JW35.5 三毛入野は主人公
【高千穂編】エピソード1 三毛入野は主人公
紀元前663年、狭野尊(さの・のみこと)(以下、サノ)一行は、熊野の海で嵐に遭遇した。
そして、この状況に耐え切れず、二人の兄は海に飛び込んでしまったのであった。
稲飯命(いなひ・のみこと)は常世(とこよ)の国に行き、鋤持神(さいもちのかみ)となったが・・・。
もう一人の兄、三毛入野命(みけいりの・のみこと)(以下、ミケ)は、荒れ狂う波にもまれながら、遥か故郷の方に目をやった。
ミケ「この海の向こうに高千穂があるんやな・・・。もう一度、故郷を見てみたかったっちゃ・・・。」
そんなことを考えていた三毛入野であったが、ふと、弟や甥たちのことが気になった。
ミケ「そ・・・そうや。サノたちが助かるように祈願しよう。我が祖母が祀(まつ)られちょる添利山(そほりやま)の方に向かって祈ろう。確か、二千年後は祖母山(そぼさん)と呼ばれていたっけ・・・。大分県と宮崎県の県境とか、作者が言っちょったな・・・。」
吹きすさぶ風波の中、三毛入野の意識は遠退いていった。
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謎の男「ミケ様! ミケ様!」
ミケ「うっ・・・。こ・・・ここはどこや?」
謎の男「ここは木国(きのくに)の名草(なくさ)です。読者向けに言えば、和歌山県ですね。」
ミケ「そ・・・それで、汝(いまし)は誰や?」
謎の男「比古麻(ひこま)にござりまする。天道根(あまのみちね)の息子の・・・。30話で、お別れした比古麻ですよ!」
ミケ「そ・・・その比古麻が、なして(なぜ)ここにおるんや?」
比古麻(ひこま)「ミケ様は、名草に流れ着いたのです。地元の人たちが、岸辺に流れ着いていたミケ様を見つけ、ここまで運んできたのですよ。生きている以上、どこかに流されたはずだと、作者は考えたようでして、それなら、名草に辿り着いた方がいいだろうと判断したようです。」
ミケ「そ・・・そうやったか・・・。」
比古麻(ひこま)「ゆっくりと静養してくださりませ。高千穂(たかちほ)は逃げませぬゆえ。」
ミケ「高千穂? どういうことや?」
比古麻(ひこま)「ミケ様は、このまま高千穂に戻られるのです。」
ミケ「サノたちと合流せずに、高千穂に戻るんか?」
比古麻(ひこま)「左様にござりまする。高千穂にて、様々な伝承を残しておられるのです。」
ミケ「い・・・稲飯(いなひ)の兄上は?」
比古麻(ひこま)「稲飯様は、神になられもうした。生き残ったのは、ミケ様だけにござりまする。」
ミケ「わしだけ生き残ったのか・・・。それもこれも伝承のためと?」
比古麻(ひこま)「そう思いまする。あと、一点だけ、指摘しておきたいことがござりまする。」
ミケ「なんや?」
比古麻(ひこま)「海で溺れていた時に、祖母山(そぼさん)に向かって祈っておられましたな?」
ミケ「な・・・なぜ、それを知っちょるんや?」
比古麻(ひこま)「作者から聞きましたぞ。あの伝承は、我が君が、船の上で祈ると嵐が鎮(しず)まったという話のはず・・・。なにゆえ、ミケ様が祈っておられるのです!?」
ミケ「い・・・いやっ。あれは、作者が、わしが祈った方が劇的になるち、言うてやなぁ・・・。」
比古麻(ひこま)「げ・・・劇的?」
そこへ比古麻の父、天道根命(あまのみちね・のみこと)(以下、ミチネ)もやって来た。
ミチネ「おお、ミケ様、意識を取り戻されましたか・・・。」
ミケ「おお、ミチネか。心配かけてすまなかったっちゃ。今、比古麻と話しちょったんやが、わしは、このまま高千穂に帰ることになっておるようや。」
ミチネ「タケミーの言っていた、スピンオフと言うやつですな。」
ミケ「タ・・・タケミーっちゅうのは誰ね?」
ミチネ「あっ! 言い忘れておりましたな。タケミーとは、武甕雷神(たけみかづちのかみ)のことにござりまする。」
ミケ「なっ!? そんな大御所が?! どういうことや!?」
比古麻(ひこま)「我が君から文が届いたのです。タケミーから、ミケ様の話を聞き、スピンオフがあるので、こちらに流れ着くかもしれぬと・・・。」
ミケ「わしが気を失っている間に、いろいろあったんやな・・・。サノたちは無事なのか?」
ミチネ「我が君たちは、息災のようですぞ。」
ミケ「そうか・・・。無事に嵐を脱したんやな・・・。」
比古麻(ひこま)「それから、天照大神(あまてらすおおみかみ)様にも会ったそうですぞ。」
ミケ「なっにっぃぃぃ!!! わしも会いたかったぁぁ!!!」
比古麻(ひこま)「それがしも同じ思いです。一緒に旅をしていれば、会えていたのかと思うと・・・。」
ミチネ「まあまあ、それは仕方のないこと・・・。それと、我が君から、言伝がありまする。」
ミケ「なんや?」
ミチネ「高千穂に戻ったら、吾平津媛(あひらつひめ)や岐須美美(きすみみ)様に、皆、元気にしていると伝えてほしいと・・・。」
ミケ「分かった。伝えておくっちゃ。では、サノたちも元気にしちょるということで、わしは、わしの物語を進めにゃな。」
比古麻(ひこま)「もう旅立ちまするか?」
ミケ「作者、曰(いわ)く、紙面の都合っちゃ。」
ミチネ「分かりもうした。では、ミケ様、愚息の比古麻もお連れくださりませ。」
比古麻(ひこま)「えっ!?」
ミチネ「登場回数が少ないと嘆いておったではないか。この機会に、御同行させてもらえ。」
ミケ「面白そうや。このまま、わしと共に高千穂に向かおうぞ。」
比古麻(ひこま)「良いのですか? 伝承には全く登場せぬのですよ?」
ミケ「いっちゃが、いっちゃが(いいよ、いいよ)。一人やと淋しいかい(から)、わしとしても気が楽になるっちゃ。」
こうして、三毛入野命は比古麻と共に高千穂に戻ることとなった。