらけ出さなければならない。恥をかいたっていいのさ。少なからず、俺はお前が優秀なのは分かってるから。理系科目のみの話だけどな♪ははっ♪」
「分かった。ノリオ、ありがとうね。何かやる気が出てきたよ。次の面接では全力で、、、」
ピロリロリン♪(スマホの通知音♪)
「なになに?、、くっそ〜、、第7志望の会社も不採用かよ!」
「!?」
「カズオ、、念のため聞いておくけど、、お前さぁ、面接で『御社は第7志望で』とか言ってないよな?」
「え?言ってるよ♪」
「、、、」
「だって事実だもん♪」