環境が人間を作る【人間は~5】
今のあなたの環境は、これまでの人生であなたが考えてきたことのすべてを表している。私とて、その例外ではない。通りを歩いている人、スーパーマーケットで買い物をしているご婦人たちも、もちろんそうである。どの人も地球上で最も興味深く、最高の可能性を秘めている存在なのだ。
でも、この事実に気づいている人がいるのだろうか?
思考が、日常生活を映す鏡であることを知っているのだろうか?
ここで話しているようなことを考えたことが一度だってあるのだろうか?
残念ながら、大半の人々が、今の生活を維持することにのみ汲々としている。すなわち、現状を無意識に肯定しているのである。〝今とは違うものの見方をしてみれば、新しい人生が開ける〟という事実に気づいていないのだ。
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しかし、少し視点を変えてみれば、このとんでもない誤りを改め、成長していくことが可能となるのだ。だから、もっと素敵な生活を送ろうと決意しなくてはならない。もっと自由で、豊かな土地へ旅立ち、実りある人生を送ろうではないか。
私たちは、一人ひとり異なったDNA(デオキシリボ核酸)と呼ばれる二重螺旋染色体を持つユニークな存在なのである。今後、そしてそれ以前も、あなたと同じ遺伝子構造を持つ人間が生まれることは、決してない。この宇宙に、あなたと同じ遺伝子結合を持っている人間は、まったく存在しないのである。
両親や何千人もの祖先がキャンバスにあなたを描いてきたのである。生まれた後には、遺伝に環境という要素が加わる。この複合作用で、考え方の枠組みが決まってくるのだ。あなたの才能と欲求は、私だけでなく他のだれのものとも違う。したがって人と同じことをする必要など、どこにもないのである。
同じものが一つとしてない遺伝子が無数にあるということは、人間にそれだけ多種多様な選択の余地があるということである。育った環境がよければ、高い教育を受けることができ、両親の学歴が高ければ、精神形成期における将来の幅も広がっていく。
しかし、このような理想的な経歴を持つことのできる人は、ごくわずかしかいない。人はすべて環境の影響を受けている。もし環境を多少なりとも変えていきたいと思うなら、自己開発が必要となる。
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もの心つき始めたころから、現在までのあなたの環境を考えてほしい。子どものころに住んでいた家、近所の人たち、家族はどうであったろうか? 両親の学歴、近所の人々の教育程度は? また生活レベルは、上・中・下のどのレベルにあっただろうか?
生活レベルは、あなたに計り知れない影響を与えるものであり、現在の生活パターンを作りあげている基礎なのだ。
あの裕福な経営者の子どもたちも、環境の影響を受ける。おそらく、現在の生活──快適な住環境、一流の学校、高級車、美しい家具、いろいろな設備の整ったマイ・ルーム、家政婦を当然のものと思っているはずだ。金持ちの子どもは、豊かな環境で生きていることになんの疑問も抱かない。
貧乏な人の子どもも、今の生活になんの疑問も持たない。冬は寒く、夏は息がつまりそうなほど暑い、ほこりだらけの乱雑な部屋、朝食抜きの通学、栄養不良になっても医者とはまったく無縁な生活、これが日常なのだ。さまざまな国の子どもたちの大半は、この両極端の間のどこかにいるのである。
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経営者の子どもは、当然大きくなったら大学へ進学しようと思っている。つき合っている子どもたちも大学へ行くのは当たり前だと思っている。生活は何も心配はない。関心といえば、生活をさらにレベル・アップさせることぐらいである。
頭の中で考えている大問題とは、自分の身分にふさわしい大学に入り、卒業後の職をどうするか、という程度のことである。成功するか失敗するかは、ティエラ・デル・フエゴ(訳注…南米南端に位置する諸島)で話される言葉同様に、ほとんど無関心なのである。しかし、このような恵まれた環境に生まれる子どもは、先進国の全人口のわずか3%にすぎない。たぶん、両親は苦労して現在の地位を築いてきたに違いない。だが、子どもたちにとって、成功は生まれたときから存在していたのである。
そして、もちろん住居、家族の友人、両親という財産は、さらに地位を高めるために役立つだろう。(つづく)
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『人間は自分が考えているような人間になる』
きこ書房